今年も暑い夏がやってきます。毎年「暑い」と言っているような気もしますが、実際に日本の夏の平均気温は100年あたり1.11℃の割合で上がっているのだとか。ここ数年は、熱中症による救急搬送者数も増加し、2018年6~9月で9万2710人、2019年6~9月で6万6869人と、毎年多くの人が病院に搬送されています。
本格的に気温が上昇し始めた今こそ、正しい知識を身につけ、熱中症にならないための暑さ対策をしておきましょう。「私は熱中症にならないから大丈夫」と思っている人は、要注意! 必要な対策について、『熱中症ゼロへ』のプロジェクトリーダーである、日本気象協会の曽根美幸さんに教えていただきました。
Contents 目次
「熱中症」とはどういった状態?
「熱中症」とは、2000年に医療業界で統一された言葉。以前は「日射病」や「熱射病」など複数の病名で呼ばれていました。一般的に「熱中症」とはどのような状態を示すのでしょうか?
「熱中症は、高温多湿な環境に私たちの身体が対応できないことで生じる、さまざまな症状の総称です。夏の暑い日にだけ、熱中症にかかるというわけでもなく、急な気温上昇や身体が暑さに慣れていない時にも、危険性が高まると言われています。また、熱中症の症状もさまざまで、めまいや顔のほてりを感じる人、こむらがえりなど筋肉の痙攣を引き起こしてしまう人、だるさや吐き気、意識を失う人など、暑さによって身体の調子が悪くなってくることを総称して『熱中症』と呼んでいます」(日本気象協会・曽根美幸さん)
熱中症を引き起こす主な要因には、3つあると言われています。
①環境:気温・湿度の高さ、風の有無
②からだ:年齢や健康状態
③行動:運動、屋外での作業、水分補給の有無
平常時は体温が上がってきた時、うまく熱を放出し通常の体温に戻せる力を持っているのですが、3つの要因が重なってくることで体が熱を放出できなくなり、熱中症が引き起こされてしまうのだとか。自分が今いる環境と健康状態、これからどのような行動をするかに合わせて対策を行いましょう。
2020年の夏は、例年以上に熱中症対策が必要!
2019年は梅雨が長引いたため、7月は“梅雨寒”となった所もありましたが、2020年の気温は平年並か高くなるとも言われています。しかも今年は、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、屋内での活動が増えるほか、外出時はマスクの着用が必要となる場面が増えるでしょう。実は、例年以上に熱中症対策が必要なのです。その根拠となるポイントを3つに絞ってみました。
1.自粛生活長期化により、暑さに身体が慣れていない
2.昨年の熱中症発生場所No.1は、住居内で起きていた
3.外出時のマスク着用では、水分補給を忘れがちになる
春先から夏にかけては気温も徐々に高くなっていくため、日常的に外気と触れていれば、身体も徐々に外の気温に慣れてくるのですが、今年は外出を控えている人が多いため、夏本番を迎えた時に身体が最高気温30℃以上の真夏日に耐えられない、ということが考えられるそうです。
では、「家にいることが多いから熱中症は関係ない」のでしょうか? その答えは、いいえ。実は、昨年の熱中症発生場所第1位は住居! なんと2万7500人もの人が、リビングや自宅の庭などで熱中症を発症しているのです。
さらに、2020年は新型コロナウイルス対策で外出中はマスクが手放せない夏になることが予想されます。詳しくは次の項目でご紹介していきましょう。
目下マストアイテムの「マスク」はキケン?
先日、厚生労働省からも『気温・湿度の高い中でのマスク着用は要注意』という発表もされましたが、新型コロナウイルスのことを考えると、マスクを外して外出するというのは避けたいところ。状況に合わせて適宜マスクをつけ外しするなど、熱中症予防につとめる必要もありますが、特に気をつけたいことはどのようなことでしょうか?
