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“こうあるべき”をやめて、変わる自分を楽しんで! 漫画家・わたなべぽんさんが 『やめてみた。』シリーズに込めたこと

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“こうあるべき”をやめて、変わる自分を楽しんで! 漫画家・わたなべぽんさんが 『やめてみた。』シリーズに込めたこと

累計30万部突破の人気シリーズ『やめてみた。』の著者、漫画家のわたなべぽんさん。このシリーズは、家の中にあるものから人間関係まで、「こうあるべき」と、いつの間にかとらわれてしまっていた“しがらみ”を一度「やめてみる」ことで、わたなべぽんさん自身がどう感じ、また自分自身と周りの人たちがどう変わっていくのか、優しくユーモラスに語られるコミックエッセイシリーズです。2020年5月には最新刊『さらに、やめてみた。』が発売され、たくさんの読者から「泣けた」「気持ちが楽になった」など多くのうれしい声が寄せられているようです。

このシリーズのファンだという、ブックセラピストの元木忍さんがお話を伺いました。

Contents 目次

『さらに、やめてみた。~自分のままで生きられるようになる、暮らし方・考え方~』
わたなべぽん / 幻冬舎

「暮らしの中」「人付き合い」「家族」の中でやめてみたことが描かれた、『やめてみた。』シリーズの第3弾。サンダルやサークル活動、夫との共同貯金など、「こうあるべき」をどうやってやめていくのか。そしてやめたことで新たに見つけた「自分のやりたいこと」とは?

炊飯器が壊れたことがキッカケとなった「やめてみた。」生活

元木 忍さん(以下、元木):今回の新刊も楽しく読ませていただきました。ぽんさんの漫画には愛嬌があって、実にリアルで、読みながらうなずいてしまうんです。これまで『やめてみた。』『もっと、やめてみた。』、そして最新刊の『さらに、やめてみた。』の3冊をリリースされていますが、このシリーズの始まりは「炊飯器をやめてみた。」だったんですよね。

わたなべぽんさん(以下、わたなべ):そうなんです。家の炊飯器が壊れてしまい、ふと土鍋でご飯を炊いてみようと思ったことがきっかけでした。次の炊飯器を買うまでの短期間を土鍋でしのごうと、見よう見まねで炊いてみたんですけどこれがほんとに上手に炊けちゃったんです。それですっかり土鍋に魅了されて、炊飯器を新調しないことに決めました。

元木:新しいものを買わないというところがぽんさんらしいというか、新たな気付きを得ているのが素晴らしいですよね。

わたなべ:その時、私の中にあった小さな『こうあるべき』みたいなものが取り払われたような気分だったんです。「ああ、炊飯器って生活必需品だと思っていたけど、なくても生きていけるし、むしろ楽しくなったなんてすごい!」って(笑)

炊飯器が壊れたことがきっかけで、日常生活の『こうあるべき』が取り払われたシーン。「むふふ」と笑顔なぽんさんがとても楽しそうで、「私も炊飯器やめてみようかな」と思えてしまう。

わたなべ:私は子どもの頃から、ほかの子たちと同じことをしたり、決められた課題をこなすのが大の苦手で、世間一般に言われる『こうあるべき』が私にとってはできないことも多かったんです。できないことをいったんやめて、自分がやりやすい方法を見つけてみようと思えたのは、土鍋生活の体験で喜びがあったからだと思います。

元木:なるほど。土鍋に感謝ですね(笑)。それ以降、モノだけでなく人間関係までやめられていますよね。今回の新刊『さらに、やめてみた。』では、家族間のことまで描かれていらっしゃいます。これらはすべて実話なんでしょうか?

わたなべ:お話はすべて実際にあったことや体験したことが元になっています。でも加工はしています。登場人物が特定されないよう配慮したり、読みやすいように言葉を省略したりしますよ。子どもの頃から、日々の暮らしの中で心に引っかかったことをあれこれ考える癖があったので、それを漫画にさせていただいてるという感じです。

元木:実話だからこそなんだと思うのですが、ぽんさんと一緒に成長していくような、読み終わると「私もやめてみよう!」という気持ちがわいてきて、すごく心地いいんですよね。

わたなべ:ありがとうございます。でも、すべてを描いているわけではないので、やめられなかったことももちろんあるんです。

元木:日常のすべてをやめるわけにはいかないですからね! ぜひどんなことか教えてください。

わたなべ:やめようとしてやめられなかったことを話すのって、なんだか恥ずかしいですね(笑)。実は、変わった調味用や食材を試してみることが大好きなんです。旅行先で面白い調味用や美味しそうな保存食を見つけると、ついあれこれ試してみたくなって、たくさん買ってしまうんです……。

元木:わかります!

