花粉の季節が到来することで、鼻や目だけでなく、腰痛が悪化する人が多いということはご存じでしょうか? というのも、花粉症でくしゃみをしたら、まさかの腰痛悪化…なんてこともありえるため、今注意しておきたいのが腰! 今回は、腰椎治療のエキスパートである慶応義塾大学医学部 整形外科講師 岡田英次郎医師に、慢性腰痛のひとつである「腰椎椎間板ヘルニア」にならないためにやっておきたい予防策と最新治療法について教えていただきました。
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腰椎椎間板ヘルニアってそもそも何?
腰痛とひと言でいってもさまざまなケースがあります。今回お話しする「腰椎椎間板(ようついついかんばん)ヘルニア」というのは、まず第一に腰痛が3か月以上続く状態であること、第二に加齢や変性によるものといった特徴があります。
具体的には、腰の椎間板から「髄核(ずいかく)」が飛び出し、近くを通る神経を圧迫されて痛みやしびれがでる症状のことです。
腰の腰椎の間にある椎間板は、日常生活で負担がかかることが多く、最近では、激しい運動や重労働だけでなく、長時間のデスクワークを日常的に行うことで、椎間板への負荷がかかり、椎間板ヘルニアになりやすい傾向にあります。そのため、20代~40代の比較的若い世代がかかりやすくなっているんです。
腰椎椎間板ヘルニアの症状
腰椎椎間板ヘルニアの主な症状は、腰痛もそうですが、脚の痛みやしびれにも及びます。多くの場合、症状がみられるのは片脚のみ。太もものうしろからふくらはぎ、すねの外側などに痛みが走ります。この痛みの強さには個人差があります。
また、両脚に症状がみられることもあります。脚や腰の痛みだけでなく、筋肉がマヒしたり、脚を持ち上げにくい、歩きづらいといった症状や、尿が出にくいといった排尿障害が起こることもあります。
これらの症状は、今まで実感したことがなくても花粉の季節にくしゃみをしたり、思いがけずに重い荷物を持つことで自覚することもあります。
腰椎椎間板ヘルニアにならないための対策法
また、姿勢が及ぼす腰椎へのストレスも無視できません。
なかでも前かがみの姿勢になって荷物を持ち上げる動きは、腰椎へのストレスが大きくかかります。日常生活において、できるだけ腰椎への負担がかかる姿勢をとらないようにすることが大きな対策となります。
腰椎椎間板ヘルニアの最新治療法
腰椎椎間板ヘルニアの治療といえば、これまではコルセットを装着する保存療法、もしくは手術が代表的なものとされてきましたが、最近では新たな選択肢として注射を使った治療法が登場しました。どんな治療法かというと、椎間板に酵素を含んだ薬剤(ヘルニコア)を直接注射して、ヘルニアによる神経の圧迫を弱める治療法です。ヘルニコアは、日本で開発された、椎間板内酵素注入療法としての、初めての薬です。
通常、ゼリー状の髄核には保水成分が豊富にあるため、水分を含んでふくらんだ状態。ヘルニアがある髄核に、適量を注入することで、酵素の力で髄核内の保水成分が分解されて水分によるふくらみが適度にやわらぎます。結果として、神経への圧迫が改善し、痛みやしびれが軽減するのです。
注射を1回椎間板に打つのみで終了しますので、入院しても1泊程度。日帰りで行う場合がほとんどなのだとか。慶應義塾大学病院の場合、仕事は投与後2日から、スポーツ復帰は投与後3週間からとしていますので、日常生活をできるだけ制限することなく、心身ともに負担が少ないんですよ。
自分がいざ腰椎椎間板ヘルニアになったときには、こういった選択肢もあるということを知っていると、心に余裕も生まれますよね。いつ、どこで、何をきっかけになるのかはわからない腰椎椎間板ヘルニア。ぜひ日頃からできる対策をとりながら、自分の体の変化に敏感になって健康寿命を延ばしていきましょうね。
【取材協力】
岡田英次郎先生
慶應義塾大学医学部 整形外科 講師
腰椎治療のエキスパート。20年に渡り、数多くのヘルニア患者の治療にあたる。ヘルニアの最新治療法「酵素注入療法」など負担をかけない治療法を積極的にとり入れている。テレビ、新聞、雑誌等メディア出演でも活躍し、著書に「ウルトラ図解 腰・ひざの痛み―つらい痛みを軽くする最新治療と暮らしの工夫」がある。
取材・文/高田空人衣