寝る前にホットミルクを飲むとよく眠れる──。それは「トリプトファン」という必須アミノ酸が含まれているからと一般的に考えられています。このたびストレスを緩和してよい睡眠に導いてくれる、ホットミルクのさらなる成分が解明されました。将来、ナチュラルな睡眠薬に応用できる可能性さえあるようです。
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ミルクのプロテイン、カゼインの分解物を検証
注目されているのはトリプトファンというアミノ酸のひとつです。体をつくるたんぱく質は20種類のアミノ酸がつながったものですが、トリプトファンはこうしたアミノ酸のひとつです。
トリプトファンは体内でホルモンのセロトニンやメラトニンの材料となってストレスを緩和し、よい眠りに関連すると考えられています。睡眠に導く方法としては、このほかに脳神経の興奮を抑える「GABA受容体」を活性化する方法も一般的に知られています。
今回の研究グループによると、ミルクに含まれているたんぱく質のひとつ「カゼイン」も消化されると眠りを誘うような作用につながるさまざまなペプチド(小さいたんぱく質のこと)をつくり出すようです。これらのペプチド(まとめて「カゼインのトリプシン加水分解物」と呼ばれます)のなかでは、これまでに「αカソゼピン」というペプチドが、よりよい睡眠に関係する働きがあると特定されています。
今回、華南理工大学など中国の研究グループは、カゼインが分解されてできたペプチドのなかに、もっと強力に睡眠を改善してくれるものがないかを調べています。
有望な2種類のペプチドを特定
まず、カゼインが分解されてできるペプチド全体と、αカソゼピンだけの効果を比べると、睡眠を改善する効果においては、ペプチド全体の場合、睡眠時間が2倍近く長くなることがわかりました。
研究グループによれば、αカソゼピンより強力なペプチドがカゼインを分解した成分のなかに含まれていると考えられるようです。そこで研究グループはほかのペプチドを対象として、眠りと関連するGABA受容体との結合や、脳に到達する能力などを調べてみました。
その結果、睡眠をよくする作用が特に強い2つのペプチドが判明しました。とりわけトップのペプチド(「YPVEPF」と呼ばれています)は、動物実験において寝つくまでの時間がおよそ25%短くなり、睡眠時間は4.5倍近くなると確認できました。さらに、この有望なペプチドのほかにも、別のメカニズムで睡眠をよくするペプチドが含まれているはず、と研究グループは指摘。研究を進めて将来は副作用のない自然な睡眠薬につながることも期待されるといいます。
ホットミルクのなかには驚異的なペプチドが含まれている可能性があるというわけで、眠れないときには口にしてみると効果的なのかもしれません。
<参考文献>
Warm milk makes you sleepy — peptides could explain why
https://www.acs.org/content/acs/en/pressroom/presspacs/2021/acs-presspac-october-13-2021/warm-milk-makes-you-sleepy-peptides-could-explain-why.html
Qian J, Zheng L, Su G, Huang M, Luo D, Zhao M. Identification and Screening of Potential Bioactive Peptides with Sleep-Enhancing Effects in Bovine Milk Casein Hydrolysate. J Agric Food Chem. 2021 Sep 29;69(38):11246-11258. doi: 10.1021/acs.jafc.1c03937. Epub 2021 Sep 20. PMID: 34543014.
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acs.jafc.1c03937
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/34543014/