わたなべ:あと、物産展やお取り寄せサイトも大好きで、ついついうろうろ散策しちゃいますね。でも未開封の調味料が台所に山のように溜まってしまったこともあって……。それを見て「やめよう」と思ったんですが、根が食いしん坊なこともあり、旅行先での楽しみも減ってしまう気がして挫折しました。今ではちょっとセーブしながら買うようにしています。

読者目線で、ぽんさんとともに成長していく「夫君」の存在

元木:この本の重要人物といえば、夫君ですよね? 『さらに、やめてみた。』では特に、夫君の存在感が強くなっているというか、あらためて心も広くて、素敵な方だと感じました。「察してほしい」の巻でキッパリと「察せませんっ。」という姿も、偉大な人に見えました。

『さらに、やめてみた。』の第11話「察してほしい」の巻では、友人の娘さんが反抗期だという話から、「私も夫君なら許してくれるという甘えがあったのかも」とぽんさんが気付き、察してほしいと思っていたことをやめてみることにしたのだとか。

わたなべ:ありがとうございます。そんな風に言っていただけると夫も喜びます。 偉大な人だなんて言われると困ってしまうのですが、もちろん人並みに欠点も短所もありますよ。例えば、言い出したらなかなか折れない頑固なところとか、人の好き嫌いが激しいところとか、私以上にインドアで出不精で……あ、これ以上は夫のためにも止めておきます(笑)。

元木:(笑)。でも、本当に仲良しですよね。コミックからも伝わってきます。

わたなべ:あまりほかの家庭と比べたことがないので、我が家が特別仲良しかどうか分かりませんが、言い合いをするようなケンカはないですね。問題が起こらないというよりも、ふたりとも声を荒げるのが苦手という感じです。言いたいことやお願いは、ズバズバ言わずに「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど……」と前置きをして、やんわり要求を伝えるようにしています。ふたりきりの生活なのでギスギスしても良いことはないと、お互い学んだ結果という感じです。

元木:お互いに学べる関係性が素敵です。あと、おふたりで居酒屋さんに出かけたりするシーンも描かれていますが、ご自宅でもおふたりで晩酌をされるんですか?

わたなべ:お酒は大好きですし、強い方だと思います。でも晩酌を毎晩はしないです(笑)。仕事が残っていて夕食後にも机に向かうこともあるので、そんな時はノンアルコールビールや炭酸水を飲んでいます。何でも飲めるので、料理によって合うお酒を楽しめるのは良かったなぁと。最近は特に日本酒が好きで、日本酒についてもう少し詳しくなりたくて勉強したいと思っていたところでした。

元木:日本酒! いいですね〜。お料理もよくされている様子が描かれていますが、お料理することは楽しいですか?

わたなべ:忙しい時は外食やデリバリーに頼るんですけど、料理は好きな方だと思います。一日中机に向かっていると、ほっと一息つきたい気分になって、休憩時間にぶらっと近所の商店街を回って食材を選ぶのが気分転換になったりします。

元木:商店街に行く場面も描かれていましたね。

わたなべ:そうですね。『さらに、やめてみた。』のスーパーの巻でも描きましたが、近所の個人商店を回る面白さに目覚めてからは、なおさら楽しいです。あとネーム(漫画の下書きのようなもの)に悩んでる時ほど、しっかり出汁を取ったり丁寧に魚の下処理をしたくなるんです。いったんネームから頭を離すことで、次に紙に向かったとき、頭が柔らかくなっている気がするので。

元木:自分のルーティンをわかっているんですね! ひとりの自由時間はどんなことをされていますか?

わたなべ:ひとり時間大、大、大好きです(笑)。コロナ禍の外出自粛生活中、夫はテレビゲームに夢中だったので、私は存分にひとり時間を楽しみました。憧れだったパンドカンパーニュにトライしたんですが、初めてのわりにとても上手にできて感激しましたー! 実は「こんなインドアでひとり時間ばっかりじゃダメだ!」と自分を責めていた時期もあったんです。もっと友達も増やしてアウトドアな趣味も広げて、もっと外に楽しみを見いだそう! と。でも今回の外出自粛生活ではインドアな性格や趣味のお陰で、それほどストレスを感じずににいられたので、こんな性格もまんざらじゃないな、なんて思ったりして (笑) 。

大の植物好きでもあるぽんさん。『もっと、やめてみた。』の中では、大好きだった観葉植物をやめたことで多肉植物と出会い、大切に長く付き合うことの大切さを実感できたのだとか。

心地よさと怠ける心は、似て非なるもの

元木:ぽんさんは、いつから漫画家さんになりたいと思ったのでしょうか?

わたなべ:子どもの頃から漫画家になるのが夢だったんです。

元木:すごい! 漫画家さん一筋だったんですね。

わたなべ:幼稚園児の頃、近所に年の離れたお姉さんがいるおませな女の子がいたんですが、先生に将来の夢を尋ねられて「漫画家になる」と言ったのが、私にはとても衝撃で。漫画家という言葉を知らなかったので、なんて大人な発言なんだ! と思いました(笑)。当時からお絵描きが大好きだったので「そうだ! 私も漫画家になろう!」と思ったことを憶えています。

元木:その女の子がいなかったら、ぽんさんはいなかったわけですね。大人になってからはすぐに漫画家さんの道を歩まれたのでしょうか?

