最近よく耳にするコンプライアンス。日本語では法令遵守といいますが、法律を守っていればいいというわけではありません。「法律の周辺にある社会のルールや社会人として求められる行動規範といったものも大事」と話すのは弁護士の菊間千乃さん。時代とともに変化するコンプライアンス。昔の知識のままでは状況を見誤り、会社のなかで懲戒処分を受けるような事態に発展することもあるかもしれません。今回は『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』から3つの事例をご紹介しましょう。
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【ケース1】会社の宴会で若手に余興をさせる
【わが社の歓送迎会では、若手に余興をさせるのが恒例。強制ではないので大丈夫だと思っていましたが、他社の友人に話したら「うちならパワハラでアウト」と言われました】
→ パワハラで損害賠償請求の可能性も!
「余興や宴会芸が社員相互の親交を深める上で役立つという面も否定はできませんが、余興や宴会芸が業務上明らかに必要かというと大いに疑問ですから、それを強制することはパワハラの類型のひとつである“過大な要求”ととらえられるかもしれません。
実際の事例としては、会社が営業目標を達成できなかった社員に対し、研修会で発表する際、その会を盛り上げる目的で特定のコスチュームを着用させたことは、社会通念上正当な職務行為とはいえないとして、裁判所は会社に対し 22 万円の賠償を命じました。命じるほうは軽い気持ちでも、パワハラにあたるとして損害賠償責任が発生する場合があることに注意しましょう。
また、たとえ裁判にならなくても、就業規則違反として懲戒処分の対象になることもあり得ます」(菊間さん)
【ケース2】本人の実力と関係ないことで待遇に差をつける
【係長の1人を主任に降格させました。理由は私との相性の悪さです。口の利き方がいちいち生意気で癇に障りますし、共通点がないので話も合いません】
→ 不当な人事をしたとして 会社の懲戒処分の対象に!
「一般的に誰を昇進させるかは企業の裁量が認められていますが、しかし、完全な自由裁量ではありません。人事考課・査定の目的が不当である場合や、評価要素が著しくバランスを欠く場合、降格などの人事が無効と判断されることがあります。同じように、大学の後輩であるという理由のみで、能力や成果をまったく考慮することなく昇進させてしまうこともやはり問題です。公正、公平な視点は忘れてはいけませんね」
【ケース3】就業時間に株取引をする
【個人で株取引をしていて、就業中に売り買いすることも。決められた仕事は業務時間内に終わらせているので問題ないですよね?】
→ 就業規則違反で懲戒処分の事例あり!
「老後の資産づくりのために投資を始める方も増えているようです。株価が気になり、ついチェックしたくなってしまうかもしれませんが、就業時間中は控えたほうがよいでしょう。このような行為は就業規則違反として、懲戒処分の対象になることがあります。
多くの会社の就業規則では、勤務中は職務に専念することを定めており、使っている端末が会社のものか私物かを問わず、就業時間中に株価をチェックする行為が職務専念義務違反と扱われる可能性があるからです。当然、懲戒処分の対象になる可能性も否定できません。実際に、公務員の事例ではありますが、就業時間中にスマホで株取引をしたとして減給10分の1 (3か月間)の懲戒処分を受けた事例があります」
「それやっていた!」ということをまとめた同書。10年前の当たり前が今では非常識になっているということもよくあります。慣習だとしても「これはグレーかも?」と思うこと、ありませんか? 時代に合わせてアップデートしていきたいですね。
文/庄司真紀
参考書籍
『いまはそれアウトです! 社会人のための身近なコンプライアンス入門』(アスコム)