会議や移動中など、なかなかトイレに行けない状況のときに限って、お腹がゴロゴロして困る、または、何かと忙しくなると、何日も便通がなくなってしまう……。そんな経験はありませんか。その症状は、もしかしたら、過敏性腸症候群かもしれません。腸の働きを整える食物繊維をしっかりとることが、症状の改善につながります。消化器治療の第一人者で、過敏性腸症候群にくわしいさくらライフ錦糸クリニック名誉院長の松枝啓先生と管理栄養士の金丸絵里加さんに食物繊維の効用と活用法について伺いました。
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過敏性腸症候群の改善には食物繊維をしっかりとろう
過敏性腸症候群は、ストレスによる自律神経の乱れで、排便にかかわる腸のぜん動運動がうまくいかなくなることで起こります。ぜん動運動が鈍くなると便秘に、逆に活発化しすぎると下痢になります。このぜん動運動の調整にひと役買ってくれるのが食物繊維です。食物繊維には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の2種類があります。
「そもそも腸のぜん動運動は、腸に内圧が高くなると起こり始めます。この内圧を高くするのが便で、それにはある程度のカサが必要です。不溶性食物繊維には、便のカサを増やす働きがあり、それが刺激となって、便秘の場合は、便が出るようになります。一方、水溶性食物繊維は、便の水分を吸収して固めてくれるので、下痢に効果があります」(松枝先生)
食物繊維のくわしい効用は次のとおりです。
●便秘型には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維
・不溶性食物繊維は、便のカサを増やして、腸のぜん動運動を高める効果があります。
・水溶性食物繊維は、水分保持能力によって、便の水分量を増やし、コロコロ状の便をバナナ状の便に変えます。
●下痢型には、水溶性食物繊維
・水溶性食物繊維は、水様性の便の水分を吸収して、半流動状にします。腸における便の移動時間が長くなるため、形のある便にまとまります。
・特に、果物などに含まれるペクチンには、便をかためる働きがあります。
過敏性腸症候群で下痢や便秘に悩む人は、積極的に食物繊維をとるように心がけましょう。18~69歳の女性は、食物繊維は、1日18g以上を摂取することが推奨されています。
「食べものだけで、1日に必要な食物繊維がとれないときは、イヌリン、難消化性デキストリン(いずれも水溶性食物繊維)などが配合されたお茶類を飲んでもいいでしょう」と管理栄養士の金丸絵里加さんはアドバイスします。
食物繊維が多く含まれる食べものと1食あたりのグラム数は以下のとおりです。
不溶性食物繊維が多く含まれる食品
ゆでいんげん豆(60g) 7.1g
ゆで大豆(60g) 3.5g
おから(50g) 5.6g
枝豆 (10さや/50g) 2.0g
エリンギ (1本/30g) 1.0g
水溶性食物繊維が多く含まれる食品
アボカド(1/2個70g) 1.2g
オクラ (4本 40g) 0.6g
菜の花 (1/2束 60g) 0.4g
モロヘイヤ (1/2束 50g) 0.7g
なめこ(1袋 100g) 1.1g
不溶性食物繊維と水溶性食物繊維がバランスよく含まれている食品
ごぼう(1/2本80g) 4.6g
納豆 (1パック40g) 2.7g
焼き海苔(1枚3g) 1.1g
もずく(塩ぬき)(50g) 0.7g
めかぶ(生)(20g) 0.7g
わかめ(生)(20g) 0.7g
食物繊維の中でも、おすすめは寒天
さまざまな食品に食物繊維は含まれていますが、なかでも、松枝先生がおすすめするのは、寒天です。
「不溶性食物繊維と水溶性食物繊維の両方が含まれ、便秘にも下痢にも効果があります。ちなみに、私は、毎朝、さいの目に切った寒天にバナナとヨーグルトを加え、メープルシロップをかけて食べています」(松枝先生)
寒天には、主に棒寒天と糸寒天、粉寒天の3種類があります。棒寒天と糸寒天はテングサ、粉寒天はオゴノリが原料です。1食あたりの食物繊維含有量は次のとおり。ローカロリーもうれしいポイントです。
糸寒天・棒寒天(5g)8kcal 食物繊維 3.7g
粉寒天(4g)7kcal 食物繊維 3.2g
寒天というと、みつ豆や牛乳かんといったスイーツを思い浮かべるかもしれませんが、味や匂いにクセがないので、ふだんの食事に手軽にとり入れられます。使いやすいのは、糸寒天や粉寒天です。
「糸寒天は、水でもどして、サラダに混ぜたり、和えものに使ったりできます。また、熱で溶けるので、スープやおみそ汁などには、そのまま入れてもOKです。粉寒天は、コーヒーや水など、毎日飲むものに小さじ1杯程度入れるといいでしょう。ご飯を炊くときに入れるのもおすすめ。もっちりとした食感になります」(金丸さん)
便秘型と下痢型。食事で気をつけたいことは?
