マインドフルに食べることの対極にあるのは、不安や怒りです。ジャンクな食べものを選んだり、適切な量で満足できなくなったりします。ネガティブな感情があふれ、そういった“毒”をとり込みやすくなっている現代。「このような感情の毒を消してくれる特効薬が、人間の基本的な感情でもある“愛”と“思いやり”です」と話すのは、小児科医で禅の指導者でもあるジャン・チョーズン・ベイズ医師。今回は、ベイズ医師の著書『Mindful eating 人生が豊かになる食べ方の習慣』から、「愛」と「思いやり」を体に向ける練習をお伝えしていきます。
Contents 目次
「愛」と「思いやり」を体に向ける
前回お伝えしたように体や五感は食べたい欲求をもたらします。その体に批判的な感情ではなく、「愛」と「思いやり」を向けることが大切です。
「愛と思いやりは、もっとも基本的な親密さの感情です。自分の体の各部分に対して、ふだんからやさしい感情をもっていますか? 私たちは知らず知らずのうちに、自分の体への嫌悪感をためていることがあります」とベイズ医師は話します。
体の各部位にポジティブな言葉を送る簡単な練習です。短い瞑想のなかで行います。
ラクな姿勢で座り、目をとじ、体の各部位に順番に意識を向けます。そして意識を向けたところに対して、次のような言葉を心のなかで何回か唱えます。
「不調が起きませんように。穏やかでありますように。健やかでありますように」
脳はネガティブなことを引き寄せる
ニュースで流れる90%の事柄は事件・事故などについてです。不安をあおられ、怒りや憎しみなど負の感情をためやすくなりがちです。
「脳は、磁石のように“ネガティブな事柄”に引き寄せられる傾向があります。脳が潜在的な危険に注目するのは、身の安全を守ろうとするからですが、ネガティブな思考が横行する世のなかは、幸福を感じにくく生きづらいものです。脳の思考がネガティブな急流に押し流され始めたら、まずそれに気づく必要があります。その行きつく先にあるのは“怒りと憎しみ”という毒の池だからです」
自分が抱えるマイナスの感情が大きくなったら、「気づき」と「変化」がよい薬になります。
「思考を拾い上げて、ポジティブな流れに移してやる必要があります。この流れの先にあるのは“平和と安らぎ”という池です」
ネガティブな感情が体や自分に向かっていませんか。批判的な感情ではなく、「愛」と「思いやり」を向けてみましょう。そうすることで心や体に元気が湧き出します。それが心の飢えを癒やし、本来の食事の仕方であるマインドフルイーティングにつながっていくのです。
文/庄司真紀
参考書籍
ジャン・チョーズン・ベイズ著『Mindful eating 人生が豊かになる食べ方の習慣』(石川善樹監修、高橋由紀子訳、日本実業出版社)
著者
ジャン・チョーズン・ベイズ
小児科医、瞑想の指導者。オレゴン州の禅宗寺院「Great VowZen Monastery」代表。本書で紹介するマインドフルネスの練習はここで開発され、実践を通して改良されている。これまで30年以上にわたり「マインドフルな食べ方」を個人や医療従事者に指導してきた。趣味はガーデニング、陶芸、マリンバ演奏。著書に『「今、ここ」に意識を集中する練習』(日本実業出版社)がある。
監修者
石川善樹(いしかわ よしき)
予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業。ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きる(Well-being)とは何か」をテーマに、企業や大学と学際的研究を行なう。専門は予防医学、行動科学、機械創造学など。講演や雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)、『問い続ける力』(筑摩書房)、『健康学習のすすめ』(日本ヘルスサイエンスセンター)ほか多数。監修に『「今、ここ」に意識を集中する練習』(日本実業出版社)などがある。