音のするものがないのに、音を感じてしまう。そんな耳鳴りを感じると、ちょっとわずらわしく思いますが、あまりに気になるようであれば注意したほうがいいかもしれません。最近、耳鳴りはメンタルヘルスの問題とも密接に関係していることがはっきりしてきているのです。このたびあらためて女性の重い耳鳴りは放っておくべきではないという報告が出てきています。
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見過ごせない耳鳴りの問題
耳鳴りの症状に悩む人は、決して少なくありません。厚生労働省の2016年国民生活基礎調査によると、耳鳴りの症状がある人は男性では2.63%、女性では3.18%。肩こりや腰痛といったもっとありふれた症状と比べると悩む人は少ないですが、30人集まると誰かが耳鳴りに悩んでいると考えると軽く考えることはできません。
耳鳴りというと、耳だけのトラブルと考えてしまいそうですが、その影響はもっと広いことがわかってきています。これまでの研究からわかってきたのは、メンタルヘルスのトラブルと関係しているということ。
例えば、強く関連していると報告されるようになっているのが、うつ病や不安症です。気分が落ち込んだり、気分が落ち着かなかったりする心の病です。その上、耳鳴りが関連しそうだと考えられるようになっているのが自殺なのです。
今回、韓国の研究グループが、スウェーデンの首都ストックホルムで行われた研究から、およそ7万2000人のデータを分析して、耳鳴りとの関連が考えられるようになっている自殺との関連について調べています。
これまで詳しくわかっていませんでしたが、今回の研究により初めてそのつながりが見えてきたのです。
はやめに耳鳴りに対処を
見えてきたのは、耳鳴りを精神的な負担と考えているのは男性よりも女性に多いということ。また、その背景に強い不安やストレスが潜んでいるということでした。
今回のデータを分析したところ、何らかの耳鳴りを感じるのは22.5%と、日本の調査と比べるとかなり高くなっています。ただ、重い耳鳴りがあると答えた人は2.8%で、どちらかと言えば、日本の調査はこちらと近いのかもしれません。
また、今回の調査においては「これまでに自分自身で命を絶とうとしたことがありますか」と聞いていたのですが、自殺を試みたことがあると答えたのは3.4%でした。
その上で、研究グループは、自殺を試みた経験と、耳鳴りとの間に関係があるかを分析したところ、確かに耳鳴りに悩んでいる人は、自殺を試みる可能性が高いことが確認されました。
どれくらい増えるかと言えば、耳鳴りを感じている人では1.15倍ですが、強い耳鳴りのある人では1.32倍という結果です。またこうした関係は女性でのみ明らかであることもわかり、女性だと1.57倍となっていたのです。
一方で、医療機関で耳鳴りと診断を受けていた人は、こうした自殺が増える傾向が見られませんでした。研究グループはこのことに注目しており、医療機関に相談することで、メンタルヘルスの問題に対処されたために自殺行為につながらなかったのではないかと推定しています。耳鳴りの治療には、医療機関で行われているカウンセリングを通した治療である「認知行動療法」が唯一効果的だと考えられており、日本でも耳鳴りに悩む人は耳鼻咽喉科のクリニックなどに相談することを考えてもいいかもしれません。
たかが耳鳴りと考えずに、対策をとるのが必要です。
<参考文献>
Clin Otolaryngol. 2016 Jun;41(3):222-7. doi: 10.1111/coa.12500. Epub 2016 Feb 4.
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26147195
https://media.jamanetwork.com/news-item/severe-tinnitus-associated-with-suicide-attempts-in-women/