身近な人との死別のほか、最近であれば自然災害など、強いストレスを感じるできごとも少なくありません。そんなときは「胸がつぶされそうな気持ち」になるもの。どうやら、精神面はもとより、文字通り本当に胸にある大切な臓器である「心臓」の健康にも悪い影響が及びそうだとはっきりしてきました。心の傷で悩む人は、体の健康にも気を十分に気を配る必要があるようです。
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ストレスの有無による健康状態の違いを比べたところ…
ほとんどの人が人生の中で、家族や身近な人との死別や命にかかわる病気の宣告、自然災害、暴力などのために、大きなストレスを受けたり、トラウマになるようなできごとに遭遇したりすることはあるでしょう。
こうしたできごとを経験した後に現れやすいのが、PTSDや急性ストレス反応などの「ストレス関連障害」です。厚生労働省の統計によると、ストレスに関連する「神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害」の総患者数は72万4000人(2014年)。予備軍も含めれば、多くの人がストレスに悩まされていると考えて間違いありません。
このところストレスとの関連性が指摘されているのが心臓の病気です。戦争の悲惨な状況を経験した軍隊経験者の研究からわかり始めたことで、今、さらなる研究が進んでいます。
今回、スウェーデンの研究グループが、スウェーデンの全国登録データを用いて、1987〜2013年にPTSD、急性ストレス反応、適応障害などのストレス関連障害と診断された患者13万人以上を対象に、心血管疾患のリスクを調べました。
比較対象として、家族的な背景や病歴、精神的症状の条件を踏まえて、ストレス関連障害も心血管疾患もない兄弟姉妹と比べて分析をしました。
心臓の働きが弱くなる「心不全」が問題に
分析の結果、大きなできごとに対して重いストレス反応があると、いくつかの心血管疾患のリスクが高くなるとわかりました。
特に診断後6か月以内は、特に心停止や心臓発作など急性で重大な心臓の病気になるリスクが高い結果となり、ストレス関連障害と診断されてから1年以内では、ストレス反応がなかった兄弟姉妹に比べてそうした病気になる確率が1.64倍になっていたのです。
診断から1年以内で最もリスクが高かったのは心臓の働きが落ちてしまう病気である「心不全」です。その後は、血管の中で血液の固まりができて、血管が詰まってしまう「塞栓症」や「血栓症」などが問題となっていました。
ストレス関連障害と診断された人は、心血管疾患を早期(50歳より前)に発症しやすいこともわかりました。
こうしたストレスと病気との関係は、性別や病歴、家族の病歴といった条件にかかわりなく確認できました。またストレス関連障害と診断された時期が若いほうが、心血管疾患のリスクは高くなっていました。このように、ストレス関連障害と心血管疾患との関連が性別によらず関連していることが明らかになりました。
強いストレスを経験したときには、心臓の健康にも注意を払うことが大切と言えるかもしれません。
<参考文献>
Song H et al. Stress related disorders and risk of cardiovascular disease: population based, sibling controlled cohort study. BMJ. 2019;365:l1255. doi: 10.1136/bmj.l1255.
https://www.bmj.com/content/365/bmj.l1255