熟練の登山者やトレイルランナーでなくても、気温が高い時期にはこまめな水分補給がとても大切なのは誰もが知っているのではないでしょうか。登山においておおよそ25%の熱中症は、極度の暑さが原因というより、むしろ「水分不足」のよう。海外の研究グループが、暑さにさらされる環境において体内で何が起こっているのかを分析。登山者が特に気をつけたい熱中症の対策方法をアドバイスしています。
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暑い日と涼しい日の影響の違いは?
今年は旅行も困難が伴いますが、そうしたなかでもレジャーで山に登る人もいるでしょう。登山では暑いなかで長時間にわたって歩くこともあり、水分補給は欠かせません。こうしたときに水を飲むベストなタイミングはいつなのでしょう。
このたび米国アリゾナ州立大学の研究グループは、20代の男女12人(女性7人、男性5人)を対象として、アリゾナ州フェニックス近郊にある標高約456mのキャメルバック・マウンテンと同じ登山距離、傾斜と同じになるように歩いてもらい、男女での身体的な負担の差を調べています。このキャメルバック・マウンテンは登山者に人気のある岩山ですが、毎年多くの熱中症患者が発生することで知られ、その条件を再現して実験を行ったのです。
研究グループは、登山中のエネルギー消費量の推定値を出すために、登山開始前の安静時代謝を記録。そのうえでふだん通りのペースで水分をとってもらいながら、無理のない範囲でできるだけ速く歩くように指示しました。気温が高いとき(31.6℃)と低いとき(19.0℃)で歩行速度や生理現象、水分摂取量がどう変わるのかをリアルタイムに測りました。
暑い日は水分が足りなくなっている
その結果わかったのは、やはり気温が高いと熱中症のリスクが高いということ。それだけに水分量が不足しやすいということです。
具体的には、気温が高い環境では登山者の歩行速度が落ち、厳しい暑さにさらされる時間がより長くなり、熱中症のリスクが高くなります。気温が低い環境に比べて平均約20分長く時間がかかり、体の負担が高まっていることがわかりました。歩行速度は11%低下、有酸素容量は7%低下、運動の負担の感じ方は19%増加、中核体温は0.7℃上昇です。
翌朝の尿検査で見ると、気温が高い環境では対象者の75%が、気温が低い環境では対象者の67%が水分補給不足状態とわかりました。運動習慣があまりない対象者は、ふだんから運動習慣がある対象者よりも暑さの影響を受けやすいことも示されました。
着目したのは体重の減り方です。登山者の体重は全員が1%程度減っていたのですが、それも気温の高い場合は水筒が空になるほど水を飲んだうえでのこと。研究グループは、特に気をつけたい点として、「気温が高い環境で90分以上、長い時間歩くとなった場合、飲みものを十分に携帯していなければ、それ以上の体重減少につながる可能性がある」と指摘します。
研究グループによると、現行の登山者ガイドラインは浅く広くカバーしており、水分のとり方についての記述が甘いとのこと。登山の際の熱中症対策には、各自がそれぞれ自分はどれだけの水分補給が必要か把握しておくことが重要と研究グループ。登山によって体重の1%以上も減ってしまっているなら、水分補給がもっと必要だと考えるとよいといいます。この研究結果は、トレッキングなどに出かけるときの水分補給の目安にするとよいかもしれません。
<参考文献>
Why hydration is so important when hiking in the heat of summer
https://asunow.asu.edu/20200709-discoveries-why-hydration-so-important-when-hiking-heat-summer
Linsell JD, Pelham EC, Hondula DM, Wardenaar FC. Hiking Time Trial Performance in the Heat with Real-Time Observation of Heat Strain, Hydration Status and Fluid Intake Behavior. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(11):4086. Published 2020 Jun 8. doi:10.3390/ijerph17114086
https://www.mdpi.com/1660-4601/17/11/4086
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32521686/