夏は、汗のニオイが気になる季節です。汗には、体温調節のためにかく汗のほかに、緊張したときなどに出てくる“精神的発汗”もあります。困ったことに、この精神的な汗はニオイやすいベタベタ汗。更年期症状のひとつ、ホットフラッシュによる汗も同様です。精神的発汗について、『日本人はなぜ臭いと言われるのか~体臭と口臭の科学』の書著で、ニオイにくわしい桐村里紗先生にうかがいました。
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プレゼン前のワキ汗。運動中の汗と何が違う?
プレゼンやスピーチなど失敗が許されない場面で、手に汗をかいたり、ワキ汗でわきの下がぐっしょりぬれてしまったという経験はありませんか? これは、緊張したときに出てくる“精神的発汗”です。いわゆる“冷や汗”も精神的発汗のひとつです。エクリン汗腺から出る汗ですが、体温調節のために出る汗と違い、頭皮、ワキの下、手のひら、足裏という特定の部位に多くかきます。この精神的発汗は、ベタベタ汗になりやすく、ニオイやすいので要注意です。
「汗は血液がろ過されて作られますが、そのときに体に必要なミネラル分などは再吸収されます。たとえば運動したときは、全身でじわじわと汗をかき始めるので、この汗腺の再吸収機能がしっかり働きます。一方、精神的発汗は、一気に汗をかくことから、再吸収が間に合わず、ベタベタ汗になってしまうため、ニオイやすくなるのです。さらに、ストレス状態にあると、汗にアンモニア成分を含みやすくなることも、におう原因になります」(桐村先生)
更年期にかく汗も、ニオイやすい
更年期に、女性ホルモンの減少で、自律神経症状として多量の汗をかくことがあります。ホットフラッシュと呼ばれることもありますが、このときの汗も精神的発汗と同じで、急にどっと吹き出してくるため、ニオイやすくなります
「女性の閉経年齢は、45~55歳といわれています。閉経の前後5年を更年期といいますが、早い人なら40歳頃から、ホットフラッシュを経験するかもしれません。また、女性ホルモンの減少で、皮脂が酸化しやすくなり、加齢臭も加わってきます。更年期以降は、総合的に体臭が変わってくる時期ととらえておくといいでしょう」
日本人の多くは、アポクリン腺が退化している!?
汗腺には、体温調節のために働くエクリン汗腺と、もうひとつアポクリン汗腺があります。アポクリン汗腺は、わきの下、陰部、肛門、乳輪、耳の中に存在しています。アポクリン汗腺からの汗は、たんぱく質、脂質、糖質、アンモニア、鉄分などを含み、常在菌に分解されたときに独特のニオイを発生します。いわゆる腋臭=ワキガです。日本人でアポクリン腺があるのは、人口の10~15%といわれています。
「アポクリン汗腺が発達しているかどうかは、遺伝で決まります。優性遺伝であるため、片方の親がその体質であれば、半分の確率で遺伝します。耳垢が湿っていたら、アポクリン汗腺が発達していると思っていいでしょう。耳の中にあるアポクリン汗腺からの汗が耳垢を湿らすためです。
日本人の多くは、弥生系と縄文系のミックスです。弥生系は、もともと大陸の寒い地方で暮らしていた人種を祖先に持つため、アポクリン汗腺が退化しました。全人類の中で、アポクリン汗腺が退化しているのは、この人種だけです。一方、縄文系は、アポクリン汗腺が発達しています。しかし、日本人でアポクリン汗腺がある人は少数派です。日本人はとくに嗅覚に敏感なこともあり、ワキガで悩む人も多いのですが、世界に目を向けると、欧米人のほとんど、またアフリカ系では100%が、アポクリン汗腺が発達しています」
ワキガの治療には、アポクリン汗腺を除去する手術や、発汗を抑えるボトックス注射、毛根と一緒にアポクリン汗腺を焼却する方法などで、ニオイを軽減する方法もあります。気になる人は、専門医に相談しましょう。
取材・文/海老根祐子