妊娠中は健康に敏感になりますが、そんなときに気になる症状のひとつが血圧の上昇です。正常な血圧だった人が、妊娠20週以降に高血圧になると「妊娠高血圧症」と呼ばれます。海外の研究から、妊娠高血圧症だった女性は、15年後に記憶力が低下する可能性があると報告されています。妊娠中の健康を考えるときに参考にするとよさそうです。
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600人中115人が発症
日本産科婦人科学会によると、妊娠高血圧症候群は妊婦のおよそ20人に1人の割合で起こる、珍しくはない健康の問題のひとつ。妊婦にとっては、全身の内臓への負担が大きくなり、赤ちゃんにとっても発育の問題を招くことがあります。妊娠中に血圧が高まったときには、早期に対処をするのが大切です。
今回、オランダと米国の研究グループが神経学の専門誌で報告した研究は、妊娠初期の女性600人弱について調べたものです。妊娠中およそ480人は正常血圧でしたが、115人は高血圧を発症しました。その30%はタンパク尿(尿中のタンパク質が増えてしまう症状)を伴う高血圧で、体への負担が心配される状態になっていました。
この研究ではさらに15年後に、対象者の思考や記憶の認知機能テスト(実行能力、処理速度、言語記憶、運動機能など)を実施。妊娠中に高血圧を発症したグループと発症しなかったグループとで結果を比較しました。
言葉面での記憶力に心配あり
そして、この追跡調査によりわかったのが、妊娠高血圧症を発症したグループは発症しなかったグループに比べて、「言語記憶」のテストの結果が悪くなっているということ。テストでは15個の言葉を覚えてもらい、その直後と20分後に思い出してもらうのですが、教育レベルや対象者の民族、妊娠前のBMIなど、認知機能に影響しそうな要素を考慮して分析したところ、妊娠高血圧症を発症したグループのほうが、直後と20分後の両方で思い出せる言葉の数が少ない結果でした。ほかの認知機能テスト結果には差は見られませんでした。
追跡研究ですから、妊娠高血圧症が原因だという因果関係は証明されません。関連性が見られたというにとどまります。また、妊娠前に思考・記憶テストを行っていないので、個人レベルでの変化を調べることはできません。
それでも「妊娠中に高血圧になると、長期的な影響を与える可能性もあることを知っておくとよい」と研究グループは指摘。そのうえで、高血圧の治療によってこの問題を予防できるかどうかを調べる研究が必要としています。
<参考文献>
妊娠高血圧症候群
http://www.jsog.or.jp/modules/diseases/index.php?content_id=6
HIGH BLOOD PRESSURE DURING PREGNANCY LINKED TO WORSE MEMORY 15 YEARS LATER
https://www.aan.com/PressRoom/Home/PressRelease/3846
Maria C ADANK, Rowina F HUSSAINALI, Lise C OOSTERVEER, M Arfan IKRAM, View ORCID ProfileEric AP STEEGERS, Eliza C MILLER, Sarah SCHALEKAMP-TIMMERMANS. Hypertensive disorders of pregnancy and cognitive impairment: A prospective cohort study. Neurology. First published December 30, 2020.
https://n.neurology.org/content/early/2020/12/30/WNL.0000000000011363