現在、日本では卵巣がんの検診が国の指針に基づく公共のがん検診としては行われていませんが、それは長年の研究努力にもかかわらず、検診によって死亡率が下がるという科学的な証拠がまだ確立されていないためです。そんななか、20年にわたり英国で行われてきた最新の定期検診の研究から、早期の検出率は上がったものの、残念ながらやはり死亡率は下がらなかったという結果が報告されました。
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検診の効果を検証
卵巣がんは初期にはほとんど症状がないため、多くが進行した状態で発見されます。そのため、生存率が低く(今回の研究報告によると、ステージ3または4の5年生存率13〜27%)、婦人科のがんでは最も生存率が低いのですが、ステージ1で発見されれば90%以上の生存率が期待できます。早期発見には信頼できる定期的な検診が有効といわれますが、検診で検出された場合のがん治療によって、そのがんを原因とする死亡率が下がるというたしかな証拠が必要になります。症状のない一般人を対象に検診を行うには特に重要な点です。卵巣がんの検診の場合には死亡率を下げられるという根拠が示されていません。
今回、ロンドン大学が主導する英国と米国からの研究グループは、卵巣がんの検査に使われている血液検査(腫瘍マーカーのCA125というタンパク質を調べる)と腰回りの超音波画像検査について、毎年検査を行った場合に卵巣がんによる死亡率が下がるかどうかを検証。国際的な医学誌『Lancet』で結果を報告しました。対象としたのは、卵巣がんの病歴や家族歴のない閉経後の女性20万人以上。血液検査と必要に応じて超音波検査を毎年受けるグループ、超音波検査のみを毎年受けるグループ、検査を受けないグループに無作為に分け、平均16年追跡して、卵巣がんの発生、検出率、死亡率などを比較しました。
ステージ1と2の検出は増加
こうして判明したのは、血液検査と超音波検査の併用グループも、超音波検査のみのグループも、定期検査なしのグループに比べた死亡率の減少にはつながらなかったということです。
細かく見ると、併用したグループは、定期検査なしのグループに比べて早期(ステージ1と2)卵巣がんを39%多く検出し、後期(ステージ3と4)卵巣がんの検出は10%少ない結果でした。検出された卵巣がんのステージに関して、超音波検査のみのグループは定期検査なしのグループと差はありませんでした。追跡およそ10年後の時点では、検診によって死亡率が下がったかどうかは不明だったものの、さらに5年後の時点で見ると、死亡率が下がらないとはっきり結論づけられました。
この結果を受けて、「一般の人向けにこれらの方法を使った卵巣がん定期検診は推奨できない」と研究グループは結論。命を救うには、よりよい検診方法が必要として、将来の有効な方法の確立に期待を寄せています。
もっとも、健康な人が受ける検診とは異なり、「症状がある人では早期発見が大きな意味をもつ」と研究グループは指摘。お腹が痛いなどのときには早めに医療機関に相談するのが重要です。進行した卵巣がんの治療がこの10年で大きく進歩していることも大きいといいます。
<参考文献>
がん予防重点健康教育及びがん検診実施のための指針(厚生労働省)
Screening for ovarian cancer did not reduce deaths
https://www.ucl.ac.uk/news/2021/may/screening-ovarian-cancer-did-not-reduce-deaths
Ovarian cancer population screening and mortality after long-term follow-up in the UK Collaborative Trial of Ovarian Cancer Screening (UKCTOCS): a randomised controlled trial
Menon, Usha et al.The Lancet.
https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(21)00731-5/fulltext