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    カリスマ書店員・新井見枝香さんが選ぶ「コロナ禍の今こそ、読みたい本」 人間関係編

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元コミュ障アナウンサーが考案した会話がしんどい人のための話し方聞き方の教科書(左)、サキの忘れもの(右)

新型コロナの影響で、変わりゆく私たちの暮らし。こんな時代だからこそ、手探りで、自分らしい新しい暮らしや未来を切り開く—。そんなヒントを本から見つけてみませんか。カリスマ書店員として知られる新井見枝香さんが独自の視点で選ぶ「コロナ禍の今だからこそ、読みたいオススメ本」シリーズ。2回目は「人間関係」をテーマに2冊をご紹介します!


同じ商業施設の、別のテナントで働く人と、従業員用の通路ですれ違う時に「お疲れ様です」と挨拶するかしないか問題に頭を悩ませている。現在の勤め先は約60のテナントが入る、大型のショッピングセンターだ。通路で誰にもすれ違わないということは、まずもってない。お客ではないから「いらっしゃいませ」ではおかしいし、ただのご近所さんとは違うから、「こんにちは」ではフランクすぎる。しかし名前はおろか、どこの店の人なのかも判らず、そもそも見たことすらない相手にまで「お疲れ様です」という身内的な挨拶を交わすことに、どうも抵抗を感じるのだ。

大して付き合いのない取引先の人から「お世話になっております」ではなく、「お疲れ様です」と急に距離を縮められたような違和感もある。先に相手が「お疲れ様です」と屈託なく挨拶をしてくれれば、同じように返すだけで良い。だが通路に1対1で、挨拶をしようかしまいか迷いながら5メートル、3メートル、1メートルと距離を縮める時のハラハラ感たるや!先に「お疲れ様です」と言ってしまえば楽なのかもしれないが、無視された時のショックを思うと、つい口が重たくなる。だが、すれ違う瞬間に言われて受け答えができなかった時は、何かに負けたように悔しく、自己嫌悪に陥る。それこそお疲れ様だ。

新型コロナウイルスが未だ収まらない今、業務用エレベーターに複数人が乗り合わせた際、「お疲れ様です」と口を開くことにも迷いがある。だが、全員が同じことを考えてシンとした密室空間も、それはそれで不快である。学校や職場で、挨拶やちょっとした会話を交わすことが得意な人など、ほとんどいないのではないだろうか。「お疲れ様です」という言葉なんて消滅すればいいのにと思いつつ、コミュニケーションを諦めることができない。

吉田尚記さんの『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)は、そういう人にうってつけの、超実用的な教科書だ。ラジオパーソナリティとして初対面のゲストとの会話を滑らかにこなす彼が、実は元コミュ障だったと聞けば、少しはシンパシーを感じてくれるだろうか。彼は人とのコミュニケーションを、ゲームのように楽しむ方法で、それを見事に克服した。向こうからじりじりと近付いてくる相手との緊迫感も、ゲームのスリルと思えば、むしろすれ違うことが待ち遠しくなってくる。エレベーター内では会話を控えたほうがいいという新ルールにはどう対応していこうか。天気の話題のように、コロナのことを話しても大丈夫だろうか。ゲームに勝つために、頭を使う楽しさよ。失敗したって、何度でもやり直せるところも、ゲームと同じなのである。

津村記久子さんの小説『サキの忘れ物』(新潮社)は、喫茶店の店員とお客という立場で行うコミュニケーションから、物語がスタートする。何度も来店してくれるお客に対し、店員が「いつもありがとうございます」と声を掛けてもいいのかどうか問題。それが成功して距離が縮まる場合もあれば、失敗してもう二度と来てくれなくなることもある。実際私は、言われたくないタイプだ。主人公である店員は、本来そういったことをするようなタイプではなかったが、自分でも驚きつつ、お客に声を掛けた。熱心に読んでいた本が、無性に気になったのだ。そのことで、彼女の未来は大きく切り開かれていく。

新型コロナの影響で、ゆっくり読書できる喫茶店が減ってしまった。お客同士の距離を保つため、座席を間引いた店内では、長居もはばかられる。コロナ後、常連だったお客がぱったりと姿を見せなくなったこともあっただろう。だからこそ後悔のないように、ためらうことなくコミュニケーションをとれる準備をしておきたいのだ。

文/新井見枝香

【今回のオススメ本2冊】

『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』 吉田尚記 著 (アスコム) ¥1,650
元・コミュ障でゲストから「絡みにくいアナウンサー」と言われていた著者が自身の経験から編み出した超・初心者向けの会話術。誰でもすぐに使える「会話の武器」が満載のほか、実践例も掲載。

 

『サキの忘れ物』津村記久子 著(新潮社) ¥1,540
ある日、千春はバイト先の喫茶店で客が忘れていった一冊の本を手にする。それは誰からもまともに取り合ってもらえなかった彼女がはじめて読み通した本となった。十年後、書店員となった千春の前に現れたのは。人生は、ほんとうにちいさなことをきっかけに動きだす。たやすくない日々に宿る僥倖(ぎょうこう)のような、まなざしあたたかな短篇集。

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新井見枝香 /書店員・エッセイスト

新井見枝香 /書店員・エッセイスト

あらい・みえか 書店員・エッセイスト・踊り子。1980年東京都生まれ。「新井賞」の創設や、作家を招いて自らが聞き手を務める「新井ナイト」の開催など、書店員としては型破りとも言えるさまざまな取り組みが好評で、カリスマ書店員として話題に。著書に『探してるものはそう遠くはないのかもしれない』(秀和システム)、『本屋の新井』(講談社)、『この世界は思ってたほどうまくいかないみたいだ』(秀和システム)がある。雑誌でエッセイ連載や書評も担当。

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