お肌の大敵だし目にもよくないとされる日光ですが、このたび、脳の働きに与える影響にも注意が必要という報告がありました。直射日光を長い間、頭や首のうしろに受けていると、脳の理解力や判断力などに影響して、複雑な体の動きが鈍くなるというのです。それも、暑さで熱中症の重い症状が出るよりずっと早めに現れるといいます。
Contents 目次
1年間で救急搬送は国内で7万人超
日本でも熱中症の問題が年々注目されるようになってきています。2019年の5~9月に熱中症で救急搬送された人は7万人を超えます。さらに、そこまで至らない程度であれば、無数の人が影響を受けていると考えてよいでしょう。熱中症で亡くなる人は2018年には1581人にも上りました。
暑い環境による熱中症などの健康被害は、高齢者や屋外で働く人はいうに及ばず、ふつうの健康な人でも相当に大きいため、世界的にさまざまな研究が行われています。
このたびデンマークとギリシャの研究グループは、外で立っていたり歩いていたりして、頭に直射日光を受けたときの脳への影響に注目しました。実験室のなかで頭の上、左右、うしろから日光とほぼ同じ光を当てるという設定で、健康な男性8人にコンピュータ画面上でカーソルを動かしたり、計算してもらい、脳の認知機能(思考力や計算など)と運動機能(精密な指の動きなど)を測定。日光の影響を調べました。
光を受ける時間が短い場合(15分)と長い場合(直腸で測った深部体温が1℃上がるまで)の検査結果を出して、同じように下半身に3方向から光を当てた場合とで結果を比較しました。
重い熱中症にならないレベルでも危険
ここから見えてきたのが、頭に光を当てた場合、直射日光を頭に浴びると、熱中症にならないレベルでも脳に悪影響が及んでしまうということでした。時間が短いと影響はありませんが、長くなると認知機能と運動機能を組み合わせて使う能力が低下したのです。さらに、この低下は一般的には重い熱中症とは見なされないレベルの体温上昇(深部体温38.5度くらい)で発生しました。下半身に光を当てた場合は、長くても短くても検査結果に影響は見られませんでした。
この結果から、暑い環境による悪影響を考える場合、直射日光が脳に与える影響も考慮する必要があると研究グループは指摘。農業や建設、運輸などの分野では、集中力や運動機能が下がると効率低下だけでなく命の危険にもつながるため、帽子などで頭を守ることが大切と強調しています。人間の活動はだいたいが認知機能と運動機能を組み合わせたものですから、高齢者や屋外で作業する人に限らず一般的にも、頭に受ける直射日光には気をつけたいところです。
<参考文献>
2019 年(5月から9月)の熱中症による救急搬送状況(総務省)
https://www.fdma.go.jp/disaster/heatstroke/items/heatstroke004_houdou01.pdf
Working in the sun – Heating of the head may markedly affect safety and performance
https://nexs.ku.dk/english/news/2020/working-in-the-sun/
Piil JF, Christiansen L, Morris NB, et al. Direct exposure of the head to solar heat radiation impairs motor-cognitive performance. Sci Rep. 2020;10(1):7812. Published 2020 May 8. doi:10.1038/s41598-020-64768-w
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32385322/
https://www.nature.com/articles/s41598-020-64768-w