わたなべ:漫画家の前は古本屋の店長をしていました。店番している時にゆっくり本を読んでいられるなんて最高の仕事じゃないか! と思い、自宅で投稿用の漫画を描きつつ古本屋で働きました。ただ、オーナーの意向で徐々に男性向けアダルト商品も取り扱う店に変わっていってしまい……気がつけば私は女性でありながら、古本屋兼男性向けアダルトショップの店長になっていたんです。

元木:『女だけどHな本屋さんで店長してました』(KADOKAWA/メディアファクトリー)ですよね。読ませていただきました。

わたなべ:ありがとうございます。でもここで働いていたおかげで、漫画家デビューできたんです。それまでエッセイ漫画を描いたことはなかったんですけど、人生何がきっかけになるか分からないものだとびっくりしました。

元木:人生何がきっかけになるかわからない、というのは、ぽんさんの本を通じてのテーマだと思いました。『さらに、やめてみた。』の最後には、「自分が変わればまわりにも変化がある」とも書かれていましたが、そこに至るまでの考えにとても共感できます。やっぱり口に出して思いを伝えたり、行動するというのは大切ですよね。なかなか自分の思いやきっかけをつかめないと悩んでいる人に、アドバイスをいただけないでしょうか?

『さらに、やめてみた。』のエピローグで、今まで自分の思いを口に出すことが苦手だったことが語られている。ここは、ぽんさんが「ちゃんと自分の意見が言える」ことの大切さに気がついた場面。

わたなべ:私自身も悩みながら試行錯誤の毎日なので、アドバイスさせてもらえる立場ではないのですが、これまでの『やめてみた生活』で感じたことは「試すことや変わることを楽しもう」と思えたことが、行動に大きく影響したのではないかと思います。無理やり嫌なことを始めてもやっぱり長続きしないですし、いやいややっていることって、他人から見てもなんとなくわかっちゃうような気がするので。つい自分で始めたことをやめることに罪悪感を感じてしまったり、変わろうとする自分に一貫性を感じられなくて恥ずかしくなったりすることがあるんですけど、変わっていくことは面白いことなんだ! と思ってトライしています。

元木:ありがとうございます! 変わっていく中というか、『やめてみた。』シリーズを通じてぽんさんが発見したこと、とくに心に残っていることを教えてください。

わたなべ:やめてみた生活をはじめ、自分を見つめ直す漫画を書き続けてきて一番思うのは、『心地よさとは、だらしなく怠けることではない』と感じることが多かったように思います。

元木:なんだか強い言葉ですね。

わたなべ:そんなに厳しいことではないんです(笑)。私はずっと、身体や心を休めるのは、怠けたりダラダラすることだと思っていました。たしかに「今日はお風呂掃除を休んじゃえ〜」なんて時は、ちょこっとホッとすることもあるんですけど、本当の心地よさって、心に引っかかることを片付けてしまうことじゃないかなぁと思うんです。

元木:だらだらしても心地よくならないのはわかる気がします。心のモヤモヤをお掃除するというか、気持ちの整理するほうがぽんさんにとって心地よかったんですね。

わたなべ:そうですね。最近では、欲しい情報がなんでも得られるので、正しい情報とそうでない情報を見分ける回数も増えてきたように思います。コミックエッセイは読者の方々に共感してもらうことが必要ですが、私自身の考えが偏らないように情報との付き合い方を学ばねばと思ったりもしています。

元木:では最後になりますが、これからぽんさんが、「やめたいこと」ではなく(笑)、「やってみたいこと」を教えてください!

わたなべ:インドア派なので、ひとり時間を楽しめる趣味はたくさんあるのですが、アウトドアやスポーツでなにか趣味があれば素敵だなと思っています。田舎に住む弟が大の釣り好きで、時々釣果を知らせてくれるのですが、とても楽しそうで羨ましくて。自分たちで釣った魚をその場で調理して食べてみたい! できればそこに美味しいお酒も! なんて食いしん坊なことを思っています(笑)。

元木:『やめてみた。』シリーズは一応今回で完結ということですが、また機会があったら番外編なども期待してしまいますね。引き続き、ぽんさんの漫画をたくさん読みたいと思っています。本日はありがとうございました。


Profile

漫画家 / わたなべぽん
漫画家。山形県出身。第6回コミックエッセイプチ大賞・C賞を受賞しデビュー。今回紹介した『やめてみた。』シリーズは累計30万部を突破。ほかにも、汚部屋脱出の体験を描いた『ダメな自分を認めたら 部屋がキレイになりました』『面倒くさがりの自分を認めたら 部屋がもっとキレイになりました』(ともにKADOKAWA/メディアファクトリー)や、「自分のことが嫌い」という感情を克服していく過程を描いた『自分を好きになりたい。』(幻冬舎)などがある。

ブックセラピスト / 元木 忍
学研ホールディングス、楽天ブックス、カルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)に在籍し、常に本と向き合ってきたが、2011年3月11日の東日本大震災を契機に「ココロとカラダを整えることが今の自分がやりたいことだ」と一念発起。退社してLIBRERIA(リブレリア)代表となり、企業コンサルティングやブックセラピストとしてのほか、食やマインドに関するアドバイスなども届けている。本の選書は主に、ココロに訊く本や知の基盤になる本がモットー。

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