8時間も寝たのに眠気が取れない。ご飯を食べたのにチョコやケーキを食べたくなる。毎年冬が来るたびにそんな症状に悩まされている人は「冬季うつ病」かもしれません。いわゆる「うつ病」とは異なる症状を持ち、男性よりも女性がなりやすいといわれているこの病気について、精神科医の長牛慶順先生に教えていただきました。
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体重増加や肥満の症状も起こる冬季うつ
「冬季うつ病」とは秋から春先にかけて症状の出る病気です。冬の始まりに症状が現れ春が来ると回復する、というサイクルを繰り返すため、専門的には「反復性うつ病」に分類されています。また、季節の移り変わりに影響を受けることから「季節性うつ病」「季節性感情障害(SAD)」とも呼ばれるようです」(長牛先生)
では、「冬季うつ病」になると、具体的にどんな症状が起こるのでしょうか?
冬季うつ病の代表的な症状
- 気分が落ち込みやすい
- 家事や外出が面倒になる
- 体が疲れやすい
- 甘い物が食べたくなる
- 睡眠時間が長い
「いわゆる『うつ病』の場合は気分の落ち込みなどの抑うつ症状が主になりますが、『冬季うつ病』の場合はそれらに加えて過眠と過食の症状が出ます。過食は、特に甘いものや炭水化物を欲するようになるため、体重増加や肥満といった症状も起こりますね。また、夕方になると抑うつ症状が悪化するのも特徴のひとつです。いずれの症状も、冬が終わればあっけなく回復してしまいます」(長牛先生)
冬の短い日照時間がホルモンバランスの乱れを招く
日本での発症率は人口の約1〜3%といわれている「冬季うつ病」ですが、欧米では約10%と高く、すでに一般的な病気のひとつとして認知されています。なぜ欧米の方が発症率が高いのでしょうか? それは、発症する主な原因が“日照時間”にあるためだと考えられています。
「『冬季うつ病』の主な原因とされているのは日照時間の減少です。私たちが太陽の光を浴びると、睡眠ホルモン“メラトニン”の分泌が止まり、脳を覚醒させるホルモン“セロトニン”の分泌が活発になるため、元気に活動することができます。しかし冬になって日照時間が減ると、太陽の光を浴びる機会が減少。メラトニンとセロトニンの働きが乱れるため、私たちの脳はエネルギーを補うために睡眠や甘いものを求めるというわけです。欧米、中でも緯度の高い北欧の国々は冬の日照時間が短いため、発症率が高くなっているのです」
日光を浴びることが予防のカギに。症状が出たら早めに専門医へ!
「冬季うつ病」を防ぐには、午前中の早い時間に太陽の光を浴びることが大切。長牛先生いわく「朝起きたらカーテンを開ける」ことも予防策になるそうです。
「家庭用の照明器具の照度は約500ルクス、晴れた日の屋内は約2500ルクス。照明器具よりも、窓から入ってくる日光の方がはるかに照度が高いのです。さらに、晴れた日の屋外ならば照度は約10万ルクスにもなります。カーテンを開けて窓際で食事をしたり、可能なら散歩をしたりして、1日30分以上日光を浴びる生活を心がけてください」
もし、すでに症状があって生活に支障が出ている場合は、早めに精神科や心療内科を受診しましょう。治療には、世界各国の冬季うつ病患者が受けている「光療法」が効果的です。
「光療法(高照度光療法)は、特殊な照明器具によって約1万ルクスの強い光を浴びる治療方法です。これにより人工的にメラトニンの分泌を抑え、セロトニンの分泌を促します。回数や時間は医師の診断によりますが、できれば午前中の早い時間に受けるのが望ましいですね」
通常のうつ病でも同様の症状を認められますが、うつ病の一種である「冬季うつ病」は、通常のうつ病とは治療方法が異なるため、逆に、光療法をしなければ、症状を悪化させてしまうこともめずらしくありません。辛い思いをガマンしながら春を待つより、早めに医師に相談をして快適な冬を過ごしましょう!
文/ほそいちえ