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生理の悩み。パートナーとどう乗り越える? 五輪メダリスト・小松原組に聞く <スポーツとフェムケア 前編>
生理やPMSなど女性特有の不調をケアするサービスやアイテムを指す「フェムケア」(フェムテック)がいま注目されていますが、生理の不調に悩むのはトップアスリートも例外ではありません。そこで、今回は北京五輪でフィギュアスケート・アイスダンスの日本代表として活躍、団体戦銅メダルを獲得した小松原美里選手と小松原尊選手に「スポーツとフェムケア」をテーマにインタビュー。競技のパートナーでもあり、ご夫婦でもあるお二人に、アスリートならではの生理の悩みやそのつき合い方、パートナーシップのコツなどについて、うかがいました!
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初めての生理が来たのは、まさかの大会本番前…!
――女性アスリートにとっても生理の悩みは身近な話題だと思います。今回、女性、男性それぞれの立場から小松原美里さん、尊さんのお二人にお聞きしたいお話は、ズバリ「生理の不調との付き合い方」についてです。さっそくですが、美里さんはこれまでに生理で困ったことはありますか?
美里さん:印象的だったのが、初めて生理が来たときのことです。私は当時、体が細く、生理が来たのが16歳と遅かったんですけれど、そのときはなんと大会中…! しかも本番前の公式練習が終わったタイミング。なんだか調子が悪くってトイレに行ったら、まさかの生理で。まわりの大人に助けを求め、なんとか対処しましたが、成績はボロボロでした…。
――大会中に初めての生理というのは、大変でしたね…。ちなみに、生理中は実際にどのような不調が出やすいですか?
美里さん:まず、食欲が増しますね。競技に影響することとしては、生理中は腹部のインナーマッスルが使いにくくなるので、ふだん意識しなくてもできる動きができないことがあります。たとえば、体を高く持ち上げてもらうリフトのときはインナーマッスルを働かさなければいけないのですが、それが難しい。そのうえ、体はむくむし、貧血ぎみだし。何倍もがんばって、やっといつもと同じパフォーマンスができるという感じ。イライラしてまわりに当たり散らすタイプではありませんが、いつもより集中しないといけなくなるので、すごく疲れます。
――練習中などで調子が出ないとき、尊さんには伝えますか?
美里さん:はい、「ティム(尊さん)にイラついているわけではないんだよ、ただ元気が出ないだけ」って、伝えています。
――尊さんはこうした話をどのように受け止めていますか?
尊さん:ぼくは姉が2人いるので、生理の話を特に恥ずかしいこととは思いません。でも、男性では珍しいほうだと思います。これまでのパートナーとは組んでいた時間が短く、距離が近くはなかった。だから、こういう話は出てこなかったんですが、美里とはお互いにたくさんしゃべるようになり、女性の不調のつらさや痛み、ときには距離をとって一人の時間が必要になることもあるんだなといったことが、わかるようになってきました。
伝えてくれないと、「気分が悪そうだけど、ぼくが何かしたのかな?」「怒っているのかな?」って、考えちゃいますよね。以前はそれで一人で悩むこともあったから(笑)、美里が「生理でしんどいです」とはっきり伝えてくれることは、とても助かります。それでぼくも気持ちがラクになりましたね。
伝えること、理解し合うことで前に進める
美里さん:同性同士でも、生理の症状が軽い女性に理解してもらうことが難しいこともありますが、痛みや症状は人それぞれ違うので比べるものではないですし、それに自分の体調を伝えるのは恥ずかしいことではないです。
でも、じつは練習のときに、ほかのパートナーに生理の不調を伝えたら、「そんなの関係ない」みたいに言われたことがあって。そのときはうわ~どうしようって感じでした。
尊さん:それは大変だったね…!
美里さん:私が生理でしんどいとき、ティムは「じゃあ、今日は何ができる?」って聞いてくれるので、すごく助かります。そういったコミュニケーションがあれば、前に進めますし、ティムが困ったときには私も助けてあげたいな、って思いますね。
尊さん:ぼくだって調子が出ない日はあるから、お互い様だよね。
「お互いに理解が深まれば、なんでもできる!」と伝えたい
――今回、生理といった女性特有の不調がテーマですが、尊さんは男性側の理解の必要性についてどう感じていますか?
尊さん:以前、男子更衣室でほかの選手が「今日は(パートナーの女性が)生理だからイヤだな」と話しているのを聞いたことがあって、よくないなと思いました。そんなふうに思うのは、あなたがパートナーの気持ちをわかっていないからじゃないか、と。女性がイライラしている理由は生理とは限らないし、もしそうだったとしても、頭が痛い、疲れやすい、集中しづらいといったことがあるんだなと理解できれば、女性の不調に対する男性の受け止め方はもっと違ってくるのかなと思います。
スポーツの世界でもみんなそれぞれで、お互いに話し合いができている、できていないなど、いろいろなパターンがあると思います。いまはプロフェッショナルなチームにいるので、周囲の選手はみんな話し合いがじょうずですね。だから、特に若い選手には、自分たちのスポーツはパートナーの理解、コミュニケーションがいちばん大事だとわかってほしいな。お互いに理解できれば、なんでもできますよ、と。
美里さん:そうそう! それは競技をするうえでのことだけではなくて、仕事仲間などでも大切なことだと思います。
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たくさんのことを語り合い、お互いを尊重しながらお二人ならではの関係性を築いてきた美里選手と尊選手。後編では、今後の競技生活への抱負と美里選手が注目しているフェムケア、そして小松原家が描くライフプランについてお聞きしました!
<Profile>
●小松原 美里
こまつばら みさと
1992年生まれ。岡山県出身。2016年に尊選手とアイスダンスのカップルを結成し、2017年に結婚。2021-22シーズン全日本選手権を制し、五輪代表に選出。
●小松原 尊
こまつばら たける(ティム・コレト)
1991年生まれ。アメリカ合衆国出身。シングルスケーターとしてキャリアをスタートし、2013年にアイスダンスに転向。2020年11月に日本国籍と日本名を取得。
取材・文/馬渕綾子 撮影/我妻慶一