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コロナ太りで“糖尿病予備軍”が増えた?! 20代でも、やせ型でも、油断大敵!「血糖負債」を表すHbA1cを徹底解説
「血糖値」という言葉を聞いたことがある人は多いと思います。でも、自分の血糖の数値をしっかり認識している人は少ないのでは? じつは、“コロナ太り”などの影響で、若年層にもやせているのに血糖の数値が高く、「血糖負債」を抱える人が多くなっています。血糖負債がたまると、糖尿病を始め、体にさまざまな悪影響が出てきます。血糖負債は、どうやったら減らせる? 公益財団法人結核予防会理事・総合健診推進センター長の宮崎滋先生に、詳しくお話を伺いました。
Contents 目次
今すぐチェック! あなたも「血糖負債」を抱えているかも?
【チェックリスト】
□ご飯、パンなどの炭水化物が好きでよく食べる
□あめやチョコなどの甘いものをつい食べてしまう
□運動は週2回未満
□睡眠時間は7時間未満のことが多い
□ストレスを感じることが多い
□最近、疲れがとれにくいと感じる
□年齢の割に老けて見られる(年齢の割に小じわやくすみが目立ち、老けて見られる)
□肌荒れが気になる(ニキビや口内炎が治りにくくなったと感じる)
□PC作業や在宅ワークで、座っている時間が長い
□歩くことが嫌い
ひとつでも当てはまることがあれば、血糖負債を抱えているかもしれません。原因と対策をしっかり見ていきましょう。
血糖負債ってなに? そもそも血糖って?
血糖負債って、いったい何のこと? と思う人も多いかもしれません。血糖負債とは、長期にわたって、血糖値の高い状態が続いて、血糖の「負債」がたまっていることです。自覚症状が出ないため、気づかないまま進行して、健康をおびやかす大きなリスクになります。
「そもそも血糖とは何かというと、血液中のブドウ糖のことです。食べた食品に含まれる糖質が分解されてブドウ糖になりますが、そのブドウ糖が血液にとり込まれ、血糖になります。血糖値は、血液中のブドウ糖の量のことです。
健康な人であれば、血糖値は空腹時で90~100 mg/dl、食後は140 mg/dlぐらいまで上がります。しかし、膵臓から分泌されるインスリンというホルモンの働きによって、正常であれば90~140 mg/dlの間で収まるように、精密にコントロールされています」
血糖値は、採血前の食事の有無などによって変動するため、測定する瞬間の値のみを表します。長期的に見て血糖の状態がどのレベルにあるのかがはっきり判断できないため、近年は、HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)値が注目されています。
「HbA1cは、血液の赤血球中にあるヘモグロビンがブドウ糖と結合してできた『糖化ヘモグロビン』のこと。高血糖であるほどヘモグロビンと血糖がくっつき、なおかつ、高血糖である時間が長いほどHbA1cの量が増えます。ヘモグロビンは4か月ほどですべて入れ替わるため、HbA1cによって、採血時点から過去1~2か月間の平均的な血糖レベルがわかります。HbA1cの値が高い場合は、過去1~2か月間は、血糖の状態が高いレベルにあって、血糖負債がたまっている、と言うことができます。血糖値、HbA1cとも血液検査によって知ることができます」
コロナ太りが血糖負債を抱える一因に!?
新型コロナウイルス感染症の収束がなかなか見通せない中、「一般社団法人日本生活習慣病予防協会」が人間ドックや健康診断を受けた人を調べたところ、“コロナ太り”が多かったのは、20~40代の女性です。また、さまざまな世代に、血糖負債の指標となるHbA1c値の上昇がみられました。
「コロナ禍で、リモートワークになったり、自粛生活で家にこもるようになったことが影響していると思います。血糖負債は、生活習慣の積み重ねで増えていきます。リスク因子は、糖質の多い食事、運動不足などです。ひとりで家にいると、食事は、手軽に食べられることから、パスタや丼物など、糖質の多いものになりがち。周囲の目もないことから、ついつい間食をしてしまうことも。PC作業で座位の時間が長いことで、運動不足になっていることも考えられます。また、ストレスや睡眠不足、寝過ぎも血糖値を上げる要因になります」
血糖負債を抱えていると、どんなリスクがあるの? やせ型女性も要注意
血糖負債の何が問題かというと、「たまっていくと、もとに戻そうと思っても、なかなか戻すのが難しいこと」と宮崎先生は指摘します。血糖が高い状態がずっと続いていくことで、やがて糖尿病を発症するリスクがあります。
日本人間ドック学会では、HbA1cによる健康状態の判定として、下の表のように定めています。
「糖尿病は、インスリンの分泌量が減ったり、効き目が弱くなることで、血糖値が下がりにくくなる病気です。危険因子は肥満で、なかでも内臓脂肪型肥満がもっともハイリスクです。内臓脂肪から分泌される物質がインスリンの働きを妨げてしまうからです。」
糖尿病はこのように肥満と密接な関係があるため、なんとなく、太った中高年男性の病気というイメージがあるかもしれませんが、じつは、やせ型の女性や若い女性も糖尿病のリスクは高いと言われています。
「20~30代の女性でも、油断はできません。やせている人は脂肪も筋肉も少なく、血糖をエネルギーに変える場所が少ないため、高血糖になりやすく、血糖負債もたまりやすいといえます。食べものから摂取した血糖をエネルギーとして十分に活用できないため、疲れやすいといった症状がよく見られることも問題です」
糖尿病にならないまでも、血糖負債によって血管が傷つくため、将来的には心筋梗塞や脳梗塞などの脳・心血管障害、悪性腫瘍、認知症などを発症しやすくなります。
「HbA1c値が5.6%→5.7%→5.8%といった具合に、年々0.1%ずつでも高くなっているときは、血管へのダメージも少しずつ始まっているサインかもしれません」と、宮崎先生は注意を促します。
さらには、酸化ストレス、細胞老化も引き起こし、美容にもマイナス。オランダの調査では、「血糖値が高いほど、見た目よりも老けてみえる」と報告されています。また、韓国では、「血糖値を上げにくい食事をしたほうが、ニキビに悩む人が少なかった」という研究結果もあります。
原因がはっきりしない、疲れ、肌あれ、ニキビなどは、もしかしたら血糖負債が原因かもしれません。みなさんは大丈夫でしょうか?