キケン1. マスクによる放熱の妨げ、呼吸のしにくさによる体温の上昇
普段からマスクをしていると「息苦しい」と感じることはないでしょうか。普段何気なく行っている呼吸ですが、実は冷たい空気を体に取り込み、温かい空気を出すことによって体から熱を放出する役割も果たしています。マスクを着用しながらの呼吸は、放出した温かい空気をマスクに留め、また温かい空気を吸ってしまっているので、体内に熱がこもる原因のひとつになってしまうのだとか。また、呼吸のしにくさから、筋肉にも負荷がかかり、体温が上がりやすくなってしまうということもあるそう。
暑い日の外出は、マスクを付けていると呼吸だけで体温を下げることが難しいので、通気性のよい服装や、体を冷やすグッズを上手に使いながら、体温を下げることを意識するのがポイント。また外出先から戻った時には、新型コロナウイルス対策の手洗いうがいに加え、快適な室温に冷房機器を使って調整することも忘れずに行うようにしましょう。
キケン2. 水分補給のしにくさ
もうひとつキケンなことが、水分補給のしにくさ。
「昨年までは、喉が乾いたら手軽に水分補給ができていましたが、マスクがあることで水分補給する頻度が減ってしまうのではないか、と懸念されています。室内はもちろん、外出時も意識的にこまめな休憩をとりながら、水分補給することを心がけてもらいたいです。また、環境省の『熱中症環境保健マニュアル2018』によれば、飲料は5〜15℃が吸収が良く、身体を冷やす効果もあると言われています。ただ、お腹の調子や運動量に合わせて、水温も調整するようにしてください」(曽根さん)
水分補給と合わせて、汗をかいた時には適度な塩分補給も大切です。また「どれくらい水分を補給すればいいかわからない」という人に向けて、『熱中症ゼロへ』プロジェクトのサイトでは、熱中症セルフチェックが簡単に行えます。
項目を選択することで、熱中症危険度レベルと1時間あたりに必要な水分量がわかるため、外出する前や、在宅勤務中でも気軽に熱中症リスクを把握することが可能です。スマホやPCにこのサイトをブックマークしておけば、毎日の習慣としてセルフチェックすることができますね。
熱中症のサインとは?
いくら気をつけていても、熱中症を発症してしまうこともあります。熱中症は『高温多湿な環境に、身体が対応できないことで発症』するため、症状は人によってバラバラ。コレというサインもないため「もしかして?」と思った時にはすでに熱中症だった! なんてことも。実際に熱中症になると、どんな症状が出てくるのか、主な症状を紹介します。
主な症状
①めまいや顔のほてり
②筋肉痛や筋肉のけいれん
③体のだるさや吐き気
④汗のかきかたがおかしい
⑤体温が高い、皮ふの異常
⑥呼びかけに反応しない、まっすぐ歩けない
⑦水分補給ができない
「自宅だから大丈夫」「私は熱中症にはならないから」という油断は禁物。日頃から自分がいる場所の温度・湿度を把握しておくことも予防につながります。また自分だけでなく、家族や周りの人にも「水分とっている?」「体調は大丈夫?」「塩分は足りている?」と気配りしあえる関係性を作ることで、熱中症にもいち早く気付くことも可能になります。
油断や過信はせず、誰にでも熱中症にかかるリスクがあるのだという意識を持って生活するようにしましょう。
どのように応急処置をしたらいい?
もし家族や近くにいる人が熱中症になってしまった場合、まずはクーラーが効いた涼しい室内や車内に移動し、安静にすることが大切です。
次に上の図のように、両側の首筋、脇の下、足の付け根といった太い血管が通っている部位を、氷枕や保冷剤などでしっかりと冷やしましょう。水をかけて、うちわであおぐだけでも体を冷やすことができるそう。
また「水分」と「塩分」補給も忘れてはいけません。嘔吐や意識がない時には水分が気道に入り込んでしまう場合があるため無理に水分を与えてはいけません。また、カフェインやアルコールは水分補給にはならないため、水や塩水(水1リットルに対して、塩1~2g程度)、スポーツドリンクなどで補うようにしてください。
応急処置について詳しくは、『熱中症ゼロへ』のサイトで確認しましょう。どのタイミングで医療機関に相談するのが良いか、救急車を呼ぶタイミングなど、詳しい情報がまとめられていますので、あらかじめ確認し、いざと言う時に備えておくことも大切です。
どういった時期・人・服装・環境が要注意?
