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腸内細菌研究の第一人者、内藤裕二先生に聞く! 腸内フローラを悪くする食べ物・よくする食べ物≪ヨーグルト研究家 花映の腸内研究エキスパート対談1・前編≫
子どものころから便秘に悩み、腸に関する医学書や論文を読み込んで自分に合った“パーソナル腸活”を探究してきたヨーグルト研究家の花映さん。そんな花映さんが尊敬してやまないのが、消化器科の医師として患者さんを治療し、腸内細菌と食事、健康、アンチエイジング(抗加齢)の関連を研究している内藤裕二先生です。今回、『FYTTE』で2人の対談が実現! 聞き手の花映さんが、内藤先生に近年の研究でわかってきた腸内フローラを悪くする食べ物、よくする食べ物をうかがっていきます。
Contents 目次
おじいちゃん、おばあちゃん世代と若い世代の腸内フローラは違う!?
花映:日本人の腸は欧米の人の腸に比べて長いと聞いたことがありますが、最近の日本人の腸に変化はあるのでしょうか?
内藤先生:長年、消化器科の医師としてたくさんの人の腸を診てきましたが、やっぱり日本人の腸は欧米の人より長いですね。でも、昔と比べると長い腸の人が減ってきているようです。
花映:そうなのですね! では、日本人の腸内フローラ(腸内にすむ細菌の集まり)にも変化はあるのでしょうか?
内藤先生:私たちの研究グループは、長寿の人がたくさん住んでいる京丹後市(京都府)で、健康長寿の秘訣を探るために、腸内フローラ、食事などの疫学調査を長年続けています(京丹後長寿コホート研究)。
それにより、健康のためには“腸内フローラの多様性(菌の種類と数が多い)”が重要だとわかってきました。
しかし、京丹後市の同一家系3世代の腸内フローラの多様性の評価をした調査では、第1世代(祖父母)、第二世代(父母)、第三世代(子ども)と世代が若くなるほど、腸内フローラの多様性が失われていました。これには、食生活の変化の影響が大きいと考えているんです。
花映:動物性の脂肪やたんぱく質は腸内の悪玉菌を増やすといわれていますが、日本人の食生活の欧米化が関係しているのでしょうか?
内藤先生:そうですね。日本人のおじいちゃん、おばあちゃんは、穀類、豆類、野菜など植物性の食べ物や魚介を中心にとって肉類をあまり食べてこなかった世代です。若い世代は食の欧米化によって肉に偏った高脂肪食、砂糖の摂取量が多くなり、食物繊維が少ない影響もあると考えられます。
約1800人の腸内フローラと食事調査のAI解析でわかった5つのタイプ
花映:健康な人と病気になりやすい人の腸内フローラ、食事はどう違うのでしょうか? 腸活をするうえで、日本人を対象にした研究結果を知りたいです!
内藤先生: 2022年の春に発表した研究結果を紹介しますね。私たちの研究グループは、日本人約1800人(健康な人、さまざまな疾患を持つ人が対象)の腸内フローラ、食事などを調査しました(※1)。
そして、集めた腸内フローラ、食事調査、疾患などのデータをAI(人工知能)で解析すると、下のように腸内細菌の種類、比率にもとづいて5つのタイプ(TYPEA~E)に分類できました。
それにより、腸内にすんでいる菌の種類や比率は食生活の影響が大きく、生活習慣病などの病気のリスクとの関連が予測できるようになってきたのです。
●タイプA:高たんぱく・高脂質な食事が多い
5つのタイプの中で糖尿病、高血圧などの生活習慣病、循環器系疾患、神経系疾患などとの関連が特に高かったのが高たんぱく・高脂質な食事が多いAタイプ。
●タイプB:バランスのよい食事
タイプEの次に健康な人が多かったのがタイプB。腸内で酪酸(※2)をつくる菌の割合が多くなっていました。
●タイプC:炭水化物が多い、偏った食事
炭水化物が多いタイプCは、A、Dに次いで炎症性腸疾患のリスクが高くなっていました。
●タイプD:高たんぱく質、高脂質な食事が多い。漬け物が少ない。マヨネーズが多い。
タイプDは、ビフィドバクテリウム属の菌の比率が高く、炎症性腸疾患のリスクがタイプEに比べて27倍。また、機能性胃腸障害と関連も見られました。
(ビフィドバクテリウム属(主にビフィズス菌)は炎症抑制効果を持つため、炎症性腸疾患の傾向があるとそれを抑えようとして増えるのではと推測されます)
●タイプE:野菜・魚が多い、バランスのよい食事
5つのタイプの中で、最も健康な人が多かったのがEタイプ。食事で食物繊維を多くとっていて、プレボテラ属の菌の割合が高くなっていました。
花映:食生活によって、腸内にすむ細菌の種類や比率がこんなにも違うのですね!
