映画は単なる娯楽にはとどまらない―。そう思える作品に出合えたという人は多いでしょう。ワクワクする楽しい映画も、つらいほど切ない作品も自分の生き方に影響するもの。海外の研究で、実際にそうした効果は出てくるのか、詳しく調べられたそう。意味深く感動的な映画は、人生の難題に立ち向かう勇気などの価値をもたらしてくれるようです。
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生き方に映画は何をもたらす?
映画を鑑賞し、涙して心が洗われるような気持ちになったとき、その余韻がしばらく残ります。感動的な映画を見たときの人への大きな影響力はこれまでも研究のテーマにもなっていました。
今回、米国オハイオ州立大学の研究グループは、映画が実際の生活で人々にどんな影響を与えているのかを検証しました。1985年以降のハリウッド作品で感動作とされる映画20本(『ホテル・ルワンダ』や『シンドラーのリスト』など)および同じころに作られて感動作とは評されていない映画20本(『レミーのおいしいレストラン』や『パルプ・フィクション』など)のリストから、それらの映画はどのように生き方に影響するかを調べたのです。対象になったのは、インターネットで募集した約1100人。無作為にリストを送って、実際に見た1本について映画の感想などの質問に答えてもらい、偏りないように映画の影響力について分析しました。
人生観にポジティブな影響
こうしてわかったのは、感動を与えるような映画が、本人の人生感にポジティブな影響をもたらしやすいということです。とりわけ感動作と評価された映画を見た人に、「映画によって人生の苦労には理由があると理解できた」「映画のおかげで難しい状況にやさしさや勇気をもって対応しやすくなった」といった価値が残りやすいと判明したのです。
このほかにも「喜びと悲しみ両方の経験が人生に意味をもたらす」「何かを得ることも失うことも人生の一部」という人生観も、感動作で得られやすいとわかりました。感動作の価値として、たとえば、寛容性を身につけられる、よい人間になりたいという思いや他者によいことをしたいという思いをもちやすくなる、人生で本当に大切なことを追求したいといった気持ちになるなど、さまざまな恩恵が現れるのではと研究グループ。「心に深く届く」「感情的な幅が広い」「見る人の気持ちを高揚させ、鼓舞する」といった感動作のもつ要素がそうさせる可能性があるようです。
もっとも感動作でなくても、自分自身の価値観に強い映画を見たときには、人生観によい影響があるようだということもわかりました。「達成感や個人的な成功」「愛情や親密さ」「勇気や勇敢さ」などの価値観です。コロナ禍でなかなか映画鑑賞がしづらい時期ですが、ウェブ配信なども利用して、よい作品を探してみるのもよいかもしれません。
<参考文献>
Meaningful movies help people cope with life’s difficulties
https://news.osu.edu/meaningful-movies-help-people-cope-with-lifes-difficulties/
Jared M. Ott, Naomi Q. P. Tan & Michael D. Slater (2021) Eudaimonic Media in Lived Experience: Retrospective Responses to Eudaimonic vs. Non-Eudaimonic Films, Mass Communication and Society, DOI: 10.1080/15205436.2021.1912774
https://www.tandfonline.com/doi/full/10.1080/15205436.2021.1912774