具体的にどんな時期、どんな人、服装、環境に注意すればいいのでしょうか?
気温と湿度が高くなる時期に注意
熱中症は主に5~9月に発症し、気温と湿度が高くなることで発症する危険が高まります。同じ30℃という気温でも、5月と8月では体感温度が異なります。気温と湿度が急激に高くなる時や、暑さに慣れていない時が熱中症にかかりやすいタイミングだと覚えておきましょう。
熱中症の52%は高齢者!
熱中症で搬送される半数以上が高齢者 (消防庁「令和元年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況」より)。もともと体内の水分量が少ないため暑さに気づきにくいことが原因とされています。高齢者の熱中症対策としては、日頃から気温と湿度を“見える化”させておくことが重要です。室温が○○度以上になったらクーラーをつける、○時間ごとに換気をするなど、家族でルールを決めておくようにしましょう。
衣類は素材で選ぼう
夏の暑い日には、ノースリーブなど肌の露出が高いものを着たくなりますが、直射日光から肌を守ることも大切です。暑いからといって必ずしも露出の高い服装が正解とは言えません。夏場の服装は、通気性がよく、吸水性・速乾性が高い素材を選ぶことで体の熱を上手にコントロールしてくれます。またピッタリと肌にくっつくデザインより、女性ならワンピースのような風通りがよいデザインの服装もおすすめです。
住居内で熱中症にかかりやすい場所は?
今年の夏は、在宅ワークをする人や、通常の学校生活と異なるスケジュールで動く子どもが増えることが予想されます。家の中のどこに熱中症リスクが潜んでいるのか、イラストを参考に把握しておきましょう。
例えば、キッチンは火を使う場面が多くあるため、高温多湿になりやすい場所。猛暑日のような暑い日は換気を強めたり、冷房が届く位置で作業したり、なるべく火を使わずに調理をするなど工夫が必要です。
また子どもがいる家庭では、保護者が室温をしっかりと管理し、遊んでいる時にも子どもの好きなタイミングで冷たい飲み物を飲めるようにしておくことも大切です。まだ言葉をうまく発することができない乳幼児の場合は、体調が悪いことをうまく伝えられないため、保護者がこまめに気にかけてあげることが必要になってきます。
普段からすべき対策って?
普段からちょっとの工夫で熱中症を予防することができます。水分・塩分を適度に摂取し、温度・湿度を見える化して自分の環境を把握する、という対策が一般的ですが、他にはどんな対策が必要なのでしょうか?
「2020年は、体が暑さに慣れない状態で夏を迎えることになります。これまでの夏は外に出ることで少しずつ汗をかきながら、夏に向けて体の準備ができていました。暑さに慣れるためにも、室内でできる軽い運動や、シャワーだけでなく湯船に浸かることで、汗をかく練習をすることが大切です。
ただし一点だけ注意点が。入浴などで汗をかくと“美味しいビール”が欲しくなると思うのですが、これは水分補給にはなりません。アルコールには利尿作用があるので、ビールだけでは脱水症状を引き起こしやすくなってしまいます。入浴前の水分補給、そして入浴後のビールに加えて水分もしっかり補給してくださいね」(曽根さん)
入浴に関しては、朝でも夜でも入る時間に制限はないとのこと。一方で浴室は高温多湿の熱中症になりやすい場所でもあるので、常に換気を行って、水分補給をしっかりした上で入浴するなど、心がけも大切です。
汗をかく習慣づけを、今の時期から少しずつ始めておきましょう。
どういったグッズを活用すればいい?
