毎日気持ちが沈んだ状態が続き、医療機関を受診した人の中には、うつ病であるとして、抗うつ薬が処方された経験がある人もいることでしょう。一方で、抗うつ薬は脳に働く薬なので、そのリスクも気になるところ。特に一般的な「SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)」と呼ばれるタイプの薬について調査結果が発表されました。
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うつ病の薬として一般的なSSRI
日本でも精神疾患はごく一般的です。厚生労働省の患者調査によると、精神疾患のなかでも特に一般的なうつ病と推定される総患者数は2014年に72万9000人となっています。そんなうつ病の人に対して使われる抗うつ薬。なかでも一般的なのが、SSRI(選択的セロトニン再取込阻害薬)と呼ばれる薬です。
SSRIは神経伝達物質であるセロトニンを増やしてくれます。セロトニンは、心の安定に関係したホルモンのひとつ。不足するとイライラしやすくなったり、不安や怒りなどの感情が高まりやすくなったりします。
今回、カナダのマギル大学などの研究グループは、このSSRIの脳卒中への影響を調べることにしました。というのも、うつ病の人には、肥満であるなど、心臓疾患や脳卒中の恐れがある人も多いのです。抗うつ薬は脳に働く薬であるだけに、脳卒中への影響が特に重要というわけです。もっとも、セロトニンは血液をかたまりにくくするので、脳卒中のなかでも脳内の血管で血液がかたまる「脳梗塞」は減らす可能性もあると考えられています。
研究グループは、英国の1500万人以上をカバーするデータベースに基づいて、新たに抗うつ薬を処方された93万8000人を平均6年にわたって追跡調査しました。
脳卒中のリスクは減ることが
わかったのは、SSRIの種類によっては脳梗塞を減らすような効果があることです。調査期間に脳梗塞になったのは1万5860人です。薬の服用状況との関係を調べたところ、一部の神経細胞の間でセロトニンの量を増やす働きが強いSSRIは、そうではないSSRIと比べて、脳梗塞リスクが12%低くなりました。こうしたリスクの減少効果は、肥満や喫煙、飲酒、血圧などの条件にかかわらず確認されました。
なお、セロトニンの量を大きく増やす抗うつ薬とは、フルオキセチン、パロキセチン、セルトラリンのほか、選択的セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のデュロキセチンです。
もっともこうした効果は、統計的に確認されるものですから、本当に脳卒中が起こるかどうかは個別に考える必要があります。服用しているSSRIの種類によらず、不安があるときには、医療機関に相談するのが大事です。
<参考文献>
CERTAIN ANTIDEPRESSANTS LINKED TO A SLIGHTLY SMALLER RISK OF STROKE
https://www.aan.com/PressRoom/Home/PressRelease/2740
Neurology. 2019 Aug 7. pii: 10.1212/WNL.0000000000008060.
doi: 10.1212/WNL.0000000000008060. [Epub ahead of print]
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/31391245