便秘、下痢どちらかの症状が強いときには、食事においては、それぞれ次のようなことにも気をつけましょう。
<便秘が強い場合>
●食物繊維のとり方
水溶性食物繊維と不溶性食物繊維をバランスよくとることが大事です。基本的に食べてはいけないものはありませんが、「さつまいもは、腸内で発酵しやすいので、控えたほうがいいかもしれません」(金丸さん)
●食事のポイント
「食物繊維を含む食品と発酵食品や善玉菌のエサになるオリゴ糖などを組み合わせると、腸内環境が整い、便秘にはより効果的です」(金丸さん)
代表的な発酵食品は、キムチ、納豆、ヨーグルト、チーズなどがあります。オリゴ糖を含む食品は、玉ねぎやごぼう、アスパラガス、キャベツ、じゃがいもなどです。
<下痢が強い場合>
●食物繊維のとり方
「食物繊維を含む食品は、細かく刻んだり加熱したりして、とるようにします。たとえば、ごぼうなら、きんぴらごぼうのように炒めものにするよりも、だし汁をたっぷり使って煮込む筑前煮や炊き込みご飯にするのがおすすめです。めかぶやもずくなど、繊維が固くて量が多いものは、消化があまりよくないので控えたほうがいいでしょう」(金丸さん)
●食事のポイント
「下痢型の人にも、納豆や漬けものなどの発酵食品はおすすめですが、キムチの唐辛子や冷たいヨーグルトは、刺激になることがあります。油脂も少量にしたほうがいいので、揚げものよりは蒸したり焼いたりする調理法がよいでしょう。腸を冷やさないことも大切なので、スープや煮ものもOK。冷たいものは控えるようにします」(金丸さん)
QOLを左右する過敏性腸症候群。食生活に気をつけることで、症状を軽くすることができるので、試してみましょう。それに加えて、運動をとり入れて、規則正しい生活を送るなど、ストレスをためないようにすることも大切です。
取材・文/海老根祐子
監修
松枝 啓 先生
医学博士。さくらライフ錦糸クリニック名誉院長。
国立国際医療センター第一消化器医長、国立国際医療研究センター国府台病院院長などを歴任。消化器治療の第一人者。排便コントロール、過敏性腸症候群の研究で世界的な評価を得ている。現在は、研究活動を続ける一方で、医療の原点に戻り、さくらライフ錦糸クリニックにおいて、訪問医療を中心に、“地域の赤ひげ先生”として地域医療に貢献している。監修書に『食事療法はじめの一歩シリーズ 過敏性腸症候群の安心ごはん』(女子栄養大学出版部)等がある。
金丸 絵里加 先生
管理栄養士、料理研究家、フードコーディネーターとして活動中。栄養価計算(カロリー計算)や栄養指導、そしてその改善メニューの作成など、だれもが家庭で、楽しく、おいしく健康管理ができるような料理を提案したいと日々活動している。