旅行、外食が続いたりして「高たんぱく・高脂質な食事が多い」タイプAになったとしても、食事を改善すれば腸内細菌フローラを健康な状態に近づけることができるのでしょうか?
内藤先生:はい。ヒトの腸内フローラは記憶されているので、食事など生活習慣を改善すれば、もともといる健康によい影響をおよぼす菌を育てて活性化させることができますよ。
※1:京都府立医科大学、摂南大学、株式会社プリメディカによる三者共同研究「腸内細菌叢研究データベースの統合的解析による腸内環境評価システムの開発」
※2:酪酸(短鎖脂肪酸の一種)は大腸の主要なエネルギー源。酪酸の働きで大腸内に善玉菌がすみやすくなる。
肉を減らし、豆・大豆製品、魚を食べることで、よい菌が育ちやすい腸に
花映:それでは、腸活によい食事法を具体的に教えてください!
内藤先生:よく、「何を食べたら腸内環境がよくなるんですか?」と聞かれるのですが、何かを食べることよりも、まず腸に悪いものを控えることが大切です。
動物性脂肪(肉類)と砂糖(砂糖や甘味料入りの飲み物、お菓子など)を減らしてみてください。特に、高脂肪食は短期間で腸内フローラに悪い影響を及ぼしやすいんです。
花映: 最近は糖質制限や高たんぱく質食に関心が高まって主食を控え、お肉をよく食べている人がいると思うのですが、腸にとって肉ばかり食べるのはよくないことなのですね。
お肉を控えるとなると、たんぱく質は何からとるのがよいのでしょうか?
内藤先生:豆・大豆製品、穀物などから植物性のたんぱく質をとり、そして、動物性たんぱく質は、肉よりもオメガ3脂肪酸を含む魚介類を選ぶとよいですね。
まず主食を白から茶色系に! 発酵性食物繊維で腸から体が若返る
花映:先ほど教えていただいた5タイプの研究結果を見ると、最も健康な人が多かったタイプEは食物繊維を多くとっていますね。
内藤先生:はい。食物繊維は善玉菌のエサになって働きが活性化します。食物繊維には食材によって不溶性、水溶性のさまざまな種類があります。そのため、穀類、豆類、海藻、いも類、根菜類、果物など“いろいろな食材から多様な食物繊維をとる”ことが重要です。それが多様な腸内フローラを育てることにつながります。
花映:日本人は食物繊維が不足しがちだといわれますが、摂取量を増やすためには何からはじめるのがよいでしょうか?
