新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の無症状の割合は意外に多い可能性があるかもしれません。感染者が判明したクルーズ客船を対象とした海外の研究から明らかになりました。世界で感染を広げないようにする対策が進められていますが、その難しさが浮き彫りになった形です。症状が軽かったり無症状であったりする感染者も含め、正確な感染者数の把握が必要と研究グループは提言しています。
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クルーズツアーに参加していた研究者が調査
日本でも1月にクルーズ船での新型コロナウイルス感染症の発生が世界的に注目されましたが、同じように感染者が発生したクルーズ船は国外にも多数存在しました。集団発生も世界中で報告されています。
そのひとつが、南米ウルグアイ沖に停泊するオーストラリアのクルーズ船「グレッグ・モーティマー」です。4月初旬に乗客217人のうち128人が陽性と判明したのです。このツアーの参加者として乗船していた豪州マッコーリー大学の研究者2人と医師1人が現場での感染拡大状況をまとめた結果をこのたび報告しました。
今回のクルーズ船によるツアーは、オーストラリアの旅行会社が企画した、英国探検家の南極探検を再現した21日間の航海でした。2020年3月半ばにアルゼンチンを出発。新型コロナウイルス感染症の感染者が船内で発生する事態となりました。乗船時にすべての乗客・乗員に対し健康チェックおよび検温が実施されました。
乗客・乗員に、直近3週間に当時感染が急速に拡大していた中国、マカオ、香港、台湾、日本、韓国、イランへの滞在歴がある人はおらず、感染防止のための手指消毒剤は船内各所(特にレストラン)に設置されていました。こうした環境下でどのような感染者がいたのかを調査しました。
陽性者のうち8割が無症状
この調査結果からわかったのは、陽性と診断された人のうち8割が無症状であったこと。さらに感染して間もない時期や症状が軽いときには、PCR検査でウイルスがいても検査では見落とされる傾向がありました。実際に感染している人も多い可能性があると、研究では指摘しています。
PCR検査で乗客・乗員を合わせた計217人のうち、128人が新型コロナウイルス陽性と診断されました。そのうち症状がみられたのは19%(24人)で、6.2%(8人)が医療救助を必要とし、3.1%(4人)に人工呼吸器が必要でした。死者数は0.8%(1名)。陽性者の81%(患者104人)が無症状でした。ツアー開始の8日目に感染者が判明して、船内隔離が始まり、マスクの着用や屋内待機が求められましたが、徐々に感染が広がったとみられます。
研究グループによると、感染者が少なく見積もられる傾向があることから、PCR検査を症状によらず行うこと。そのうえで、下船してからも感染の可能性を注意する必要があると指摘します。新型コロナウイルス感染者との接触後の対応で参考にするとよさそうです。
<参考文献>
Prevalence of ‘silent’ COVID-19 infection may be much higher than thought
https://www.bmj.com/company/newsroom/prevalence-of-silent-covid-19-infection-may-be-much-higher-than-thought/
Ing AJ, Cocks C, Green JP. COVID-19: in the footsteps of Ernest Shackleton [published online ahead of print, 2020 May 27]. Thorax. 2020;thoraxjnl-2020-215091. doi:10.1136/thoraxjnl-2020-215091
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32461231/
https://thorax.bmj.com/content/early/2020/05/27/thoraxjnl-2020-215091