川が流れるような、いやし効果があるとされる音、「ピンクノイズ」。睡眠中に聞くと、ぐっすりと眠れるとされます。このピンクノイズが、翌日の記憶力をよくするような効果をもたらすという研究報告がありました。今回の研究は深い眠りが短い傾向にある認知障害の人を対象にしたものでした。なぜ、そうした効果が現れるのでしょうか?
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記憶を固定してくれる深い睡眠
ピンクノイズは、「ホワイトノイズ」と呼ばれる一般的な雑音よりも、少しおだやかな低い周波数帯のノイズのことをいいます。小川のせせらぎなど自然の中にある「1/fゆらぎ」という性質を持つために、いやし効果があるといわれています。
日本でもピンクノイズを出してくれるスマートフォンのアプリがあるので、眠るときに流している人がいるかもしれません。
これまでの研究によると、このピンクノイズを睡眠中の深い睡眠のときに聞かせると、翌日の記憶力がよくなるという結果が出たことがありました。今回の研究を行った米国ノースウェスタン大学の研究グループが、健康な高齢者を対象としてそうした効果を確かめているのです。
深い睡眠は、ノンレム睡眠(ゆっくりした脳波が現れるので「徐波(じょは)睡眠」とも呼ばれます)中に発生し、記憶を固定すると考えられています。
一方で、こうした深い睡眠の時間が短くなるといった睡眠障害があるのが軽い認知障害の人です。そこで研究グループは今回、軽い認知障害の人において、ピンクノイズが深い眠りと記憶を改善するかどうかを調べたのです。
軽い認知障害のある9人に対して、1週間の間を空けて2晩、研究のための部屋で眠ってもらい、ひと晩はノンレム睡眠中にピンクノイズを流し、もうひと晩はピンクノイズを流さずに、ゆっくりした脳波(深い睡眠)に与える影響を調べました。その上で、寝る前と起きてからの記憶テストの結果を比較しました。
ピンクノイズは確かに睡眠に影響
その結果、ピンクノイズを流した場合は、聞かせなかった場合に比べて、ゆっくりした脳波が10%以上増えていました。このうちピンクノイズによって深い睡眠が大きく増強された人ほど記憶テストがよくなるという関連性が確認されたのです。
ゆっくりした脳波が20%以上増えた人は、44組の言葉を思い出す記憶テストで、眠った後にはおよそ2語以上多く思い出すことができていました。さらに、ゆっくりした脳波が40%以上増えた1人は、9語多く思い出しました。
物忘れの症状がある「健忘型」の軽度認知障害はアルツハイマー病につながるとされています。「新たな治療法が切実に必要とされる中、睡眠の改善が認知症の予防につながる有望な方法であることを示す結果」と研究グループは述べています。
今回の方法は家庭での治療にも応用できるとして、さらに多くの参加者に2晩以上ピンクノイズを流す実験を行い、記憶力の改善とその持続性を調べる方針だといいます。
ピンクノイズを流すアプリもありますから、さっそく眠るときに試してみてもよいかもしれません。
<参考文献>
Acoustic enhancement of sleep slow oscillations in mild cognitive impairment
https://doi.org/10.1002/acn3.796
Pink noise boosts deep sleep in mild cognitive impairment patients
https://www.sciencedaily.com/releases/2019/06/190628120531.htm
文/星良孝