
女性ホルモンが低下すると起こる、さまざまな不調。骨の変形や関節痛についても更年期以降に起こりやすく気をつけたい。とくに女性はホルモンの影響を受けやすく、予防や対策を行っていないと気づかないうちに骨密度が低下し、骨がもろくなってしまいます。そこで整形外科医の矢吹 有里(やぶき ゆり)先生に、女性の骨の健康「骨活」について伺いました。数回に分けてお届けしていきます!
Contents 目次
気づかないうちに骨がスカスカに…女性が気をつけたい骨の健康
元気な人に、骨の健康と言われてもピンとこない人が多いかもしれません。若いときは意識せず過ごしていても年齢を重ねると、見た目の印象や関節痛などの不調が現れてきます。とくに顔のたるみは骨が影響しているのだとか。
今回のテーマは「骨活・フェムテック(女性特有の健康課題)」です。
整形外科医の矢吹 有里先生に、女性の骨の不調や病気について伺いました。
「女性の骨の健康問題については、骨粗しょう症の予防がいちばん重要です。
骨の不調(骨粗しょう症)は、骨が減っていくという自覚症状がまったくないので、気づきにくい病気です。若い世代も含めて50代でも、骨の健康については生活の中で考えにくいと思います。
たとえば、骨が不調だ…骨密度が減ってきたから骨が痛い…という症状があれば気にすると思うのですが、まったく予兆がありません。60~70代になってちょっとしたことで骨折をして、はじめて自分は骨粗しょう症だったんだと気づくことがほとんど。
ですから、骨の不調は自覚症状が現れるということはほぼありません。
もちろん骨も内臓と同じように生きている臓器として考えられています。私たちの体は、骨により体の土台や骨組みが形成され地面に立っていることができています。骨は硬くてじっと動かないイメージがあるかと思うのですが、じつは毎日、古くなった骨を壊して、新しい骨を作るという新陳代謝を行っており(リモデリング)、約3~5年で全身の骨が入れ替わっています。その骨からはいろいろなホルモンが分泌されたり、私たちのすべての細胞を動かすカルシウムを貯めておく貯蔵庫だったり、さらには骨の中心にある骨髄には血液を作る造血機能もあり、非常に大切な臓器です。
骨は成長期に作られおよそ20歳ごろに人生で最大の骨密度を獲得します。子どものころの運動習慣や食生活(栄養)、日光に当たることで完全な大人の骨になっていきます。20歳くらいの骨密度を最大骨量といい、人生ではいちばん骨密度が高い状態です。その後はいくらカルシウムをとったり一生懸命運動をしても骨密度が増えることはありません。それ以降は女性ホルモンであるエストロゲンの影響でキープされますが、更年期以降はエストロゲンの減少とともに減っていくこととなります。
20~30代でムリなダイエットによる生理不順やホルモンバランスの乱れ、まったく運動をしない、日光に当たらないといった、骨によくない生活習慣をしているとわずかに骨密度は減っていきますが、ひどく減るということはありません」(矢吹先生、以下同略)
骨の内臓としての機能や役割などをふだん考えたことがなかったので勉強になりました。骨の不調には自覚症状がないということですが、たとえば、背中が丸く猫背になってきた、姿勢が悪くスタイルが崩れてきた、肩こりがひどいなどの不調と骨は関係ない、ということでしょうか。
「はい。もちろん、重度の骨粗しょう症がある場合は、60代以降に背骨自体の高さが減って背中が丸くなることはありますが、20~30代で起こるということはまずありません。骨の影響が外見からわかるということでいうと、唯一影響があるのは顔の骨です。30代後半から顔面の骨密度が減るという研究データがあり、顔のたるみは骨から始まります。骨が減ると、つながっている靭帯がゆるみ、脂肪や筋肉の萎縮が起こってたるみやしわとして現れるようになります。
また、肩こりや姿勢が悪くなることは骨そのものというより、骨格や姿勢の問題になります。骨を支える筋肉が弱ったり、しなやかさを失うと姿勢は悪くなります。背骨が丸くなるような変化は、60代以降の骨粗しょう症が進行した人がいつの間にか骨折をすると起こってきますが、それは重症骨粗しょう症の場合です。40~50代くらいまでは、姿勢やスタイルが悪くなってきたことと骨の健康は直接関係はありませんが、姿勢が悪いと感じたら筋力が落ちてきていると考えたほうがいいですね。
姿勢の悪さを考えるとしたら、筋肉のバランスや筋力の低下が要因のひとつで、いい姿勢を保つには筋力がとても大事になりますね」
40代過ぎたら意識して。顔のたるみは骨が要因!
