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腸の動きをよくするには「おもち」!? スルッと便を出すには「バンザイポーズ」? 消化器の名医、川本徹先生に腸を元気に動かす方法を聞きました!≪ヨーグルト研究家 花映の腸内研究エキスパート対談2・後編≫
発酵食品や食物繊維など腸によいものを食べていても便秘がなかなか改善しない…。そんな人は、腸の「動き」が悪くなっているのかも!? 長年、便秘とつき合ってきたヨーグルト研究家の花映さんが、腸活の新しいアプローチ法を探るべく、ベストセラー本『結局、腸が9割』(アスコム)の著者で、みなと芝クリニック名誉院長の川本徹先生にお話をうかがいました。
Contents 目次
食べてから何日で出てくる!? イカ墨パスタで腸の動きをチェック
花映:腸活によい食事をとっていても、なかなか便秘が改善しないことがあります。これはなぜなのでしょうか?
川本先生:外来診療でも「ヨーグルト、納豆を食べています」「食物繊維をとっています」という患者さんがいるのですが、便秘など腸の不調が出ている人が後を絶ちません。特に女性、高齢の方は、腸を動かす平滑筋がだんだん弱ってくることで動きが悪くなって、弛緩性便秘になりやすい傾向があります。便秘の改善には、食事の見直しとともに、「腸の動き(ぜん動運動)をよくする」こともはじめましょう。
花映:なるほど。私も腸の動きが弱っているかも…と感じます。自分の腸の動きがよいのか、悪いのかをチェックする方法はありますか?
川本先生:イカ墨を使ったパスタやパエリアなどを食べると、黒い色素が吸収されないので黒い便が出ます。その黒い便がいつ出てくるのかチェックすれば、腸の動きが正常かをおおよそ判断できます。イカ墨料理を食べた翌日に黒い便が出れば、腸がしっかり動いているということ。2~4日経ってから出る場合は、腸の動きが弱っている、または腸内環境が悪化している可能性があります。
花映:イカ墨料理で腸の動きチェック、おもしろいですね! 便で健康状態をチェックする「観便」の一環にもなりますね。
川本先生:そうですね。普段から便の色や形などを観察すると、自分の健康状態をチェックできます。
腸壁には自律神経のネットがびっしり張り巡らされている
花映:腸の動きが悪くなる主な原因は何なのでしょうか?
川本先生:腸を動かしているのは平滑筋という自分では意識して動かせない筋肉で、自律神経によってコントロールされています。腸管の壁の中は自律神経のネットに包まれていて、副交感神経が優位でリラックスしているときは腸が活発に動き、交感神経が優位で緊張、興奮しているときに腸の動きが低下します。
※過敏性腸症候群の場合、緊張するとトイレに行きたくなることがあります。
花映:なるほど。私はキックボクシングをしているのですが、激しい運動をした直後はトイレに行きたいと思うことはなく、お腹も空きにくい気がします。
川本先生:そうですね。激しい運動をした直後は、交感神経が非常に興奮して、腸の動きがほとんどストップしています。運動直後は尿意や便意はこず、しばらく経つとトイレに行きたくなって、お腹も空いてくると思います。それは、腸も動き出しているということです。
花映:なるほど。寝る前は激しい運動を避けたほうがいいのでしょうか?
川本先生:そうですね。寝る前は副交感神経に切り替えるために、激しい運動、興奮することをできるだけ避けましょう。軽い運動(ストレッチなど)なら交感神経を興奮させないでリラックスさせる効果があるので、自分に合った運動法を見つけるとよいと思います。
朝はコップ1杯の「水」か「炭酸水」で腸の動きをスイッチオン
花映:朝に腸を動かしてスムーズな排便につなげるには、何をすればいいのでしょうか?
川本先生:睡眠中は副交感神経が優位になり腸が動いて便がつくられますので、寝る前は、湯船にゆっくり浸かって体を温めてリラックスモードになり、睡眠をしっかりとりましょう。
そして、起床後はベランダに出て朝日を浴びたり、散歩をしておいしい空気を吸ったり…そういったちょっとした習慣で自律神経が整い、腸のぜん動運動が促されて便秘が改善していきます。
花映:朝食を食べることも腸の動きをよくすることにつながりますか?
川本先生:はい。寝ている間の空腹の後、朝食で食べ物が体内入ってくると腸が大きく動き出して便を排出しようとします。朝食を抜く人が多いようですが、どうしてもお腹が空かない場合は、コップ1杯の水を飲んでみてください。冷たい水か炭酸水がおすすめですが、お腹が痛くなるようなら常温でもOKです。
もち米に豊富! 腸の動きをよくする「パントテン酸」に注目
花映:食物繊維が腸壁を刺激して動きをよくする、というのはよく聞きますが、不溶性食物繊維をとり過ぎると便が硬くなって、余計に便秘になってしまうことがあります。 最近は、水溶性食物繊維のほうが注目されていたりもしますが、食物繊維のとり方のポイントはありますか?
川本先生:不溶性食物繊維も便のカサを増やすためにある程度必要です。便のカサを増やすことで、腸壁を刺激してぜん動運動を促します。不溶性と水溶性のバランスは、2:1が理想です。しかし、「バランス」がよくても食物繊維の「量」が多すぎると、便の量がどんどん増えて腸が膨張して腸の動きが悪くなることがあります。「バランス」と「量」の両方を意識しましょう
花映:食物繊維のほかに、腸の動きをよくする栄養素はありますか?
