30代後半から増え始め、今や女性の9人に1人がなるともいわれる「乳がん」。年々増加傾向にある一方で、早期発見・早期治療につなげれば9割以上の人が治る可能性があるがんでもあります。そこで、今回FYTTEでは4回シリーズで乳がんの特徴や検診、治療のポイントをお伝えしていきます! 1回目のテーマは「乳がんってどんな病気?」。乳がん治療のエキスパートである、昭和大学医学部乳腺外科教授の明石定子先生におうかがいしました。
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乳がんは増えている!
日本では年間約9万人が乳がんと診断され、2003年に約4万4千人だった罹患者数は約2倍に増加。死亡数は2018年に約1万5000人と、がん死亡数5位となっています。
「乳がんは30代後半から増えてきますが、肺がんや大腸がんなどのように年齢とともに罹患率が上がっていくわけではありません。最近では40代後半と60代前半でピークがみられる特徴があり、そういった意味ではほかのがんと比べて比較的若い年齢から気をつけなければいけない疾患といえます」と明石先生。
乳がんは乳腺という組織にできる悪性腫瘍(がん)のこと。乳房には母乳をつくる乳腺組織や脂肪などがあり、乳腺は小葉と乳管から成ります(図)。
乳房の構造
初期には自覚症状がありませんが、進行とともに症状が現れてきます。代表的な症状には乳房のしこりや変形、乳頭からの分泌液(主に血液)などがあります。
「乳がんは痛みがほとんどありません。また、しこりは乳腺があるところはどこにでもできるので、“できやすい特定の場所”というのはありません。ただ、乳房の外上側は面積が広い分、面積に比例してしこりが見つかりやすい場所ではあります」
生理の回数が多い人はリスクが上がる!?
明石先生によると、乳がんのリスクを上げる要因には、遺伝、閉経後の肥満、飲酒、喫煙、生理のある期間が長いなど女性ホルモンとの関連の可能性、動物性脂肪が多い食事などが挙げられるそう。
たとえば、食事について。
「動物性脂肪の摂取が多い食事は乳がんと関係がある可能性が指摘されており、乳がん増加の背景に食事の欧米化があると考えられています。一方、日本人を対象にした研究データでは、みそ汁を毎日3杯以上飲んでいる人は飲まない人より乳がんリスクが減ったという結果もあるので、乳がん予防には大豆製品はじめ和食を中心に一汁三菜といったバランスのよい食事がよいといえるでしょう」
また、女性ホルモンのエストロゲンの分泌期間が長い人―つまり生理を迎える回数が多い人ほど乳がんになりやすいことがわかっています。
「出産経験がない人や高齢出産の人はそうでない人に比べ生理の回数が多いので、乳がんリスクが上がります。また、11歳未満での早い初潮や55歳以上での遅い閉経の人も注意が必要です」
しこりがあっても慌てずに! 目安は「かたさ」
乳がんがほかのがんと違うのは、セルフケアによって自分で見るけることができる点。また、早期発見により、適切な治療を行えば生存率が伸び、約9割の人が通常の生活に戻ることができるといわれています。
すぐにできるチェック法として、乳房を触るセルフチェックがありますが、しこりを見つけてもすぐに乳がんが疑われるわけではありません。
しこりには乳がんとは関係しない良性のしこりと、悪性(つまり乳がん)のしこりがあります。目安はかたさの違いです。
「消しゴムぐらいのかたさで、触るとぷるんと動いて逃げるような感じのものであれば、良性のしこりの場合が多いです。一方、石のようなかたさの場合は乳がんの可能性が強く疑われます」
よくあるしこりには次のようなものがあります。
・嚢胞(のうほう)……乳管のなかに水がたまって袋状になり、しこりのようになったもの。
・乳腺症……女性ホルモンの変動によって乳腺の細胞が増減し、痛みやしこりなどが現れた状態。
・線維腺腫……良性腫瘍の代表格。乳腺の細胞が過剰に増えて、しこりになった状態。
「たとえば、20〜30代の若い世代によく見られるしこりは、線維腺腫や嚢胞であることが多いですね。生理前にしこりがあって痛いという人がよくいますが、生理後に消えていれば特段心配する必要はありません。とはいえ、しこりを自己判断するのは難しいもの。乳がんは心臓病のように一刻を争う病気ではないので慌てる必要はありませんが、生理が終わっても消えないしこりを見つけたら検査を受け良性かどうかを診断してもらうことが大切。乳腺クリニックを受診しましょう」
次回は「セルフチェック」と「検診」のポイントについて詳しくお伝えしていきます。
イラスト/森 千章 取材・文/浜津樹里