新型コロナウイルス感染症の感染症法上の位置づけが5類に移行したことで、コロナ禍以前の日常が戻りつつあります。今年の夏こそは、気兼ねなく外出して楽しく過ごしたいと考えている人も多いことでしょう。しかし、新型コロナウイルス感染症は増加傾向にあり、また、子どもを中心に季節性インフルエンザやヘルパンギーナといった感染症が流行しているという心配なニュースも。「そういえばなんとなく体調が悪い」と感じている人もいるかもしれません。そこで、いとう王子神谷内科外科クリニックの伊藤博道院長にこの夏を元気に過ごす方法をうかがいました。
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「マスクをはずす機会が増えた」「なんとなく体調が悪い」こんな人は免疫を見直すべし!
ようやく日常の生活が戻り、マスクをつけずに外出したり、家族や友人と外食やレジャーを楽しんだりしている人も多いことでしょう。でも一方で、さまざまな感染症が流行しているというニュースも流れています。
「一年のうちで5~6月は感染症の患者さんは少ないのですが、今年は、新型コロナウイルス感染症をはじめ、お子さんを中心に風邪、季節性インフルエンザ、RSウイルス、ウイルス性胃腸炎、ヘルパンギーナといったさまざまな感染症でクリニックを訪れる人が激増しています。特にヘルパンギーナの患者数は例年の5倍以上。また、はしかも流行の兆しを見せています。夏に流行する感染症も冬に流行する感染症も一度にやってきた印象で、“マルチ流行”の様相を呈しています」と、伊藤先生は話します。
その背景として、海外からの旅行客も含めて人の往来がコロナ禍以前に戻ってきたこと、常時つけていたマスクをはずすなど感染症対策がゆるやかになってきたことが挙げられますが、「人々の免疫力の低下も関係している」と伊藤先生は指摘します。
そもそも免疫とは、体内にウイルスや細菌などの異物が入ってくるのを防いだり、排除したりして体を守る働きのこと。いわば、「体内」ではたらく「マスク」のようなもの。
「体に備わる免疫は、体に入ってきたウイルスや細菌と戦ってこそ、学習し、強くなるのです。ところが、この3年間は感染症対策の徹底で、ウイルスや細菌が体内に入らないように防御してきました。そのため、免疫が働く機会がガクンと減ってしまい、多くの人の免疫力が低下していると考えられています」
これから夏本番ですが、「猛暑自体がストレスとなるうえ、室内外の寒暖差、冷房による冷えで自律神経のバランスを崩しがち。ますます免疫機能が低下しやすくなります」と伊藤先生は注意を促します。
この夏を元気に楽しむために!今できる免疫=「体内マスク」を強化するための対策とは
この夏、気兼ねなく過ごすために、引き続きしっかり体調を管理していきたいですよね。そこで何よりも大切なのは免疫力のアップです。
対策のカギは、「ズバリ『腸活』です」と伊藤先生は話します。
「免疫力アップになぜ腸活が効果的かというと、体をウイルスや細菌から守る免疫細胞は腸管に多いから。腸内環境を良好に整えることが免疫機能の活性化につながります。腸内環境は食べるものに大きく影響されるので、食事に気をつけましょう。積極的にとりたいのは、①発酵食品②ビタミン③たんぱく質です」
① 発酵食品に含まれる善玉菌が腸を元気に
「発酵食品には、乳酸菌などの善玉菌が多く含まれています。納豆やみそ、キムチ、チーズ、ヨーグルトなどです」
なかでもヨーグルトは、単品で手軽にとり入れやすい食品なのでおすすめです。種類も豊富で、免疫細胞を活性化させる乳酸菌が入ったタイプなども市販されています。また、発酵食品をとる際には善玉菌のエサとなる食物繊維やオリゴ糖も一緒にとるとより効果的なのだそう。
②免疫機能に関わるビタミン
「免疫機能にはビタミンA、ビタミンD、ビタミンB、ビタミンCが関わっているので、緑黄色野菜を中心に野菜やバナナなど果物もしっかりとりたいですね」
<免疫とビタミンの関係>
・ビタミンA/C/B1:ウイルスの侵入経路となる粘膜での防御を強くする
・ビタミンD:免疫細胞を活性化させる
・ビタミンB6:免疫細胞の原料となるたんぱく質の代謝を助ける
③たんぱく質は免疫細胞のもとになる
「たんぱく質は細胞のもとになります。ダイエットを意識している人も肉や魚を食べましょう。サラダチキンならコンビニでも手に入ります。たんぱく質とビタミンBが同時にとれる豚肉やマグロの赤身もおすすめです」
元気体質になるために心がけるべきこと
生活の中で、免疫力を高められることはまだまだあります。
「体の血液循環を高めるため、体を動かすことを心がけましょう。効率がよいのは大きな筋肉を使う動きで、太ももの大腿四頭筋を使うウォーキングがおすすめです。日中にデスクワークの人は、猫背に気をつけて。仕事の合間に肩甲骨のエクササイズをとり入れましょう」
血液循環を悪くするので冷え対策も忘れずに。
「オフィスの冷房が効きすぎていると感じる人は、羽織りものを用意しましょう。冷房で冷えた体を温めるには入浴が効果的。できるだけ湯船にお湯をためてつかるようにします。質のいい睡眠をとることも大事。熱帯夜にはガマンせずに冷房をつけて寝るなど、ぐっすり眠れる対策をとりましょう」
「体内のマスク」としてはたらく免疫を強化することで、たとえウイルスが体内に入り込んでも、発症を防ぐこともできます。「コロナ禍の徹底した感染対策が“団体戦”だったとすれば、これからは“個人戦”。一人ひとりが“体内マスク”を身につけて、元気に夏を迎えたいですね」
監修/伊藤博道先生
『いとう王子神谷内科外科クリニック』院長。大学卒業後、外科医として救急医療から癌治療、内視鏡、呼吸器や消化器を中心に診療に携わる。
イラスト/miya 取材・文/海老根祐子