40代以降、更年期世代になると女性ホルモンの低下でいろいろな不調が現れてくると思います。骨の不調は気づきにくいというお話でしたが、とくに気をつけたほうがいい骨の症状やパーツはありますか? 前述で伺った顔面の骨密度減少の理由も気になります。
「いちばんは顔の骨ですね。やはり気づきにくいという点で言うと、顔のたるみと骨の健康については結びつけてもよいかな、と思います。
顔の骨は海面骨(カイメンコツ)という骨でできていて、体を支える脚の長い骨とは構造が異なります。
顔の骨は早くから骨密度が減りやすく、また、顔は体のいちばん上に乗っているので体重もかからない。背骨もひとつひとつの骨に直接体重がかかるわけではないので、この部位の骨密度が減りやすいと言われています。一方、脚などの支えになる骨は体の体重がかかっている分、骨を丈夫に保つ要素が備わっています」
そうなのですね! とてもよく理解できました。
では、あまり骨の健康を意識しづらい20~30代の予備軍や気をつけたい人・骨が弱くなりやすい人の特徴はあるのでしょうか? よく骨折をする人、骨折をくり返してしまう人がいるように思います。
「そうですね。ひとつは人生で最大の骨密度を獲得するときに、元々骨密度が低い人がいます。原因はさまざまありますが、成長期の運動不足や食べものの好き嫌い、牛乳が苦手、肉が食べられませんでした、など。あとは遺伝的な要素もありますね。お母さんやおばあちゃんが骨粗しょう症の人がいれば、骨粗しょう症になりやすいと言われています。
あとは、成長期にムリなダイエットをして生理が止まってしまった人、女性アスリートも当てはまる人が多いのですが、成長期にきちんと女性ホルモンが分泌していないと、骨の形成がうまくいかなくなり、獲得した最大骨量がもともと低い人がいます。このような人は、若いときから骨折しやすいと思います。
20歳のときの骨密度には個人差があって、本当にこんなに少ないの、という人もいるんです。そこからたくさん運動をしたり、バランスのよい食事をとっていれば骨密度が極端に低いだけでは骨折はしません。骨密度が低い人が転んだりぶつけたりするから骨折をするんですよね。つまり、転ばないような筋力やバランスをキープすること、正しい姿勢を保つなどの意識はすごく大事かなと思います」
そうですよね! 細い人でも体幹や筋力があると転ぶなどのケガをしにくいですし。
アスリートの話がありましたが、今の若い世代はピルを早い年齢からとり入れている人が多いように思うのですが、骨の成長には関係しないのでしょうか?
「今の低用量・超低用量ピルは、女性ホルモンを安定的に補うことで排卵を抑える仕組みなので、骨密度に悪影響を与えることはほとんどありません。むしろ月経不順や低エストロゲン状態のほうでは、骨量を守るプラスの効果が期待できる場合もあります。一部、注射型ホルモン避妊法では骨量低下が報告されているものもありますが、婦人科の先生はその点も考慮して処方されていますので、安心して相談されるとよいと思います」
続いては、「骨(骨密度)と女性ホルモン」の関係について教えていただきます!
取材・文/FYTTE編集部