腸の不調の原因になる炎症性腸疾患は、安倍首相が退任した理由のひとつとして注目されました。炎症性腸疾患には潰瘍性大腸炎とクローン病という病気が含まれており、日本でも多くの人が悩まされています。腸の内部がただれるなどして生活に支障を来たしますが、海外の研究によると、そのメカニズムも徐々に明らかになってきているようです。
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クローン病はなぜ起こる?
クローン病は前述の通り腸に炎症が起こってただれてしまう病気のひとつで、何が原因となるのか研究が進められています。クローン病になると薬で治しきれずに、ただれてかたくなってしまった腸の一部を手術で除くこともあります。そのときに病状の悪化を知る手がかりになるのが、腸が脂肪によって厚く覆われてしまう症状です。クローン病特有の特徴となっており、「クリーピング脂肪」――腸を這うように存在する脂肪と呼ばれます。同じ炎症性腸疾患の潰瘍性大腸炎では見られないため、理由はよくわかっておらず、これまで謎とされていました。
米国の研究グループは、このクリーピング脂肪が病気を悪化させているのか、または逆に何かから腸を守っているのか、その影響を調べたのです。手術を受けた11人の患者からの小腸と脂肪組織をとって検査して、詳しく分析しました。
関連していたのは腸内の細菌
こうして判明したのは、腸を覆う脂肪が増えてしまうのは、ある腸内細菌が影響しているということです。このたびクリーピング脂肪ができる理由として浮かび上がったのは、「クロストリジウム・イノキューム」という細菌が腸から漏れ出ようとして、この細菌が全身に回らないよう体を守っているということ。脂肪が厚く腸を包むことで保護しようとしていると見られたのです。
この脂肪は体にとっていいように見える半面で、腸の周囲を線維質のかたい組織で包んでしまい、腸が正常に機能できなくなる原因にもなっていました。クリーピング脂肪はよい面がある一方で、悪い面があるわけです。結果として、かたくなった腸を手術で切りとらなくなる場合があるわけで、難しい問題といえます。ひどくなると手術は唯一の選択肢になり、人生を変えるほど心身に影響を及ぼす可能性もあるのです。
クローン病は日本でも少なくありませんから、こうした研究から新しい治療が生まれてくることが望まれます。クローン病では腸内細菌の存在が病気を重くしている可能性があるという事実は、病気の人にとって参考になる研究になってきそうです。
<参考文献>
Medical Mystery: ‘Creeping Fat’ in Crohn’s Patients Linked to Bacteria
https://www.cedars-sinai.org/newsroom/medical-mystery-creeping-fat-in-crohns-patients-linked-to-bacteria/
Ha CWY, Martin A, Sepich-Poore GD, Shi B, Wang Y, Gouin K, Humphrey G, Sanders K, Ratnayake Y, Chan KSL, Hendrick G, Caldera JR, Arias C, Moskowitz JE, Ho Sui SJ, Yang S, Underhill D, Brady MJ, Knott S, Kaihara K, Steinbaugh MJ, Li H, McGovern DPB, Knight R, Fleshner P, Devkota S. Translocation of Viable Gut Microbiota to Mesenteric Adipose Drives Formation of Creeping Fat in Humans. Cell. 2020 Sep 22:S0092-8674(20)31150-8. doi: 10.1016/j.cell.2020.09.009. Epub ahead of print. PMID: 32991841; PMCID: PMC7521382.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/32991841/
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)31150-8