ふだんの呼吸を見直すことは健康促進だけでなく、スポーツのパフォーマンス向上に関係します。しかし競技中に呼吸を意識するのは逆効果なのだそう。ではどうするのが正解? 今回はスポーツのパフォーマンと呼吸の関係について、呼吸コンサルタントの大貫崇(おおぬき たかし)先生に伺います。
後半では、山、海、自然などの場所で、呼吸は変わるのか? という小話も教えてもらいました。
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競技のための呼吸法ではなく、ふだんの呼吸が重要に
大貫先生は「呼吸が変わると記録も変わる」といいますが、日常生活での呼吸とスポーツで結果を出すための呼吸は、横隔膜の使い方や呼吸の長さなどに違いはあるのでしょうか。
「違いはない、というのが答えです。競技中もふだんと同じ呼吸、つまり、ろっ骨を下げて横隔膜をちゃんと動かし、深く呼吸できることが大事。いわゆる『きほんの呼吸』がベースですね。だからといって常に呼吸を意識するのはNG。競技中に『ちゃんと吐けているか…』と呼吸や体の一部に意識を向けた時点で、とくに球技をされている人は、競技への集中力が途切れてパフォーマンスは落ちてしまうことがわかっています。」(大貫崇先生/以下同略)
確かに野球の試合でバッターボックスに立ち、どうやって息を吸うか、吐くかと考えていたら球筋が見えず空振りになってしまいますね。
「スポーツでパフォーマンスを上げるには、競技に入る前の呼吸、正確には日常的に行っている呼吸が鍵になります。ウォーミングアップの段階で浅く速い呼吸になっていると、本番では興奮しますから、さらに呼吸数が上がり浅い呼吸になってしまえば、体と心のコンディションに悪影響が出ます。
ふだんの状態が深いきほんの呼吸であれば、プレッシャーがかかる場面でもそんなに呼吸が浅くならずに、リラックスした状態で力を発揮できます。ろっ骨をしっかり下げることで、横隔膜を適切に使える呼吸ができない人は、前回の記事で紹介した『呼吸エクササイズ』を行いましょう」
『誰でも簡単! 口呼吸をやめて感染症を予防する、呼吸コンサルタントが伝授する「呼吸エクササイズ」にトライ』
呼吸で「回旋」が深まると可動域がアップ
スポーツをするときの投げる、ける、打つなどの動きにはかならず体の回旋(かいせん)が伴います。パフォーマンスに不可欠なひねる動きをスムーズに行うために、次は回旋の動きと呼吸の関係について解説します。
「体を回旋するには、背骨の中央部にある胸椎と一緒に、胸椎と連結するろっ骨も回る必要があります。息を吸うとろっ骨は上や外側方向に開いて(外旋)、息を吐くと下や内側方向に閉じる(内旋)しくみになっていて、ろっ骨が閉じないと胸郭の回旋が制限されます。息をちゃんと吐けて空気が抜けると胸椎が回りやすくなり体の可動域が広がります」
ペットボトルにたとえると、水が入った状態でねじっても形は変わりませんが、水を抜くとスムーズにねじれます。ペットボトルを胸郭、水を空気に置き換えて考えるとわかりやすいですね。これならボールを投げたり打ったり、または走るときもねじれそうです。
ふだんからきほんの呼吸ができていると、スポーツをする際ほかにどんなメリットがありますか。
「深くゆっくりしたと呼吸の人は、二酸化炭素の耐性が高いので呼吸数が減ります。呼吸数が少ないと息切れがしづらくなる、上がった心拍数を早く元に戻せるなどのメリットがあります。呼吸が浅くて速いことに自分で気づいていないと、結果を出すためにトレーニングばかり増やし心身が疲弊し、大事な場面で成績を残せません。トレーニングを増やす前にまずは自分の呼吸の状態を認知して、横隔膜を上下できるようにするきほんの呼吸に立ち返えると、体がラクなところからパフォーマンスを始められます。そうすれば効率のよいトレーニングで最高のパフォーマンスを発揮できます」
ストイックに練習してもなかなか結果が出ない人は、呼吸を味方につけると余計な力を使わずよい結果が期待できそうですね。
場所が変わると呼吸は変わる? 違いは誰でも気づくもの?
海や山に囲まれた自然の多い場所に行くと、思わず深呼吸をしたくなります。大貫先生曰く「それは視野が変わってストレス値が下がることで、ゆっくりと深い呼吸になったから」だそう。
ひとつ注意したいのは、そもそもふだんの呼吸の状態がわからないと深まったかどうか認識できません。体にいいことをしても効果を実感できない人もしかり、判断基準がないからやってよかったと喜べない。違いに気づく最も簡単な術が、呼吸です。呼吸数や深さにふだんから意識を向けておくと、呼吸の変化で体の変化を感じとることができます。
取材・文/北林あい