炎症性腸疾患はクローン病や潰瘍性大腸炎といった病気を含む一連の腸に炎症を引き起こす病気をいい、悩まされる人が増えています。日本国内では難病に指定され、原因には未解明な点も多いのですが、徐々に原因などが明らかになってきています。海外の研究で指摘されるのは栄養素や腸内細菌との関連。トリプトファンというアミノ酸が関連するとの報告が出ており、食生活や日常生活を考えるうえでのヒントになりそうです。
Contents 目次
腸の健康に影響するものは
炎症性腸疾患は文字通り大腸や小腸の炎症が続き、腹痛や下痢、血便、体重減少に悩まされる病気です。国内では公的支援を受けるための医療受給者証交付件数から、病気の増加が見られ、2018年度には潰瘍性大腸炎の件数は12万4961件、クローン病は4万2548人となっています。新たな治療法が登場し病気に悩まされる人の増加は押しとどめられていますが、いったん病気になるとその状況に長く苦しむ人がいるのもたしかで、病気をより効果的に治すための手段が求められています。
このたび中国と米国の研究グループが、腸に炎症が起こる仕組みについて栄養の観点から分析し、報告しています。炎症性腸疾患を引き起こす要因としては、遺伝、栄養、腸内細菌が関係していると考えられています。これまでに栄養素のなかでもアミノ酸の一種であるL-トリプトファンという栄養素が症状を軽減することがわかっていました。トリプトファンは体のなかでセロトニンと呼ばれるホルモンにつくり替えられることが知られ、これが関係しているのではと推定されていました。このたび研究グループは、動物実験によって、飲み水に溶かしたトリプトファンを摂取した場合の腸の炎症に対する効果について調べています。
腸炎の悪化を防ぐ効果を確認
ここから確認されたのは、飲み水にトリプトファンを溶かしたことで、腸の炎症が軽減されることです。腸に対して炎症を起こすDSS(デキストラン硫酸ナトリウム)という薬剤を使うと、実際に炎症が起こるのですが、一緒にトリプトファンを飲料水から摂取することで腸の炎症を軽くできると確認されました。トリプトファンを摂取すると、腸内のセロトニン減少などが起きる仕組みがあるとも確認されました。
詳しく分析すると、セロトニンと相互作用する「セロトニン受容体」と呼ばれるたんぱく質の働きが調節されることがわかりました。腸の炎症にセロトニンが関係しているのですが、トリプトファンを摂取することでこのセロトニンの働きに影響を及ぼすことから炎症を抑えるというメカニズムが考えられました。
腸の病気は遺伝ばかりではなく、食事や腸内細菌など複雑な要因がからみ合って起きると考えられています。そうしたなかで、症状を抑える可能性をもった物質として、たんぱく質の構成要素のひとつである、トリプトファンが注目されそうです。
<参考文献>
潰瘍性大腸炎(指定難病97)(難病情報センター)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/62
クローン病(指定難病96)(難病情報センター)
https://www.nanbyou.or.jp/entry/81
Tryptophan impacts colitis inflammatory responses through mechanisms involving serotonin
https://nutrition.org/tryptophan-impacts-colitis-inflammatory-responses-through-mechanisms-involving-serotonin/
Wang B, Sun S, Liu M, et al. Dietary L-Tryptophan Regulates Colonic Serotonin Homeostasis in Mice with Dextran Sodium Sulfate-Induced Colitis. J Nutr. 2020;150(7):1966-1976. doi:10.1093/jn/nxaa129
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32386234/
Alvarado DM, Ciorba MA. Serotonin Receptors Regulate Inflammatory Response in Experimental Colitis. J Nutr. 2020;150(7):1678-1679. doi:10.1093/jn/nxaa160
https://academic.oup.com/jn/article/150/7/1678/5854499