女性の年齢に伴う妊孕能(にんようのう:妊娠できる能力)の低下は、加齢による卵子の質の低下が関係しています。体外受精の妊娠率のカギも卵子の質。このたび、オーストラリアの研究グループが、体外受精における卵子の質についてさらに踏み込んで調べました。すると卵子の質を高め、不妊治療の妊娠率を上げるある特徴が浮かび上がったそうです。
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約20人に1人が不妊治療で誕生
近年の晩婚化を背景に、加齢によって妊娠が起こりにくくなることで、不妊治療に頼らざるを得ない女性が増えています。オーストラリアでは、全出生児の約4%が体外受精により誕生しており、これは1学級あたり1人に当たります。日本でも全出生児の約20人に1人(5.1%)が体外受精を含む不妊治療で誕生しています(日本産科婦人科学会「仕事と不妊治療の両立に係る周知報告」)。
体外受精の妊娠率は、30歳以下の35%から40才以上になると8%にまで低下します。しかしながら、体外受精を受けるオーストラリア人女性の25%が40歳以上であるのが現状です。
このたびオーストラリアのクイーンズランド大学の研究グループは、卵子の成熟過程で染色体を各細胞に分離する働きをもつ「紡錘体(スピンドル)」に注目。高解像度の低速度撮影映像(Time Lapse Imaging System)を用いて卵子の成熟度を4年間観察し、分析しています。
細胞内の「代謝酵素」が卵子の成熟のカギに
するとわかったのは、卵子の質は、細胞における最も重要な代謝酵素である「NAD+」に大きく左右されることでした。研究グループが、卵子の成熟期における「紡錘体」の形成速度を追跡したところ、形成速度の「勢い」は、NAD+の細胞構築を維持する能力にかかっていることが示されました。そしてこの重要な酵素は「加齢とともに減少する」と研究グループは説明します。
「NAD+のレベルを一定に保てれば、自然妊娠や体外受精のいずれでも妊娠率を改善できる」と研究グループは考えており、「年々進歩する生殖補助医療の技術と合わせて、今回の研究結果は、体外受精に最も適した卵子の選択や、卵子の質の向上につながる可能性がある」と期待しています。さらに研究は必要になりそうですが、細胞内にあるひとつの化学物質の量を増やせれば妊娠の成功が増えるのかもしれません。
<参考文献>
Women’s egg quality dependent on metabolic factors
https://medicine.uq.edu.au/article/2020/07/women%E2%80%99s-egg-quality-dependent-metabolic-factors
Wei Z, Greaney J, Loh WN, Homer HA. Nampt-mediated spindle sizing secures a post-anaphase increase in spindle speed required for extreme asymmetry. Nat Commun. 2020;11(1):3393. Published 2020 Jul 7. doi:10.1038/s41467-020-17088-6
http://dx.doi.org/10.1038/s41467-020-17088-6
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32636388/
日本産科婦人科学会「仕事と不妊治療の両立に係る周知報告」
http://www.jsog.or.jp/news/pdf/20180903_kourousho3.pdf