本来食事は楽しみであり、素直に味わうもの。しかし、過食や肥満、ストレス食、食事制限、拒食…と、現代人の「食べること」に関する悩みは増える一方です。「人と食べものの関係がバランスを失うと、強い精神的圧迫、罪悪感、恥の意識、抑うつなどが生じてきます」と話すのは小児科医で禅の指導者でもあるジャン・チョーズン・ベイズ医師。今回は、ベイズ医師の著書『Mindful eating 人生が豊かになる食べ方の習慣』から、なぜ現代の食事にマインドフルネスが必要なのかをお伝えしていきます。
Contents 目次
現代人の食への不安
現代人がもつ食べることへの悩みや不安。ベイズ医師は、現代は人と食べることのバランスが崩れていると指摘します。
「私はこうした状況は人と食べものの関係がバランスを失った状態だと考えています。食べものとの関係がこじれると、強い精神的圧迫、罪悪感、恥の意識、抑うつなどが生じてきます。このようなバランスのゆがみが生じる主な原因のひとつは、心の必須成分“マインドフルネス”が失われていることです。マインドフルネスとは、それぞれの瞬間に起きていることに、判断を加えることなく意識を集中させることをいいます」
現代の肥満とマインドフルネス
「私が“マインドフルに食べる”という本を書こうと思ったのは、子どもたちの肥満の増加に気づいたことがきっかけです。過去10年間に誕生した子どもたちは、Ⅱ型糖尿病や肝障害など、肥満が原因で起こるさまざまな問題のために、彼らの両親よりも寿命が短くなるという予測があります。こうした状況に対して、小児科医として、食習慣を自然なバランスのとれたものにするための従来の取り組みを検証してみましたが、どれも明らかな効果がないということがわかりました」
どのようなダイエット法も根本的な問題を解決することが少なく、ベイズ医師が肥満の解消法として唯一確信をもったのが、禅の指導者として30年にわたって追求し続けてきた「マインドフルに食べる」ことでした。
「私たちが食べている食べものには、数多くの生きものの命のエネルギーが含まれています。それをとり込むことにより、人は生命を得て、その生命をさらに豊かにできるのです。私たちが生きているすべての瞬間に、そういう目に見えない神秘が存在します。食べるときに、この深い真実に気づくことができたなら、食べものは肉体を養うだけでなく精神の糧にもなります」
ダイエットが成功しない理由
ダイエット法の多くはやせるために、特定の食べものを食べない、ほかのある食べものは好きなだけ食べていい、と決めます。しかし、どんなダイエットを試しても成功することは難しいものです。ザセツし、体重増や基礎代謝の低下という結果にもなることもしばしば。
「もしこうしたダイエット法が有効なら、誰もが簡単に成功するはずで、世のなかのダイエットに関する本は1、2冊あれば足りるはずです。ダイエットの根本的な問題は、人々が『外部の権威』のほうばかり向いて、それに依存してしまうことです。『外部の権威』とは、専門家の意見、カロリー計算、食品交換表、市販のダイエット食品、有名人お墨つきの流行りのダイエット法などです。
“マインドフルに食べる”というのは、それらとはまったく異なり、自分の体、脳、心などの『内部の権威』のほうを向き、その判断に頼ることです。これらには“叡智”と“共感”が備わっており、完全に“信頼”が置けます。おまけにお金もかからず、いつでも利用可能です」
最新技術を用いた外科手術などの肥満治療も、10人に1人くらいしか目標体重を達成できず、 3分の1の人たちは、結果的にもとの体重に戻ってしまうそう。また全患者の約25%は、食べることができなくなって、ほかのアルコールや薬物、ギャンブルなどに依存するということもわかっています。
さまざまな研究の結果、食べることをもっと楽しいものにし、しかも食習慣を改善できる方法がひとつだけあることがわかっています。それが「マインドフルに食べる」こと。
自分が食べているものに意識を向けながら、ゆっくり食べる、マインドフルネスイーティング。次回以降、くわしくお伝えしていきます。
文/庄司真紀
参考書籍
ジャン・チョーズン・ベイズ著『Mindful eating 人生が豊かになる食べ方の習慣』(石川善樹監修、高橋由紀子訳、日本実業出版社)
https://www.amazon.co.jp/dp/4534057377
著者
ジャン・チョーズン・ベイズ
小児科医、瞑想の指導者。オレゴン州の禅宗寺院「Great VowZen Monastery」代表。本書で紹介するマインドフルネスの練習はここで開発され、実践を通して改良されている。これまで30年以上にわたり「マインドフルな食べ方」を個人や医療従事者に指導してきた。趣味はガーデニング、陶芸、マリンバ演奏。著書に『「今、ここ」に意識を集中する練習』(日本実業出版社)がある。
監修者
石川善樹(いしかわ よしき)
予防医学研究者・医学博士。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業。ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。「人がよりよく生きる(Well-being)とは何か」をテーマに、企業や大学と学際的研究を行なう。専門は予防医学、行動科学、機械創造学など。講演や雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『疲れない脳をつくる生活習慣』(プレジデント社)、『問い続ける力』(筑摩書房)、『健康学習のすすめ』(日本ヘルスサイエンスセンター)ほか多数。監修に『「今、ここ」に意識を集中する練習』(日本実業出版社)などがある。