真夏でも真冬でも高齢になってくると、自分ひとりでお風呂に入ることが大変になり、毎日入らなくなる、という人やご家庭もあるかもしれません。しかし、高齢者こそ、お風呂に入ってもらいたい。お風呂の健康効果が高いことはもとより、最近になって明らかになってきたのが「うつ」を予防できる可能性がある、ということ。今回は、お風呂ドクターで医学博士の早坂信哉先生の研究により判明した追跡調査・解析をもとにお届けしてきます!
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毎日お風呂に入る人のうつ発症は0.76倍に!
高齢者において、うつの発症はさまざまな疾患のリスクとなり、要介護状態に陥りやすく、予防は重要です。日本では、浴槽に浸かる特有の入浴法が国民の生活習慣となっていますが、これまでこの生活習慣としての浴槽入浴とうつ発症との関連は明らかではありませんでした。
そこで、生活習慣としてのお風呂(浴槽に浸かる入浴)のうつ発症の長期予防効果を明らかにするために、東京都市大学人間科学部 学部長・教授で医学博士の早坂信哉先生が、高齢者約3,200人の6年間にわたる追跡調査を実施。
研究方法と調査結果については以下の通りです。
【研究の方法と対象】
Japan Gerontological Evaluation Study(以下:JAGES)の一環として2010年、2016年に調査対象となった全国 14の自治体の65歳以上の11,882人のうち,日常生活が自立しておりかつ老年期うつ病評価尺度Geriatric Depression Scale (以下,GDS)というアンケート式の調査で4点以下でうつがなく、解析に必要なデータがそろっていて、夏の入浴頻度の情報のある3,220人、および冬の入浴頻度の情報がある3,224人をそれぞれ解析の対象としました。
コホート研究(追跡研究)として2010年に週0〜6回の浴槽入浴をしている人と週7回以上の浴槽入浴をしている人ぞれぞれの6年後のGDSが5点以上となったうつ発症割合をそれぞれ求めました。ほかの要因の影響を考慮して浴槽入浴とうつ発症の関連を検討するために、ロジスティック回帰分析という統計的な解析法によって年齢、性別、治療中の病気の有無、飲酒の有無、喫煙の有無、婚姻状況、教育年数、等価所得を調整して多変量解析を行いオッズ比(うつの罹りやすさ)を求めました。
研究結果から、
年齢や性別などほかの多くの要因を考慮した多変量解析の結果、夏の浴槽入浴回数が週0〜6回の人に対して週7回以上の人のうつの罹りやすさ(オッズ比)は0.84倍、冬の浴槽入浴回数が週0〜6回の人に対して週7回以上の人のうつの罹りやすさ(オッズ比)は0.76倍で、いずれも週7回以上浴槽入浴をしている人はうつに罹りにくく、とくに冬の浴槽入浴では統計学的有意差がありました。
(*冬の入浴回数による解析.有意差あり)
この結果は浴槽入浴の温熱作用を介した自律神経のバランス調整作用や睡眠改善などのうつ予防作用による習慣的実施の結果と推察されました。
結論として、
今回の追跡調査で、毎日浴槽入浴することで高齢者のうつ発症を予防できる可能性があることが初めてわかりました。つまり、浴槽入浴によって「気持ちがいい」、「よく眠れる」といった入浴の短期的で主観的な作用だけでなく、将来のうつ発症を予防する可能性がある大切な生活習慣であることが明らかになりました。
今回の研究対象は高齢者ですが、どの世代においても、お風呂に入ることは体と心の健康効果を高めてくれる生活習慣であることがこれまでのほかの研究でもわかってきています。
猛暑の夏、シャワーだけで済ませがちですが、心身の健康を考えて、浴槽入浴をする習慣を増やしてみてはいかがでしょう。入浴習慣がなかった人は、お風呂に入ること自体が苦手な人もいるかと思います。個人差もあるため、ムリのない範囲で入浴習慣を楽しめるといいですね。
■発表論文
Shinya Hayasaka, Toshiyuki Ojima, Akio Yagi, Katsunori Kondo. Association between tub bathing frequency and onset of depression in older adults: a six-year cohort study from the JAGES project. The Journal of Japanese Society of Balneology, Climatology and Physical Medicine 87(2), J-STAGE Advance published (2 023年7月24日公開) https://doi.org/10.11390/onki.2359
参考:最新研究結果!毎日入浴する人はうつ病が少ない!?