日本気象協会による長期予報によると、今夏の平均気温は平年並み~平年より高く蒸し暑い日が多くなるといわれ、猛暑の可能性も大です。そこで気をつけたいのが熱中症ですが、最近の研究で、毎日の運動後にヨーグルトを摂取することで、暑さに負けない体が作れることがわかりました。そこで、その研究を発表された信州大学大学院の増木静江先生と、能勢博先生にくわしくお話を伺いました。
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年々増加中! 今年の夏も熱中症に注意しよう!
地球温暖化による気温上昇に伴って、熱中症が増えるこの季節。救急搬送される人が年々増えているのはもちろん、人口動態統計(厚生労働省統計情報部)(※1)によれば、熱中症で命を落とす人も増加傾向にあります。とくに、熱ストレスに強い若年層よりも、高齢者になるほどそのリスクは高まります。
※1出典https://www.nies.go.jp/kanko/kankyogi/32/10-11.html
熱中症になるメカニズムは?
熱中症は、高温多湿な環境に長時間いることで体内の水分や塩分(ナトリウムなど)のバランスが崩れて体温調節機能がうまく働かなくなり、体に熱がこもってしまうことで起こります。症状としては、めまいや頭痛、けいれんや吐き気などさまざまですが、重い場合は死に至る危険性があるので、決して軽視できません。
「運動すると筋肉で熱が産生され、その熱が体内を循環することで体温が上昇します。真夏に屋外で運動をしたとき、もし人の体に熱を放散する機能がなければ体温は39度を超えて、熱中症のリスクが非常に高まってしまいます。これを防止するために、わたしたちは主に2つの熱放散の機能を備えています。
ひとつは皮膚血流の上昇です。これによって大気と体温の温度差で熱を放散することができます。そして、もうひとつが発汗です。かいた汗が気化するときに皮膚表面から熱を奪って体温を放散してくれるのです。つまり、皮膚の血流と発汗の働きを高めれば、体温の上昇を抑制して、熱中症のリスクを下げることができると言えます」(増木先生)
では、どうやって皮膚の血流と発汗の働きを高めればいいのでしょう?
「体温を調節する働きをよくするには、血液の量を増やすことがすごく大切です。血液の量を増やすには、血液中のアルブミンというたんぱく質を増やすことが重要なのですが、それが行われるのが肝臓。そして、肝臓でアルブミンの合成が非常に促進されるタイミングが、運動直後ということがわかっています。運動直後に血液の材料となるたんぱく質を摂取することで、より合成が促進されるのです。また、たんぱく質と糖質を一緒にとることで血糖値を下げる唯一のホルモンであるインスリンが出て、さらにアルブミンの合成を促します。このたんぱく質と糖質が一緒にとれる優良食品が『ヨーグルト』です」(増木先生)
研究結果からわかった、熱中症予防に効果的な「ヨーグルト」は運動後に摂取がカギ
また、熱中症を予防するために、一定以上の強度の有酸素運動トレーニングを行うことが推奨されています。
「私たちは、真夏に健康な高齢者を対象とした屋外インターバル速歩トレーニングにおいて、運動後のヨーグルト摂取が心血管系負荷を軽減するかどうかを研究しました。インターバル速歩トレーニングとは、最大体力の70%程度(ちょっときついなと思うくらい)の早歩きと、ゆっくり歩きをそれぞれ3分ずつ5セット以上くり返す、能勢先生が提唱するトレーニングです。最大体力の60%以上の運動を行うことで、血液の量が増えることがわかっています。
このインターバル速歩を6か月以上継続している中高年者(平均年齢73歳)103名を対象に、無作為にゼリー群とヨーグルト群に分けて、7月下旬から8週間、インターバル速歩をした後にそれぞれゼリー飲料180g、または飲むヨーグルト318gを摂取してもらいました。すると、ヨーグルト群は30日目以降に、体温上昇の指標となる速歩時の心拍数が有意に低下したのです。これは、有酸素運動能と体温調節能がヨーグルトを摂取して30日以降に改善したためと考えられます。
本研究で摂取してもらったのは飲むヨーグルトでしたが、乳たんぱく質と糖質を含んでいるものなら、食べるタイプのヨーグルトでも問題ありません。ヨーグルトには、腸管での乳糖の消化吸収が促進されますので、下痢を起こしにくいというメリットもあると思います」(増木先生)
暑さに強い体を作るためには、日々の運動と、その運動直後にヨーグルトなどの乳製品をとることが重要ということがわかりましたね。
「ですが、今日が暑いから熱中症対策としてその日だけヨーグルトを食べても効果は得られません。高齢者の場合、効果が出はじめたのは継続摂取をして30日以降でしたが、若い方であれば5日くらいで効果がでることもわかっています。なので、今からヨーグルトの摂取を始めて、熱を体の外に放出できる体を、夏本番を迎える前に作っておきましょう」(増木先生)
「これから暑くなると、外で運動なんて…と思われるかもしれませんが、基本的に暑い日でも、大人なら30分以内であれば熱中症になるリスクはほとんどありません。ただし、体温調節能がまだ発達していない子どもは、体温よりも気温が高い場所で運動するのは厳禁です。
二日酔いや睡眠不足などのネガティブなコンディションではないときに、比較的に涼しい朝夕の時間帯にインターバル速歩をして、運動後にヨーグルトを摂取する習慣を身につければ、熱中症にならないばかりか、秋口には体重が減ったり、血圧が下がるなど、生活習慣病の改善も期待できます」(能勢先生)
また、能勢先生のお話しによると、体表面を脂肪で覆われた肥満の人、いわゆるメタボの人の場合、熱がこもりやすく熱中症リスクが高まるのだとか。運動+ヨーグルトの摂取を続けて、熱中症予防をしながら、肥満のお悩みをこの夏、少しずつ解消していきたいですね。
だんだんと外にお出かけをする機会が増えてきた今年、本格的な真夏がやってくる前に、ぜひ自分の体を守るための日々の習慣としてとり入れてみてはいかがでしょうか!
<監修者PROFILE>
増木 静江先生
信州大学大学院 医学系研究科教授。奈良女子大学生活環境学部卒業、信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了、信州大学大学院医学研究科修了。米国Mayo Clinic 麻酔科博士研究員、信州大学大学院医学系研究科助教、同研究科准教授を経て、2018年より現職。主な研究分野は「生活習慣病・介護予防のための運動処方」、「トレーニング効果を亢進(こうしん)させるための栄養補助食品」、など。
能勢 博先生
信州大学大学院 医学系研究科特任教授。京都府立医科大学医学部卒業。京都府立医科大学助手、米国イエール大学医学部博士研究員、京都府立医科大学助教授、信州大学学術院医学系教授を経て現職。画期的な効果で、これまでのウオーキングの常識を変えたと言われる「インターバル速歩」を提唱。信州大学、松本市、市民が協力する中高年の健康づくり事業「熟年体育大学」などにおいて、約15年間で約9700人以上に運動指導の実績をもつ。
文/奥沢ナツ