『熱中症ゼロへ』プロジェクトでは、オフィシャルパートナーと共に熱中症対策グッズを展開する際に、プロジェクトロゴを商品につけ、ひと目で熱中症対策グッズを見つけられるような取り組みを行っています。いくつか紹介していきましょう。
・かけるだけでOKの「そうめんつゆ」
ヤマサ醤油「あごだしつゆストレート/かけるそうめん専科青じそ/塩レモンつゆストレート/梅こんぶつゆストレート」
各290円+税
ヤマサのストレートつゆのシリーズは、バリエーションも豊富。今年の新商品「ヤマサ塩レモンつゆストレート」は、そうめん以外にも野菜やサラダチキンとの相性も抜群なんだとか。在宅勤務でランチタイムも自宅で……という人も多いと思いますので、日替わりの美味しいそうめんつゆで楽しむというのもおすすめです。
・男性も「日傘」で日差し対策する時代!
小川「LINE DROPS -0&」
3000円+税~
日傘ブランド、LINE DROPS の「-0&(ゼロアンド) 」は、男性をはじめ、初めて日傘を持つ人におすすめのブランド。これまでは花柄やレース地など女性向けの商品が多い日傘でしたが、男性でも使いやすいデザインはうれしいですね。外出時にはマスクと合わせて、日傘もマストアイテムとして持ち歩きましょう。
・アウトドアでもおしゃれな「空調服」
空調服「空調服」
オープン価格
空調服というと、工場や工事現場で使われていた“作業着”が一般的だったのですが、その名も「空調服」というメーカーが展開する最新モデルは、プライベートシーンでも着られるデザインに。左右の腰のあたりにファンが取り付けられており、そこから空気循環させることで体を冷やし、快適に過ごせます。アウトドアでも活用できそうですね。
・手ぶらで涼める「ポータブル扇風機」
スパイス「ダブルファン ハンズフリー ver.2.0 ポータブル扇風機」
3000円+税
昨年頃から、手持ちの扇風機を持つ人たちが街に増えましたが、今年はなんと、首からかけるモデルも豊富に。手ぶらで使用できるので、外出時はもちろん、メイク中や料理中、エアコンをかけるほどではないものの蒸し暑さが気になる勤務中など、相手に失礼がないシーンならどんな時でも活用できます。約225gと軽量なので、首への負担も気になりません。
・お菓子で塩分補給できる「ビスケット」
ギンビス「アスパラガスビスケット」
30円+税
水分補給は出来ても、塩分補給は忘れがち。そんな時は誰もが一度は食べたことのある「アスパラガスビスケット」がおすすめ。コンビニ等でも購入できる6本入りは30円(標準価格)とお手頃なので、外出時にカバンに忍ばせておけば、水分補給と一緒に塩分も補給できます。
・大切なペットの熱中症対策もお忘れなく!
コンビ「アイスバッテリー アイスマットEGプラス」
1万円+税
自宅に犬や猫など、ペットがいるなら、常に冷房をつけておくなど対策はしている人も多いかと思いますが、家の中にはどうしても暑くなってしまう場所も。また保冷剤だと結露も気になるし、冷えすぎも心配。そんな場合には「アイスバッテリー」がおすすめ。冷凍庫で1000回以上繰り返し冷やして使用でき、結露にもなりにくい特殊加工がされているので安心。
「熱中症ゼロへ」プロジェクトとは?
曽根さんに、ここまでたっぷりと紹介していただきましたが、ほかにも『熱中症ゼロへ』プロジェクトでは熱中症にかかる人を減らし、亡くなってしまう人をゼロにするための対策を積極的に取り組んでいます。2013年に一般財団法人 日本気象協会が推進しスタートしたこのプロジェクトは、啓発コンセプト『①知って ②気づいて ③アクション』を掲げ、さまざまな活動を行っています。詳しくは、『熱中症ゼロへ』のサイトをチェックしてみてください。
Profile
日本気象協会「熱中症ゼロへ」プロジェクトリーダー / 曽根美幸
千葉県出身。北海道大学で社会心理学を専攻し、人間行動(人々の行動を変えるトリガー)について学んだのち、日本気象協会に入社。防災情報アプリの企画開発や、化粧品メーカーとコラボしたコンテンツの考案などを手掛ける。2018年から「熱中症ゼロへ」プロジェクトのリーダーを務める。「人の心を動かすことで行動を変え、社会の役に立つようなサービス」をテーマに幅広い活動を行っている。
GetNaviがプロデュースするライフスタイルウェブマガジン「@Living」