WHO(世界保健機関)にも認められ、世界中から注目が集まる中医学。冷え対策などの“体質改善”を実践している人も多いでしょう。中医学は西洋医学にはないひとりひとりの体質に合わせたオーダーメイドの治療ができるのが特徴です。約20年、東大病院で抗がん剤の新薬開発に携わり、その後中医学の専門医となった岡部哲郎先生の著書『西洋医学の限界』(アスコム)から、中医学の最前線についてお伝えしていきます。
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医者の8割が漢方薬を処方する時代に
世界の医療の主流は西洋医学。しかし、今では西洋医学では治療が難しい病気に「代替医療」で対応する国が増えてきました。
そのなかで特にひとりひとりの体質に合わせた治療ができる中医学に大きな期待が寄せられています。
「漢方薬の有効性を認め、積極的に用いる西洋医学の医者が増えてきたのです。 現在では、日本で医師免許を持つ医者の8割以上が、何らかの漢方薬を処方するようになりました」と岡部哲郎先生。
たとえば大腸がんの手術のあとに、腸閉塞が緩和されることから「大建中湯」(だいけんちゅうとう)を使うことがスタンダードになりつつあるといいます。
伝統医学のひらめきから「抗マラリア薬」は生まれた
2015年10月、抗マラリア薬「アルテミシニン」を発見した中国の女性研究者・屠 呦呦(トゥヨウヨウ)氏が、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。
マラリアは年間3〜5億人が感染し、そのうち約100万人が死亡しているといわれる恐ろしい病気で、世界の人口の約4割がマラリアの危険にさらされています。
屠氏の抗マラリア剤がWHOに認可されて以降、死亡率は4〜5割減ったそうです。この“歴史的大偉業”のアイデアは、中医学からもたらされました。
「屠氏は中医学の古い文献に記されていた急性病の応急措置法にひらめきを得て、この薬を開発することに成功しました。西洋医学と中医学のよいところを引き出したすばらしい発想であり、まさに“新しい医療の理想形”のひとつといえます」
WHOにも認められ、広がりを見せる中医学
2018年にはWHOにも認められ、中医学を推奨する動きはここ数年で加速しています。
しかし、「中医学=漢方」と安易に思い込むのはちょっと待った!
「私のいう“漢方”に、日本国内で独自に伝えられてきた“日本漢方”は含まれないということです。日本の医者は本格的に漢方を学んできたわけではありません。8割を超える医者が漢方薬を処方しているという現実はあっても、真の意味で漢方医学を理解している人間はごくわずかです」
中医学の漢方は、患者さんの体質や症状に応じて、そのつどベストな生薬の組 み合わせを考えていくもの。いわばオーダーメイドです。
しかし日本の漢方の多くは、「この症状にはこの漢方薬」と効能書きに従って処方されることが多いそう。
「漢方に不案内な医者がマニュアル通りに漢方薬を処方する。これが日本漢方の実態です。本家の中国では、5年制の中医薬大学に入り、漢方医学の教育と臨床実習を徹底的に受け、卒業後も臨床教育があります。その後は国家認定の名医のもとで約3年間にわたってマンツーマンで指導を受けます。このように、10年近く漢方医学のことを深く学び続け、ようやく一人前として 扱われるのです。中医学の漢方と日本漢方は、まったく別物の医学なのです」
いくら漢方薬でも誤った処方は、症状を悪化させてしまうことにつながります。漢方を処方してもらう際は、その医師や薬剤師にちゃんとした中医学の漢方の知識があるかどうか、見極めるとよいでしょう。
体質改善から病気や老化の予防に役立つ漢方。西洋医学と中医学はどちらかひとつではなく、両方の長所を活かすことが大切です。次回は中医学に頼るべき病についてみていきます。
文/庄司真紀
参考書籍
岡部哲郎著『西洋医学の限界 なぜ、あなたの病気は治らないのか』(アスコム)