座りがちな生活は健康によくない──そうした事実は研究で明らかにされており、体を動かすことは健康に大事というのは半ば常識になっています。でも、仕事で肉体を酷使してしまうのは少し話が別のようです。このたび仕事として肉体労働を続けている人は健康上のリスクにもつながるという報告がありました。
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会社従業員5000人を追跡調査
肉体労働というと、介護職のほか、医療、保育の現場、サービス業などで体を酷使しがちな職種が当てはまってくるでしょうか。体を動かすことは健康によいとされるものの、同じ体を動かすのでも、それが仕事での話となると苦痛になりやすいのかもしれません。実際、厳しい肉体労働は心臓の血液循環のほか、さらには脳への血液供給によくない影響を与える可能性があるという研究結果もあるそうなのです。
そうしたなかで肉体労働と関係しているのではと指摘されているのが認知症のリスクです。年をとるまでは想像しづらいところですが、日本でも65歳以上の7人に1人が認知症と推計されており、身近な問題になっています。世界保健機関(WHO)のガイドラインでは、運動はどちらかといえば認知症のリスクを下げるためにはよいとされます。それが肉体労働での運動を続けている場合には異なるというのです。このたびデンマークのコペンハーゲン大学などの研究グループは、余暇に行うスポーツや運動と、職業としての肉体労働に分けて、認知症のリスクに与える影響を調べてみました。
今回の研究では、コペンハーゲンの大手企業14社の男性従業員5000人近くを、1970年から2016年にかけて追跡調査したデータを分析しました。毎日どのような仕事をしているのか、社会・経済的な背景やライフスタイル、血圧や精神的ストレスなども含めて、アンケート調査を実施。調査期間中に約700人が認知症になりました。
余暇の運動ではリスク低下も
こうして分析から明らかになったのが、厳しい肉体労働に従事していた人は、デスクワークだった人と比べて、認知症になるリスクが55%高いことです。これはライフスタイルや寿命などさまざまな要素を考慮して分析した結果。また、余暇に運動をしていた人は、していなかった人に比べて認知症になるリスクが低い傾向も見られました。
この結果から、研究グループは、「認知症になりにくくなるとして推奨されている“運動”は、余暇に行うスポーツや運動に限られる」と結論。そのうえで、仕事として体を使う場合の関係性についてはもっと研究する必要があると指摘しています。
今回の研究グループに加わったデンマーク国立労働環境研究センターでは、厳しい肉体労働を体によい「運動効果」が得られるように変える方法についても、引き続き研究を進めているそう。仕事での体の疲れを完全に無くしていくのは難しいですが、生活に入浴やストレッチなど自分を癒やせる工夫を意識的にとり入れるのは大切だといえるかもしれません。
<参考文献>
認知症施策推進総合戦略(新オレンジプラン)(厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12300000-Roukenkyoku/nop1-2_3.pdf
Hard physical work significantly increases the risk of dementia
https://healthsciences.ku.dk/newsfaculty-news/2020/10/hard-physical-work-significantly-increases-the-risk-of-dementia/
Nabe-Nielsen K, Holtermann A, Gyntelberg F, Garde AH, Islamoska S, Prescott E, Schnohr P, Hansen ÅM. The effect of occupational physical activity on dementia: Results from the Copenhagen Male Study. Scand J Med Sci Sports. 2020 Oct 10. doi: 10.1111/sms.13846. Epub ahead of print. PMID: 33038033.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/sms.13846
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/33038033/