コロナ禍の中で、つねに感染の不安がつきまとう日々に、ストレスを感じている人も多いことでしょう。「最近、よく眠れない」というコロナ不眠におちいる人も増えています。自覚はなくても、たまったストレスが、不眠となって現われている人もいるかもしれません。不安な時代の快眠方法を睡眠総合ケアクリニック代々木理事の大川匡子先生に伺いました。
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ストレスがあると、人は目が覚めるようにプログラムされている
そもそも不安や心配など、ストレス状態にあると、人はどうして眠れなくなるのでしょうか。
「眠っているときは、意識のレベルが下がり、筋肉もゆるむため、外敵から襲われたら、命に関わります。そこで、動物には必要な時に目が覚める“覚醒機構”という機能が備わっています。ストレスはいわば、命の危険を感じる状態です。ストレス下では、この覚醒機構が働くため、眠れなくなるのです」
ストレスが原因の不眠を解消するには、大元のストレスを取り除くことがカギですが、コロナ禍が収束するのは、もっと先になるでしょう。好きなことをして気分転換をはかるなど、リラックスできるように心がけたいものです。
睡眠には、覚醒機構と体内時計、ホメオスターシスの3つの働きが関連
また、外出自粛やテレワークで、これまでと生活リズムが変わったことも、不眠に影響しているかもしれません。睡眠は、覚醒機構のほか、体内時計、ホメオスターシスという3つの働きが関係しあっていて、日中をどう過ごすかも睡眠に影響を与えるのです。
では、体内時計は、睡眠にどう関わっているのでしょうか。寝る前にアロマを炊いたり、本を読んだり、“入眠の儀式”で眠る準備をする人も多いかもしれませんが、体にとって、眠るための準備は、朝起きたときから始まります。
「朝目覚めて、夜眠くなるのは、体内時計のリズムがあるからです。私たちは地球の自転に合わせて24時間で生活していますが、体内時計は約25時間周期です。放っておくと、起きる時間、寝る時間は1時間ずつ後ろにずれてしまいます。そのため、このズレを調整する必要があります。体内時計を24時間周期にリセットするのが、光です。スムーズな入眠には、朝起きたら、太陽の光を浴びることが大切です」
寝つきをよくするには、この体内時計のリズムをとらえて、寝床に入るのがコツといえます。
「体内時計がつくる睡眠のリズムには、『深部体温』と『メラトニン』という脳内ホルモンが関わっています。深部体温が下がると、人は眠気を感じます。深部体温の下降に関与するのがメラトニンです。メラトニンは昼間はまったく分泌されず、夕方から少しずつ分泌量が上昇し、午後9時頃から盛んとなり、午前2~3時にピークに達します。つまり、体は、体内時計によって、就寝に適した時間帯にメラトニンの分泌がさかんになることで、手足の熱が放散され、深部体温が下がり、眠くなるようにプログラムされているのです」
したがって、遅くとも午前0時までには寝床に入って、眠る体勢になっておけば、自然と眠りにつけるはずです。
ただし、「メラトニンは日中に太陽を浴びると、夜に分泌が盛んになりますが、逆に、夜に強い光を浴びると、分泌が抑えられてしまいます」と大川先生は指摘。
ぐっすり眠りたいなら、日中にたくさん体を動かす
では、ホメオスターシスは睡眠にどう関わっているのでしょうか。
「人間には、眠気を起こしたり、維持する睡眠物質という脳内ホルモンが分泌されています。睡眠物質は、日中の活動量や起きている時間に応じて、たまっていきます。つまり、日中に起きてたくさん活動することで、疲労とともに眠気が起こるのです。
膀胱にたまった尿を出さなければいけないのと同じで、たまった睡眠物質も吐き出さなければなりません。それを行っているのが、眠っているときです。これは、体を一定に保つホメオスターシスという働きによるもので、睡眠物質を一定量以下に保ち、次の睡眠に備えるのです。
この睡眠物質がたくさんたまるほど、眠気が強くなり、睡眠も深く長くなります。日中にスポーツやアウトドア活動をした日などにぐっすり眠れるのは、それだけ睡眠物質がたまっているためです。ホメオスターシスの働きによって、疲れていれば、放っておいても眠くなり、ぐっすり眠れるというわけです」
「眠れない」という人は、どんな生活パターンになっているでしょうか。
テレワークで通勤もなく、また休日も外出自粛で、家にこもりがちになると、睡眠のリズムも乱れがちになります。日中の活動量も減り、睡眠物質はさほどたまらないため、強い眠気も起きず、長い睡眠も必要としなくなり、寝つけない、眠りが浅い、ということが起こります。
当たり前のことですが、コロナ不眠の解消には、日中をできるだけ活動的に過ごし、夜はリラックスして過ごすことが大切といえます。
よく眠れない日が続くと、不安になって、休日に解消しようとしがちですが、「昼頃まで、だらだら眠るのは禁物」と大川先生はアドバイスします。
「たまった睡眠物質が処理されるのは、寝入ってから3時間ぐらいの深い睡眠中で、熟睡感はその間に得られるものです。その後は、浅い眠りになるので、寝不足だからといって、休日にだらだらと眠っていても、質のいい眠りは得られません。かえって疲れてしまうので、寝過ぎも要注意です」
取材・文/海老根祐子