やっぱり決め手は食事と運動! 今日から始める血糖負債解消メソッド
借金も利子がふくむと、返済が大変になるのと同じで、血糖負債も積み重なると、体への負担が蓄積して、あとから血糖をコントロールしても、健康トラブルに歯止めがかからなくなってしまうことがあります。「血糖値が高めとわかった時点で、血糖負債を減らすようにしましょう。また、血糖値に異常がない人は、血糖負債をためないようにすることが大切です」と宮崎先生は話します。
ここで、血糖負債をためない生活習慣のポイントを紹介します。
1.血糖の上昇を抑える食事をしよう
「太りすぎも、やせすぎもNGです。理想は、BMI22です。栄養バランスが整った食事を心がけましょう。摂取エネルギーが少ない人は、脂質や肉類などのたんぱく質もしっかりとるようにします」
その上で、血糖値の上昇を抑えるには、食べる順番が大切です。
「白米やパン、麺類などの糖質を最初に食べると、血糖が急激に上がります。さらに、インスリンの分泌が急激に増加して、血糖をエネルギーの脂肪に変えようと働くため、脂肪が増え、肥満につながります。食べる順番は、ベジタブルファーストで。繊維質の多い野菜や海藻、きのこ類を始めに食べて、糖質は最後に食べるようにすると、血糖値の上昇が抑えられます。パスタやチャーハン、丼物といった糖質が多い食事をするときは、必ず野菜の副菜をプラスします。野菜は、根菜や葉物野菜などで350グラムを目安にとりましょう」
無糖のヨーグルトや大豆、コーヒーなど、高めの血糖値を下げる効果が期待できるといわれる食品も、積極的にとり入れるようにしましょう。
「注意したいのは、スポーツ飲料の飲み過ぎ。糖分として、ブドウ糖が入っているため、体内に入ると、すぐに血糖値が上がってしまいます。運動もしないで水やお茶の代わりにこうしたドリンクを常時飲むのは控えるようにしましょう」
2.有酸素運動と筋トレを
「運動は、有酸素運動を1日20分間 、行うようにしましょう。ひとりでできるウォーキングやジョギングがおすすめです。食後30分後から1時間後に行うことが、血糖の上昇を抑えるコツです。筋トレも有効です。血糖をエネルギーに変える筋肉を増やすことは、インスリンの働きがよくなり、血糖の上昇が抑えられます」
運動は交感神経を優位にして、寝つきに影響するため、夜間に運動する場合は、20時までに終えるようにしましょう。
3.睡眠時間は7時間を目安に
「睡眠不足や寝過ぎは、高血糖による心臓病のリスクが高まる、といわれています。適度な睡眠は約7時間。これぐらいの時間を確保できるように、1日の行動を見直していきましょう」
4.ストレスをためない生活を
「ストレス状態で交感神経が優位な状態で分泌されるアドレナリンやコルチゾールには、血糖値を上げる作用があります。また、ストレス状態では、食欲を抑制するセロトニンの働きが弱くなるため、食べ過ぎにもつながります」
5.年に一度はヘルスチェックを
HbA1c値を知るには、血液検査を受けることです。1年に一度はチェックしましょう。糖尿病の疑いがない場合、一般の診療期間で検査を受けると、自由診療になるので、会社や自治体で行われる健康診断を利用しましょう。そこで糖尿病が疑われた場合、健診結果を持って医療機関を受診すれば、健康保険が使えます。
まずは自分のHbA1cをチェックし、血糖負債をためない生活習慣に切り替えていきましょう。
<PROFILE>
宮崎 滋
1971年、東京医科歯科大学医学部を卒業。東京逓信病院副院長、新山手病院・生活習慣病センター長などを経て、2015年、公益財団法人結核予防会理事・総合健診推進センター長に就任。専門は、糖尿病、肥満症。
主な著書に『健康ダイエット肥満が招く11の病を防ぐ (別冊NHKきょうの健康)』(NHK出版)、『糖尿病と上手につきあう最新医療と美味しい食事療法』(日東書院)など。
取材・文/海老根祐子 イラスト/中村奈々子