川本先生:ビタミンB群の一種の「パントテン酸」には、腸の動きをよくする働きがあるんですよ。医療では、手術の後は麻酔によって腸の動きが止まってしまうので、腸を動かして排便を促し、食事がとれるようにするためにパントテン酸がよく使われます。
花映:パントテン酸は、どんな食材に含まれていますか?
川本先生:下記の食材からパントテン酸をとることができます。もち米に含まれるので、おもち、お赤飯などを主食にとり入れるのもおすすめです。さつまいもにも含まれているので、100gほどを目安にとるとよいと思います。
≪パントテン酸が多い食材≫
- 肉、魚、卵…レバー、鶏ささみ、卵(鶏卵の黄身)、たらこ、イクラ、すけとうだら、ししゃも、うなぎのかば焼き
- 野菜…カリフラワー、ブロッコリー、さつまいも、長いも、干ししいたけ
- その他…納豆、もち、牛乳
※参考文献/『結局、腸が9割』(アスコム)
「考える人のポーズ」で便が出ないなら「バンザイポーズ」に
花映:腹筋のトレーニングは便秘の改善につながるのでしょうか?
川本先生:腸は自律神経の働きで動いていますが、排便時に腹圧をかけるときは、いろいろな筋肉が総合的に作用します。筋肉の連動が悪い、または使っていない筋肉があると、いきんでも出ないことがあるので、排便をサポートする腹横筋、骨盤底筋群、内転筋(内もも)、お尻の筋肉を鍛えると便秘の改善が期待できます。
花映:なるほど。骨盤底筋群、内転筋も排便に関わっているんですね。
排便時の姿勢は、足を台にのせて「考える人のポーズ」がいいのでしょうか? 私はこの姿勢だとなかなか出なくて…。
川本先生:私は痔の治療もしているのですが、痔のきっかけは便秘でいきんだことという人が多いんですね。ロダンの「考える人のポーズ」で排便しようとすると、なかなか出ないケースがあるんです。そのような人には、「バンザイポーズ」で上体を後ろに反らせてみてくださいと指導しています。
花映:バンザイポーズで、なぜ便が出やすくなるのでしょうか?
川本先生:大腸はお腹の中で曲がりくねっていますよね。弛緩性便秘の人は、肛門の近くの直腸で便が詰まっているわけではなくて、もっと上のほうから便がスムーズに流れていないんです。そうなると、考える人のポーズでは、背中を丸めるからかえって腸が曲がってしまうわけです。
大腸の内視鏡をするとき、いちばん通りにくい場所は下のほうではなく、もっと上の肛門から50㎝ぐらい離れた地点(そこを通すのが医師の腕の見せどころでもあります)。そこがまっすぐになったほうが、排便しやすいのではないかと考えています。
バンザイポーズのやり方
両腕を上げて、バンザイする。腕が疲れてくる場合は、頭の後ろで手を組んで手のひらを後頭部に当ててもOK。上体を少し後ろに反らせると、大腸の便の通り道がまっすぐに。
花映:腸の形も排便しやすい姿勢も人それぞれなんですね!私はバンザイのポーズでいきたいと思います!
まとめのことば
川本先生:女性が便秘になりやすいのは筋力が弱いことだけではなく、ホルモン(女性ホルモンなど)の働きも影響しています。はじめにお伝えしたように、腸の動きは自律神経によってコントロールされていますので、睡眠をしっかりとり、自分に合ったリラックス、ストレス解消法を見つけ、「食事改善」+「腸の動きをよくする」2つのことを腸活で実践してください。
花映:川本先生、ありがとうございました! 教えていただいたことをもとに、反り腰や猫背にならないように姿勢を正すことを早速意識してみました。腸の通り道をよくする感覚があったので、トイレに行ったときに限らず、お腹を意識して定期的に伸びをすることを心がけています。これからも腸内環境と健康美のつながりに迫っていきたいと思います。
●お話をうかがったのは…
川本 徹先生
みなと芝クリニック名誉院長。犀星の杜クリニック六本木院長。消化器専門医。筑波大学医学専門学群卒業。アメリカテキサス大学MDアンダーソンがんセンターにてがんの研究も行うなど幅広い知識を習得し、2010年にみなと芝クリニックを開業。2022年には犀星の杜クリニック六本木を開業。患者の症状に対して全体と細部の両方からアプローチする「森を見て木を見る」診療がモットー。著書『結局、腸が9割』(アスコム)などがあり、メディアでも活躍。
●聞き手
花映さん
ヨーグルト研究家。東京農業大学卒業。子どものころからかなりの便秘体質。小学校5年生頃には食物アレルギーを発症するが、それをきっかけに食と健康への興味がより高まる。中学生になるとヨーグルトの魅力に気づき、「ヨーグルト専門店」を開くことが夢に。大学では、食品化学や微生物学などを学び、発酵食品を研究。大学卒業後、香料・色素メーカーに就職するが、夢の実現のため、飲食業界に転職し、会社員として働きながらヨーグルトの研究や「ヨーグルト専門店 Dear Mechnikov」の運営に勤しむ。。現在お店は休業中だが、腸内環境のプロとしても正しい情報発信していけるよう武者修行中。https://www.instagram.com/hanae_yogurt/
文/掛川ゆり