水泳やランニング、ゴルフにテニスなど、さまざまな競技がありますが、挑戦するうちに「もっとうまくなりたい」「いいタイムを出したい」という気持ちが芽生えますよね。そう思ったとき、上達への近道はその競技の競技特性を知ること! 今回はコンディショニングトレーナーの桑原弘樹先生に、ランニングの競技特性を教えていただきました。
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ランニングは、エネルギー配分の競技
ランニングの競技特性と、ランニングのパフォーマンスを上げるポイントとはなんでしょう?
「ランニングは、疲れる瞬間がわかる競技です。よく“30kmの壁”なんていいますが、これはフルマラソンを走るトップランナーのへばるタイミングが大体30kmといわれるため。一般のランナーがフルマラソンのスピードで走る場合、90分走ったときにエネルギーの主役である体内のグリコーゲンがどんどん減り、脂肪が燃えにくくなります。これが “90分の壁”といわれる由縁です」(桑原先生)
100m走であればエネルギーを出しきって走るのが正解ですが、ランニングはエネルギー配分をする必要がある競技です。
そんなランニングのパフォーマンスを上げるポイントは2つ。ひとつは、“走行距離(練習量)”。
「やればやるほど上達する、というのはすべての競技に当てはまるわけではありません。しかし、ランニングの場合は走れば走るほどタイムが縮まります」
そして、2つ目は“体重(BMI)”。トップランナーのBMIは、ほかの競技の選手と比べても低く、体重を減らせばランニングのタイムは上がります。
ある程度走り込むことでタイムは早くなり、意識しなくても結果的にやせることができますが、ここからが落とし穴。
「トップランナーもこの法則にのっとってタイムが速くなります。ですが、『今月は雨の日が多くてあまり走れなかった』『タイムのためにもっとやせなきゃ』と思うことでパフォーマンスはだんだん上がらなくなるのです。むしろ、やせ過ぎが原因で、女性であれば無月経や貧血、疲労骨折といったマイナスの相乗効果さえうまれます。
サブフォー(フルマラソンを3時間台で完走)を目標としている人であれば、走行距離と体重を意識すればOK。もし、2時間台を目指すようなら、この考えから脱却しなくてはいけません」
パフォーマンスUPに欠かせない「糖質(グリコーゲン)」
エネルギーを効率的に使ってランニングのパフォーマンスを上げるには、栄養的観点を追求することも必要です。
栄養素のなかで、2大エネルギーとして使われるのが「糖質」と「脂肪」。糖質は「グリコーゲン(エネルギーの主役)」として体に蓄えられます。
「グリコーゲンは即効型のエネルギーとして使われます。どれだけあってもマイナスになることはないし、グリコーゲンが脂肪に変わることもありません。しかし、グリコーゲンを筋肉や肝臓のなかに蓄えられるキャパはその人なりに決まっているので、多少増やすことができても、脂肪のように無制限に増やせるわけではありません。
大会に出る人は、“少しでも多くグリコーゲンを蓄えること”、そのためにグリコーゲンリカバリーのために“どれだけグリコーゲンの材料をとり入れられるか”といった2つを意識してみましょう」(桑原先生)
糖質制限ダイエットなど、避けられることも多い糖質ですが、ランナーにとっては欠かせないものということですね。しかし、注意点も。
「糖質は基本的には○。ですが、一般的にトレーニングやランニングをする約1時間前から、単糖類や二糖類(ブドウ糖や砂糖)はとらないほうがよいといわれます。これは血液中のブドウ糖が増えて血糖値が高くなり、インスリン濃度が上がるため。
この状態で運動をすると、インスリンだけでなく筋肉も糖をとり込もうとします。つまり、低血糖の状態になってしまうんです。個人差もありますが、運動直後の低血糖は何ひとついいことがありません。そのため、トレーニングやランニングの1時間前においては、大量のブドウ糖や砂糖をとるのは避けましょう。ただし、バナナやマルトデキストリンなどそのほかの糖はOK。ブドウ糖と砂糖もランニングが終わったあとであれば、低血糖の状態なのでとり入れたいものです。つまり、ランニングにとって糖質は、タイミングによって善でもあり、悪でもあるといえますね。
ちなみにランニング前は、ごはん、おかゆ、ようかん、バナナ、ゼリーというように糖質を中心に固形から流動食に変えていくのがおすすめです」
では、エネルギーとなる糖質がなかったらどうなるのでしょうか。
糖質が減ることで体はたんぱく質を分解し、アミノ酸から糖を作ろうとする「糖新生」が起こります。アミノ酸からはやがてアンモニアが発生し、エネルギーを作る場所である「クエン酸回路」が回りにくくなってしまいます。こうなると、脂肪のとりこみもうまくいかなくなり、エネルギーの供給ができず体が疲れてしまうのです。
サプリメントをとり入れることで簡単に解決することも
“糖が足りない”、“クエン酸回路が回りにくい”といった問題は、サプリメントで簡単に解決することもたくさんある、と桑原先生。
「たとえば、エネルギー補給にCCDなど糖を中心としたスポーツドリンクをとり入れたり、走る前にHCA(ガルシニア)をとることでクエン酸回路をまわしやすくするなど、サプリメントが活躍します。
クエン酸回路で作られた材料をいよいよエネルギーに変えていく場所を電子伝達系といいますが、そこでATPといったエネルギーを作るために不可欠なのがコエンザイムQ10です。しかしコエンザイムQ10は、多くの人が体に足りていない成分。食事でまかなえず、20歳から減少していく成分なのでサプリメントからとり入れるのがよいでしょう。大会前など、通常の3倍量を5日間とり入れるローディングをすることをおすすめしています。
サプリメントはそのとき飲んだものがどこにどう効いているのかという知識を理解することが大事。すでに体に足りているものを補っても意味がありませんし、サプリメントをとり入れるときは、自分はどこが弱いのかを理解して補充する必要があります」(桑原先生)
今よりランニングのパフォーマンスを上げたい、大会でいい記録を出したいとがんばっているランナーのみなさん、ぜひ参考にしてみてくださいね。
文/FYTTE編集部