花粉症になってしまうと、鼻水・鼻づまり・くしゃみ・目のかゆみなどで、集中力や生産性が落ちるばかりか、症状が重いと倦怠感や不眠なども出てきます。そこで今回は、都会の人に花粉症が多いなどの都市伝説的な素朴な疑問を、医師の村上典子先生に伺いました。
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花粉症に備えるために知っておきたい素朴な疑問
花粉症を発症させない、あるいはこれ以上悪化させないために、花粉症のことを知るのはとても大事です。知ることで対策も見えてきます。
●田舎よりも都会の人のほうが、花粉症になる人が多いのはどうして?
スギの木が多い田舎よりも、都会のほうが花粉症になっている人の割合が多い印象があります。
「実際に都会の人に花粉症が多いのは、いくつか原因があります。まず、地面がアスファルトになって土が少なくなってきたことが大きな原因といわれています。スギなどの花粉は種を増やすため、もともと風に乗って遠くまで飛ぶようにできています。しかし、土のうえに花粉が落ちれば、土に吸着して再飛散することはありません。ところがアスファルトは、花粉を吸着しないので、風が吹けばまた再び飛び上がってしまうのです。そのため、田舎より都会のほうが花粉の量が多くなり、花粉症になりやすくなってしまうのです。
また、花粉は空気が乾燥していると飛びやすいです。とくに花粉がよく飛ぶ2月の東京や太平洋側は乾燥しがちです。湿度が高ければ、花粉は水分にくっついて下に落ちてしまうのですが、乾燥していると遠くまで飛んでしまいます。なので、室内で加湿器を使うのは花粉にとても有効です。
それから、PM2.5(微小粒子状物質)や黄砂などの大気汚染も原因のひとつです。花粉に大気汚染の汚染物質がくっつくことで、より抗原性が強くなり、花粉症を発症させやすくなるのです。そのため、大気汚染が深刻な都市部では、花粉症が発症しやすく、悪化しやすいといわれています。ですので、都会で暮らす人は、マスクをする、うがい・手洗いをするなどの対策が必要です」(村上先生)。
●花粉症になるのは日本人だけ?
環境省の調べでは、日本人の3人に1人がスギ花粉症と推定され、「国民病」ともいわれることも。では、海外に花粉症はあるのでしょうか?
「もちろん花粉症は海外にもあります。スギ花粉症は中国にも見られ、ヨーロッパ諸国ではイネ科花粉症、アメリカではブタクサ花粉症が多いといわれています。ただ、アフリカには花粉症が少ないといわれています。これは免疫の寛容の差があるのだと思います。簡単に説明すると、花粉という抗原に対して免疫反応が起こりにくい状態ということです。また、欧米人は花粉症になってもマスクをしません。マスクをすれば花粉の侵入を防げるのに、という発想がないのかもしれませんね(笑)」(村上先生)。
ちなみに、欧米人がマスクを嫌うのは諸説ありますが、相手の表情がわからなくなるから、もともとマスクをする習慣がないため違和感があるから、強盗やギャングを連想させるからなどと言われています。
●花粉症は遺伝するの?
親が花粉症の場合、子どもも花粉症になってしまうのでしょうか?
「じつは、アレルギー疾患は全部遺伝です。ただし、正確には“アレルギー疾患になりやすい体質”が遺伝するということです。また、先祖代々、花粉症がなくても、突然発症することもあります。遺伝子が突然変異して、自分が発症してしまったら、子どもにはその“アレルギー疾患になりやすい体質”が遺伝してしまいます。とはいえ、アレルギー疾患だけでなく、ご両親のいいところがほかにもたくさん遺伝されていることを覚えておいてください。そちらのほうが大切だと思います」(村上先生)。
●そもそも花粉症は一度発症したら治らないもの?
たまに花粉症が治ったという人がいますが、花粉症は治るものなのでしょうか?
「花粉症の治療には、耳鼻科的アプローチと、内科的アプローチがあります。耳鼻科的アプローチはいわゆるレーザー治療です。これは鼻の粘膜をレーザーで照射し、鼻づまりを解消させ、アレルゲンが生体内に入りづらくなるという治療法です。一方、内科的なアプローチは、内服薬とか点鼻、点眼などの局所療法のほか、免疫舌下療法というのがあります。これは、アレルゲンが配合された治療薬を毎日1錠ずつ1クール3年間続けるもので、体にアレルゲンを慣れさせて体質改善していくものです。この療法で、鼻水止めやくしゃみ止めなどのアレルギーを抑える薬を飲まなくても大丈夫になったという人は多いです。
人間の免疫の力は、一生の中でも強弱があります。とくに女性は妊娠すると免疫の寛容性が高まる(免疫の反応・働きが一時的に鈍くなる)ので、妊娠中は花粉症をあまり感じづらくなります。ただ、出産後にはまた元に戻ってしまいます。また、高齢になると免疫の強い反応が起こりにくくなるので、花粉症も感じにくくなります」(村上先生)。
花粉症は治るとわかれば、前向きに治療などに立ち向かえそうです。
次回は、花粉症になっている人はもちろん、なっていない人も必見の花粉症対策について伺います。
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取材・文/奥沢ナツ