新型コロナウイルス感染症の対策として、世界中の企業でリモートワーク(在宅勤務)の導入が進むなか、座りっぱなしの姿勢が原因で腰痛に苦しむ人口が増えつつあります。その対策として、このたびリトアニアの研究グループが、体幹と筋肉を鍛える運動プログラムを考案し発表。腰痛が解消されるだけでなく、なんとその効果は一般的な筋トレの3倍も持続するのだとか。これからの「新しい生活様式」に備え体調を整えるためにも、「リトアニア流」を参考にできるかもしれません。
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生活の質に影響する腰痛
世界保健機関(WHO)によると、腰痛は生活の質(QOL)を低下させる病気やケガのトップ10に入っています。先進国では60~70%の人が、原因が特定されない腰痛を経験しているといわれています。腰痛は世界中で人々の身体活動を制限し、仕事の欠勤の主な原因のひとつにもなっています。腰痛による労働損失日数は英国で年間1億日、米国では1億4900万日にも及ぶそうです。日本の調査でも、腰痛は自覚症状があるもののなかで男女ともに上位に。国内外で腰痛は大きな問題になっているのは間違いなさそうです。
腰の痛みが長期間つづく慢性腰痛は、精神的にもストレスとなります。不安感が高まり、不機嫌になるだけでなく、うつ病さえ発症することも。また、吐き気、頻脈、高血圧といった身体的不調も引き起こします。そして新型コロナウイルス感染症の対策として、新しい働き方が導入されリモートワークが増えるなか、その健康への影響が心配されます。
その対策として、リトアニアのカウナス工科大学(KTU)とリトアニア体育大学の共同研究グループが、腰椎を支える筋肉を強化するスタビリゼーション・エクササイズの運動プログラムを考案しました。このプログラムは、静的運動と動的運動を組み合わせて、腰椎を安定させる筋肉を強化して持久性をつけるものです。最初はあお向けになって脚を伸ばして少し宙に浮かせます。そのように静的なポジションで6~20秒保ち、それから順に体勢を変えながら体を動かしていきます。こうしてセットを8~16回行うのです。ウェブサイトで運動のパターンが示されています。
研究グループは、この運動プログラムの効果を確認するため、70人の女性をここで示した「腰椎の安定性を高める運動プログラム」と「一般的な筋トレ」の2つのグループにランダムにふり分けました。いずれのグループにも、週に2回の45分の運動を20週間行ってもらいました。調査期間中に、超音波で対象者の筋肉を測定しています。
腰を安定させる運動で腰痛が改善
「腰椎の安定性を高める運動プログラム」のグループでは、運動開始から4週間で多裂筋(首から腰の脊椎の椎体をまたいで付着する小さな筋肉)が増えていました。このような腰の筋肉の増加は「一般的な筋トレ」のグループではみられませんでした。さらに、いずれの運動でも腰痛は軽減されていましたが、「腰椎の安定性を高める運動プログラム」の効果は3倍も長く持続していました。プログラムの終了後、「一般的な筋トレ」の効果は4週間持続したのに比べて、「腰椎の安定性を高める運動プログラム」の効果は12週間も持続していました。
研究グループは、「腰椎の安定性を高める運動プログラム」は薬による治療や腰痛を和らげる一般的な運動よりもより効果的で、再発予防にもなるといいます。
新型コロナウイルス感染症のための自粛生活で、これまでになかった体の不調が気になるところです。このような運動を取り入れて、うまく変化を乗り越えるとよいかもしれません。
<参考文献>
Keeping lower back pain at bay: exercises designed by Lithuanian researchers are 3 times more efficient than usual
https://en.ktu.edu/news/keeping-lower-back-pain-at-bay-exercises-designed-by-lithuanian-researchers-are-3-times-more-efficient-than-usual/
Sipaviciene S, Kliziene I. Effect of different exercise programs on non-specific chronic low back pain and disability in people who perform sedentary work. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2020;73:17‐27. doi:10.1016/j.clinbiomech.2019.12.028
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/31923778/
https://www.clinbiomech.com/article/S0268-0033(19)30617-5/pdf