ドバイでは、じつは肥満が深刻

中東の湾岸諸国では、肥満とそれに伴う成人病が社会問題となっています。暑い気候のせいもあって、極度の車社会であることと、運動をしないことが主な理由。街には世界中から集まるおいしいものが数多くあることも一因です。ニュースなどで目にするアラブ首長国連邦の王族は、スリムな体型のイメージがありますよね。しかしながら国全体でみるとじつに47.5％もの人が体重オーバーとの調査結果が。保険会社の調査によれば、BMI（体格指数）の基準値は18.5～24.9とされている中、アラブ首長国連邦の平均値は25.6。国民平均そのものが「肥満」という驚きの結果に加えて、11歳から16歳までの子どもの40％が肥満で、11歳以下の20％が肥満との統計があり、事態は深刻です。
そこで昨年から急速に注目を集めているのがケトダイエットです。じつはケトダイエットは新しいメソッドではなく、1920年代に小児てんかん治療のために用いられていたという歴史があります。それが近年、減量だけでなくアンチエイジング、頭が冴える効果や特定の病気予防にも効果があると報告されブームになっているのです。
ケトダイエットを簡単に言うと、「大量の脂肪＋ほどほどのタンパク質＋超少なめの炭水化物」の食事療法。すべての穀物、乳製品、多くのフルーツ、数種類の野菜、特定の豆類とナッツ類を食べない献立です。カギとなるのは究極に減らす炭水化物で、エネルギー源として炭水化物や糖質を利用していた体が、代わりに体内の脂肪を燃焼し始めるため、減量（脂肪燃焼）するという仕組み。炭水化物を控える一方で、大量の脂肪分（食事の80％）、ほどほどのタンパク質を摂取することが重要です。つまり、糖分、加工食品、米、パスタ、小麦粉、フルーツ、でんぷん質の野菜、アルコールとフルーツジュースを制限し、ほどほどの鶏肉や魚でタンパク質を摂取、ココナツオイルなどの良質の油をたっぷり食べなければなりません。

ブームが始まって以来「4か月で13キロダウン」「2か月で10キロの減量に成功！」といった成功例がドバイでは多く聞かれています。でも、いいことづくめではないのも事実。まず始めてから最初に襲われるのが、「ケト風邪」と呼ばれる症状。疲労感、頭痛、めまいや吐き気、短気になったり、抜け毛や口臭、便秘といった症状が、体が順応するための過程で現れると知られています。また、友人との食事や飲み会の誘いも断らねばならず、社交上の問題にも直面しそうですね。家族と一緒に暮らしていれば、自分だけ別のものを食べるわけにも行かないことも。とはいえ外食はケトダイエットにマッチするメニューが少ないし、フルーツで済ませることもできないので、ハードルは高そう。自身の硬い意志と周囲の協力も必要なのです。
中東の料理は米や豆がメインで、厳しい暑さに対応するために普段から糖分をたっぷり取ります。ケトダイエットを始めると、みるみるうちに効果が出るのは食事習慣のせい、との指摘もあります。肥満度の高い人ほど、大幅減量に成功し説得力もありますが、残念ながらケトダイエットは万人に効果のあるダイエットではないと断言する専門家も少なくありません。またケトダイエットは12か月以上の長期効果の有効性が実証されていないほか、脂肪分のとりすぎによる別の健康被害にも注意すべきです。大事なことは、自分が食べるものの品質や栄養素、ボリュームに意識を向けること。ケトダイエットがこうしたライフスタイルのきっかけとなれば、それだけでも効果があったと言えるかもしれませんね。くれぐれも減量イコール健康、ではないということをお忘れなく！

文／伊勢本ゆかり、ホリ・コミュニケーション