運動不足解消に筋力トレーニングを始めてみたものの、目に見える効果が感じられない─。でも諦めるのはまだ早そうです。始めてすぐには効果がわかりにくくても、それは決してムダにはなっていないことが、米国から報告されています。筋トレを始めて最初の数週間は筋肉が増えるのではなく、姿勢やバランスの運動調節をする神経回路が活性化されているそう。脳卒中による運動機能回復のリハビリにも応用が期待されています。
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サル2頭に筋トレをさせて観察
新型コロナウイルス感染症の状況はまだ予断を許さない状況が続いていますが、それでもウエイトトレーニングなどでなまった体を鍛え直したいと考えている人も多いかもしれません。トレーニングをしたときに、筋肉を鍛えると意識するのがふつうでしょう。ただ、最近までの研究で、筋トレを開始した初めのころは、筋肉が大きくなるのではなく、まずは神経回路が発達して、順応してくることで筋力が強化されていくとわかってきました。
このたび英国ニューカッスル大学の研究グループは、いったいどんな神経回路がかかわっているのか、そのメカニズムの詳細の解明に取り組んでいます。研究グループは、サルのメス2頭を対象に、筋トレ中に起こる主要な中枢運動神経の変化を調べました。
サルには重しのついたハンドルを片手で引くように訓練して、8~9週間の間に徐々に重さを上げます。最終的にサルは自分の体重に近い6kgほどのハンドルを50回まで引けるように。3か月間筋トレを継続し、研究グループは神経と筋肉の働きを調べました。
姿勢を保つ神経回路が大切に
するとわかったのは、筋トレ中にまず神経回路の働きが高まっているということです。最初に神経でのシグナル伝達が強くなったのは、姿勢を維持する神経回路(「網様体脊髄路(RST)」という場所)。このときには、大脳からの運動指令を手足や体幹に伝える神経経路には反応は見られませんでした(「皮質脊髄路(CST)」という場所)。
3か月の筋トレ後でも同じような傾向がありました。研究グループは姿勢を維持するための神経回路が筋トレ中に活発になることから、筋力増強の原動力なのではないかと指摘しています。
姿勢を保つ神経回路は大脳から指令を出す神経回路よりも原始的。この姿勢を保つ神経回路は脳卒中後の回復にも役立つとわかっており、研究グループは、若く健康的なボディビルダーの筋トレのメカニズムが脳卒中患者にも応用できる可能性があるとしています。筋トレに取り組むときに、そんな神経の働きを意識してみるのもよいかもしれません。
<参考文献>
Lifting weights makes your nervous system stronger too
https://www.ncl.ac.uk/press/articles/latest/2020/06/liftingweightsmakesyournervoussystemstronger/
Glover IS, Baker SN. Cortical, corticospinal and reticulospinal contributions to strength training [published online ahead of print, 2020 Jun 29]. J Neurosci. 2020;JN-RM-1923-19. doi:10.1523/JNEUROSCI.1923-19.2020
https://www.jneurosci.org/content/early/2020/06/29/JNEUROSCI.1923-19.2020
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32601242/