気持ち的にも体的にもアクティブになりだす春。春服に着替えてみたら、冬に蓄えてしまったお腹の脂肪が気になる…!とい人も多いはず。もし、ダイエットをしても若いころと違ってやせづらさを感じているのなら要注意。年齢とともに脂肪をため込みやすくなっているのかも⁉ さらに最近の研究では、その状況が続くと「メタボ炎症(慢性炎症)」という有り難くない状況が進行する可能性が指摘されています。脂肪がたまるメカニズムについておさらいしつつ、脂肪をためやすい習慣を見直して、やせやすい体質づくりを目指しましょう。
Contents 目次
脂肪をためこみやすい体質とは?
どうして太るの? そしてどうして年齢とともにやせにくくなるの? そんな素朴な疑問について、肥満のメカニズムに詳しい名古屋大学環境医学研究所教授 菅波孝祥先生にお答えいただきました。
「脂肪が増えるメカニズムは単純で、摂取カロリーと消費カロリーの差で決まっています。摂取したエネルギーが消費できずに余ると、それが脂肪として蓄えられます」(菅波先生・以下同)
脂肪細胞はエネルギーを蓄えておく貯蔵庫。一度、貯蔵庫に保管された脂肪を減らすには、摂取カロリーを減らすか、エネルギーを燃やすしかありません。
ところが、年齢を重ねるごとに、エネルギーを燃やす力に変化が生まれるそう。
「私たちの体には、エネルギーを燃やす方法は主に3つあります。何もしてなくても消費される『基礎代謝』、体を動かす『運動』、そして食事により熱を生み出す『食事性熱産生』です。ところが、加齢とともに基礎代謝や食事性熱産生の力は衰え、さらに多くの人は運動量が減ってしまうため、太りやすくなってしまうのです。
人間の脳にある視床下部は、エネルギーバランスを制御するコントロール機能があります。仮に食べ過ぎて一時的に体重が増えても、自然に食欲がコントロールされ、体重は元に戻るメカニズムをもっているのです。
ところが、肥満の人はこの制御する力が破綻してきます。お腹がいっぱいでも“スイーツは別腹です”と言って食べてしまうのです」
肥満には「いい肥満」と、「悪い肥満」がある
こうして摂取エネルギー過多になると人は太ります。
「体脂肪が増加した状態が、いわゆる肥満です。同じように体脂肪が増加した場合でも、『いい肥満』と、『悪い肥満』に大きく分類されます。
後者の悪い肥満になると脂肪細胞から放出される物質が体中に炎症を起こし、それが体にさまざまな悪さをすることが最近の研究でわかっています」
これが最近話題になっている、「慢性炎症」です。
「『慢性炎症』とは、ウイルス感染にともなう発熱、ケガによる痛みなど、急に起こる『急性炎症』とは対照的に、慢性的にだらだらとくすぶるように炎症が続く状態を指します。さらには慢性炎症がおこっても自覚症状がないというのもこの炎症の怖いところです。
急性炎症を起こしたときと同じように、体の中では白血球やサイトカインなどのさまざま免疫システムが稼働するため、同じように『炎症』と呼ばれています。
少し難しい話になりますが、悪い肥満になると、通常の脂肪細胞が肥大化し、脂肪細胞内の組織構成が大きく変容します。すると、マクロファージを中心とする免疫系の細胞が脂肪組織に浸潤して活性化。それにより炎症性アディポサイトカイン(炎症性質)などの過剰産生が起こるなどし、これが体の正常な細胞まで攻撃し、炎症をもたらします。
がん、アルツハイマー、心疾患、脳血管障害、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病の要因はさまざまですが、これらの病気の根っこには、共通して慢性炎症があると考えられているのです」
「ぽっこりお腹」の人は、メタボ炎症のリスクに要注意!
残念ながら、慢性炎症に関わる「悪い肥満」を自分で判断する方法は難しいそう。
「いい肥満というのはいわゆる皮下脂肪がたまった状態のこと。一方、悪い肥満というのは内臓脂肪がたまった状態を指します。
わかりやすい指標となるのが腹囲です。お腹周りがぽっこりしている人(男性は85cm、女性90cm以上)は、内臓脂肪が多く、悪い肥満の傾向が強いと言えます」
メタボリックシンドロームとは、お腹がぽっこり出る内臓脂肪型肥満により、血圧上昇や脂質代謝異常、糖代謝異常が組み合わさった状態のこと。通称・メタボは、動脈硬化や糖尿病などの怖い病気を引き起こすと考えられています。
つまり、内臓脂肪がたまったメタボ腹は、慢性炎症を引き起こす可能性が高いサイン。このことから、過剰な脂肪の蓄積により引き起こされる「慢性炎症」を「メタボ炎症」と捉えるとわかりやすいかも!メタボ炎症がおこっていると肥満から抜け出しづらい悪循環に陥るのです。
メタボ炎症抑制と脂肪を減らす生活のポイント
メタボ炎症の予防には、悪い脂肪=内臓脂肪をためないこと。
基本的なことですが、食事、運動、ストレスなど生活習慣の見直しが大切です。
食べ過ぎや脂のとり過ぎを防ぎ、腸内環境を整える
まず食べ過ぎによる過剰なカロリー摂取を控えることは、肥満を防ぐうえでは大前提のこと。脂質のとり過ぎには気をつけたいもの。さらに注目したいのが、腸内環境です。
「三大栄養素は、炭水化物(糖質)、脂質、たんぱく質ですが、このうちたんぱく質や脂質を肉食メインでとった場合と、魚食メインでとった場合では、肉食のほうが動脈硬化のリスクが高いことがわかっています。脂(油)は、内臓につきにくい、青魚などに含まれる、オメガ3系の不飽和脂肪酸を選ぶといいでしょう。
また、体にとり込まれた脂肪酸をスムーズに代謝させるためには、腸内環境を整えることも大切だと言われています。腸内環境の向上は、悪い肥満を招かないために必要な要素になってくると思います」
腸内環境を整えるには、腸内にある善玉菌のエサとなる食物繊維や乳酸菌を含むヨーグルトや発酵食品などを積極的にとることがいいと言われています。最近では、脂肪の蓄積を抑える働きをもつ乳酸菌もあるため、欲しい機能に合わせて選ぶのもよいですね。
有酸素と無酸素の運動をバランスよくとり入れる
「運動は肥満防止だけでなく、健康維持に欠かせないものです。肥満は死亡リスクを上げる要因ですが、運動をしないと筋力だけでなく体力が落ち、死亡リスクが上がることがわかっています。
有酸素運動だけだと筋肉がわずかに減ってしまうのですが、無酸素運動をとり入れることで筋肉量を維持しながら、脂肪を同時に燃やすことができます。
さらに、運動することで、筋肉から『マイオカイン』という脂肪蓄積を防ぐホルモンが分泌されます。」
規則正しい生活を心掛ける
悪い脂肪をつけないためにも、悪習慣は見直しを。
「メタボ炎症との直接的な関係性は判明していませんが、健康維持の点から、体に悪さをするようなタバコやアルコールは控えたほうがいいでしょう。
また、睡眠が十分でないと体にとってストレスになりますから、睡眠の質を高めることも大切。不要なストレスはできるだけ避けるのが賢明だと思います」
睡眠不足やストレスがたまると食べ過ぎを招くこともあるので、カロリー過多を防ぐためにも、体にやさしい生活を心掛けていきたいですね。
メタボ炎症を防ぐことは、健康を維持するためにも大切なこと。「悪い肥満」にならないよう、食生活をはじめとした生活習慣を見直していきましょう。
取材・文/平川 恵