オーストリア人の女性患者56人を調査

アニメは非日常を味わえるストーリーの楽しさ、人気の主題歌といった音楽的な魅力だけではなく、自分自身を考えさせるような深みもあり、人生にも大きな影響を与えてくれる存在です。そうしたアニメのなかでも人気なシリーズのひとつが、世界で人気を博しているディズニー映画。そこでウィーン医科大学の研究グループは、ディズニー映画のメリットに注目し、女性のがん治療にもよい効果があるのではないかと考えました。

研究グループは2017年12月から2018年12月に、18歳以上の婦人科がん患者（乳がん、子宮がん、卵巣がん）56人を対象に調査を実施。対象患者は化学療法を6サイクル行っています。初回治療時に、化学療法中の対象患者を「ポータブルDVDプレーヤーでディズニー映画を鑑賞」（28人）と「鑑賞しない」（28人）の2グループに分けています。対象患者には、各サイクルの前後に生活の質（QOL）を評価する調査票（欧州がん研究・治療機構によって開発されたがん患者を対象としたもの）に回答してもらい、生活の質を評価しました。

心がハッピーになるばかりではない

研究グループは、各対象患者のQOLを6サイクルの化学療法中に12回評価しています。
12回すべてに回答した50人のうち、「ポータブルDVDプレーヤーでディズニー映画を鑑賞」は25人（平均年齢59歳）、「鑑賞しない」は25人（平均年齢62歳）でした。

その結果、6サイクル中に鑑賞グループは、鑑賞しないグループに比べて、ストレスが少なく、悩みが減っていました。さらに鑑賞グループでは、がん治療による家族関係や社会活動への影響が少なくなっていることが示されました。

点数で見ると、鑑賞グループの平均スコア86.1点であったのに対し、鑑賞しないグループは63.6点と低くなっていました。また鑑賞グループでは、倦怠感の症状改善の平均スコアが85.5点でしたが、鑑賞しないグループは66.4点。一方で、全般的健康度については、ディズニー映画の鑑賞の有無に関連性はみられませんでした。

研究グループは今回の研究結果から、化学療法中にディズニー映画を鑑賞すると、情緒的に安定し、家族関係や社会関係が維持され、倦怠感の症状が改善することがわかったとまとめています。

研究グループはディズニー映画について、キャッチーな音楽で楽しませてくれるだけでなく、ハラハラドキドキするストーリー展開にも魅力があるといいます。またディズニー映画は76分から140分と一般的な音楽療法の30～45分よりも長いこともメリットとして挙げています。患者はディズニー映画を鑑賞することによって、少なくとも治療の3分の１の時間は気が紛れていました。

研究グループは、映画は音楽よりも五感を刺激することもメリットとして挙げています。日本でも女性のがんは身近な問題になっています。こうしたアニメの効果は参考になるかもしれません。

＜参考文献＞

Pils S, Ott J, Reinthaller A, Steiner E, Springer S, Ristl R. Effect of Viewing Disney Movies During Chemotherapy on Self-Reported Quality of Life Among Patients With Gynecologic Cancer: A Randomized Clinical Trial. JAMA Netw Open. 2020;3(5):e204568. doi:10.1001/jamanetworkopen.2020.4568
https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2765705