認知症はいまや若いうちから身近な問題。生活習慣やふだんの活動は将来の認知症のリスクにもつながるとわかってきているからです。男女ともに気にしておきたい問題ですが、海外の研究から女性への朗報がもたらされています。女性は男性よりも認知症の大半を占めるアルツハイマー病になっても長寿だというのです。秘密は遺伝的な特徴にあるといいます。
Contents 目次
認知症の多くを占めるアルツハイマー病
認知症とひと口にいっても、そのなかにはさまざまな病気が含まれています。アルツハイマー病やレビー小体型認知症、脳血管性認知症などがあり、なかでも認知症の大半を占めているのがアルツハイマー病となっています。認知症はさまざまな判断を難しくする認知機能の低下につながる病気で、アルツハイマー病は脳のなかにアミロイドベータという老廃物がたまるために起こると考えられています。アルツハイマー病に至る原因は生活習慣や日常の活動などが影響すると考えられ、世界中で研究が進んでいます。
米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校の研究グループは、女性が認知症になったあとに男性よりも長寿であるところに着目し、その原因を探りました。動物実験から、認知症になった場合、女性が抵抗性を示す背景に何があるのかを分析したのです。
性別を決める「染色体」に抵抗性の理由が
こうしてわかったのは、女性のもつ性別を決める「性染色体」に認知症から体を守る効果があるということでした。
体の設計図になる遺伝子は、すべての細胞がもっている「X」の形をした23対の染色体のなかに組み込まれています。これら23対の染色体のうち1対が性別を決めていると知られています。女性は2本のXの形をした染色体、男性はXの形をした染色体とYの形をした染色体のXYの組をもちます。このたび女性のX染色体のなかに認知症から身を守る遺伝子が存在するようであると判明したのです。
研究グループが見つけたのは「KDM6A」という遺伝子です。男性も女性ももっているのですが、性染色体のなかでもX染色体にのみ存在するので、男性では性別を決めるX染色体を1本しかもたず、女性の半分にとどまることが関係するとみられました。
このX染色体のおかげで、女性はアルツハイマー病で問題になるアミロイドベータという老廃物によって受ける悪影響が小さくなると確認。女性のKDM6Aの働きが活発であるために心身が守られている可能性があるようなのです。認知症のなりやすさは、細胞の違いとも関係するといえ、認知症対策を考えるうえで今後の参考になりそうです。
<参考文献>
Davis EJ, Broestl L, Abdulai-Saiku S, et al. A second X chromosome contributes to resilience in a mouse model of Alzheimer’s disease. Sci Transl Med. 2020;12(558):eaaz5677. doi:10.1126/scitranslmed.aaz5677
https://stm.sciencemag.org/content/12/558/eaaz5677
Female Chromosomes Offer Resilience to Alzheimer’s
https://www.ucsf.edu/news/2020/08/418291/female-chromosomes-offer-resilience-alzheimers