内藤先生:毎食とる主食を、白色から茶色の食物繊維が多いものにすることです。
例えば、ごはんなら白米より玄米ごはん、白米に押麦、大麦、雑穀を混ぜたごはんもおいしく食べられます。パンは、白いパンではなく、茶色の全粒粉パンやライ麦パン。また、オートミール、小麦ブランのシリアルなどをとってもいいですね。
花映:大麦に含まれるβ-グルカンなど、発酵性の水溶性食物繊維も注目されていますね。
内藤先生:発酵性の水溶性食物繊維は、腸内細菌のエサになって発酵し、酪酸をつくる菌の働きを活性化させて腸内環境をよくしてくれますよ。発酵性食物繊維は、大麦、豆類(大豆、ひよこ豆、えんどう豆など)、ごぼう、玉ねぎ、菊いも、キウイフルーツなどに含まれています。
花映:忙しくて料理に手間をかけられない場合は、どうすればいいでしょうか?
内藤先生:水溶性食物繊維の粉末のサプリメントをプラスするのもおすすめです。
私は朝食に、発酵性の水溶性食物繊維5g(グァー豆酵素分解物のサンファイバー)、バナナ1本、豆乳200ml、緑茶青汁粉末、はちみつを混ぜたスペシャルスムージーを飲んでいます。
花映:スムージーは手軽ですね! 私はヨーグルトが大好きで毎日たくさん食べています。食物繊維に加え、ヨーグルトなどの発酵食品からビフィズス菌や乳酸菌をとることも腸内環境をよくするのでしょうか?
内藤先生:そうですね、ビフィズス菌、乳酸菌を腸にとり入れることで、悪玉菌が増えるのを抑えられます。続けてみて菌の種類が自分に合っているか、便の形やにおいをチェックするとよいと思います。
まとめのことば
内藤先生:お伝えしたように、腸内環境をよくするには肉の動物性脂肪、砂糖を控え、“多様な植物由来の食事”を増やしていくことが大事です。
それによって腸内フローラの多様性が増して若々しく健康な体になり、さらには持続性のある食、地球環境にやさしい食にもつながっていくのではないでしょうか。
花映さんはお詳しいのでご存知だと思いますが、ビフィズス菌と乳酸菌は異なる菌で、ビフィズス菌は全部のヨーグルトに入ってる訳ではないんですよね。医師でも勘違いしている人が多いですが、自分の身体によい働きをする腸内細菌のことを、より多くの方に関心を持っていただければと思います。
花映:腸内フローラをよい状態にすることは、地球環境よくすることにもつながっていくんですね!
私もメディアで活動する中で、いろいろな食材をバランスよく食べて多様な腸内フローラをつくること、腸内細菌たちに関心を持つこと、自分の腸との相性を見ながらパーソナル腸活をすることを伝えていきたいと思っています。
次回(後編)は、便秘の原因、便の状態をチェックする方法などについて内藤先生にお話をうかがっていきます。
●お話をうかがったのは…
内藤裕二先生
京都府立医科大学大学院医学研究科 生体免疫栄養学講座教授。同学附属病院 内視鏡・超音波診療部部長。長年、消化器の医師として臨床の現場に立ち、さらに研究者として腸内フローラと食事、生活習慣病などの病気、アンチエイジング(抗加齢)の関連などについて最先端の研究を行っている。講演やメディア出演でも活躍。
専門は、消化器病学、消化器内視鏡学、抗加齢学、腸内細菌叢。
著書『酪酸菌を増やせば健康・長寿になれる』(あさ出版)、『人生を変える賢い腸のつくり方』(ダイヤモンド社)など。
●聞き手
花映
ヨーグルト研究家。東京農業大学卒業。子どものころに便秘、食物アレルギーになり腸内環境と食、健康について意識しはじめる。中学生のころにヨーグルトの魅力に気づき、「ヨーグルト専門店」を開くことが夢に。大学では、おもに食品化学を学んで微生物学の授業も受け、発酵食品を研究。大学卒業後、香料・色素メーカーに就職するが、夢の実現のため、飲食業界に転職。会社員として働きながら日々ヨーグルトの研究を行い、月に1~2回「ヨーグルト専門店 Dear Mechnikov」をオープンしている。
https://www.instagram.com/hanae_yogurt/
文/掛川ゆり