夏は、ニオイが気になる季節です。汗のニオイで、周囲の人を不快にさせているのではないかと心配になることもありますよね。そんな汗臭の原因を『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』の書著で、ニオイにくわしい医師の桐村里紗先生にうかがいました。
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サラサラ汗はにおわない。ベタベタ汗が要注意
夏になると、体のニオイが気になってきます。いったいどうしてなのでしょうか。じつは、高温多湿という日本の夏は、体がニオイやすい条件が揃っているのです。
「体のニオイ=体臭は、皮膚の表面から立ちのぼる”皮膚ガス”です。この中には、体内で作られたり、皮膚表面で常在菌が作り出すさまざまなニオイ成分が含まれ、これらが汗とともに揮発して、ニオイとなって皮膚から立ちのぼってきます。ニオイ成分は蒸気にとどまりやすく、湿度の高い夏は、大気中にモワモワとニオイが残りやすいのです。さらに、体温も高くなることで、皮脂の分泌も増えるため、汗と皮脂のニオイが渾然一体となって、よりニオイやすくなります」(桐村先生)
夏に、特に気をつけたいのは、汗のニオイです。汗には、エクリン汗腺とアポクリン汗腺から出る2種類があり、一般的に気になる汗臭をもたらすのは、エクリン汗腺からの汗です。
「エクリン汗腺は全身にあって、暑さや運動で体温調節が必要になると、ここから汗が出てきます。汗の99%は水分で、残り1%はナトリウム、尿素、アンモニア、イソ吉草酸などの脂肪酸です。汗のニオイは、これらの成分が皮膚の常在菌のエサとなり、分解されて発生するニオイ成分が原因です。しかし、水分が多いサラサラした汗は、皮膚の上ですぐに蒸発するため、におうこともありません。ところが、汗のナトリウム等の濃度が高くなると、ベタベタした汗となり、皮膚に止まりやすく、常在菌のエサも豊富になるため、においやすくなります」
では、サラサラ汗とベタベタ汗の違いは、どのようにして起こるのでしょうか。
「汗は、血液をろ過して作られています。このとき、ナトリウムなども汗と一緒に排せつされますが、汗腺には体に必要なナトリウムなどを再吸収させる機能が備わっています。この機能がきちんと働いていると、汗は、ほとんどが水分となり、サラサラになります。ところが、日頃から汗をかく習慣がないと、汗腺の再吸収の機能が低下。汗の中にナトリウムなどが排せつされてしまうため、ベタベタ汗になってしまうというわけです」
めったに汗をかかない人の汗ほど、においやすい
じつは、夏の始まり頃の汗は、ベタベタ汗になりやすく、においやすい傾向にあります。そもそも汗の役割は、体温調節です。暑さで体温が上がりすぎないように、汗をかき、蒸発するときの気化熱で体を冷やしているのです。そのため、秋から春にかけては、汗腺は休眠モード。夏になって急に汗をかき始めても、休眠モードだった汗腺はしっかりと働かないため、ベタベタ汗になってしまうというわけです。
「しかし、ベタベタ汗のニオイが気になるからといって、汗をかかないでいることは、ニオイ対策には逆効果。汗はかけばかくほど、汗腺の機能は高まり、ベタベタ汗からサラサラ汗になります。
本来なら、5月頃から少しずつ汗をかいて、汗腺を目覚めさせてあげるのがベスト。今年はコロナ禍の影響で自粛生活を余儀なくされ、汗をかく機会がなかった人も多いと思います。今からでも、汗腺を鍛えていけば、サラサラ汗をかけるようになります」
桐村先生がすすめる汗腺を鍛える方法は、入浴です。「これまで運動をしなかった人が、急に炎天下に運動を開始するのは危険。入浴のほうが安全です。湯船にお湯を張って入浴することで汗をたくさんかけます。1日おきでOKです」とアドバイスします。
ベタベタ汗は、ニオイやすいだけではなく、脱水や熱中症リスクも高まるといいます。
「ベタベタ汗には、本来、体に必要な塩分などのミネラル分が排出されて含まれているため、脱水を起こしやすくなります。さらに、サラサラ汗に比べて、皮膚の上で蒸発しにくいため、気化熱が発生しにくく、体温を下げるまでに時間がかかり、熱中症リスクも高まります。特に運動中は、ニオイを気にして汗を抑えてしまうのは危険です。しっかり汗をかいて、水分と塩分を補給しましょう」
取材・文/海老根祐子