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CATEGORY : ヘルスケア |女性ホルモン

<性教育YouTuberシオリーヌさんにインタビュー>助産師として働く中で感じた「日本の性教育の課題」

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シオリーヌさん

「性の話をもっと気軽にオープンに」をテーマに、2019年にYouTube配信をスタートさせたシオリーヌさん。生理用品や婦人科検診など、学校では教わらなかった性教育の知識をダイレクトに発信するスタイルが、幅広い年齢層に支持されています。そもそも助産師として働いていたシオリーヌさんがですが、性教育に関する情報発信を始めたきっかけはなんだったのでしょうか? 今回は、シオリーヌさんが性教育YouTuberの活動を始めた経緯と、「遅れている」と言われる日本の性教育の現状について伺いました。

監修 : シオリーヌ (助産師/性教育YouTuber)

株式会社Rine代表取締役。2014年に神奈川県立保健福祉大学助産師課程を卒業。その後、総合病院産婦人科での助産師として勤務する。2017年、精神科児童思春期病棟に看護師として入職。本業と並行しながら、性教育に関する情報発信や講演活動を始める。2019年、YouTubeチャンネルを開設し、性の知識を気軽に学べる動画を配信。精神科病院を退職し、性に関する知識の発信活動に力を注ぐ。著書に『CHOICE 自分で選びとるための「性」の知識』などがある。

Contents 目次

「大人でも性教育の知識が不足している」助産師としての気づきがスタート地点

シオリーヌさん

大学卒業後、助産師として産婦人科病棟に勤務し、出産時のサポートや生まれた赤ちゃんとお母さんのケアをしてきたシオリーヌさん。病院で出会う女性の多くが、自身の体や、ライフプランに関わる知識を得る機会がなく、妊娠、出産というできごとが自分に起きて初めて知識が不足していたことに気づく様子が印象に残っているそうです。

「本来、ライフプランに関わる知識は中高生の早い段階に得ることが重要で、その知識を生かすことでライフプランを選んでいくことができると感じます。しかし、現在の日本の性教育では、子どもたちには限定的な情報しか与えられていません。このことから、徐々に『性教育の情報発信』に関心が高まっていきました」(シオリーヌさん)

早い段階での性教育の大切さを実感していたシオリーヌさんが、「若い年代のサポートもできるようになりたい」という思いで、思春期保健相談士の資格を取得したのが2017
年のこと。その後、看護師として児童思春期病棟に勤務し、若い方々への心理的サポートをするためのコミュニケーションのとり方を学んだそうです。

そして2017年に、仕事の休日を活用して性教育の情報発信をスタート。徐々に活動の幅を広げ、「学校の授業で講義してほしい」という依頼も来るようになっていきました。その後、2019年にはYouTubeでの配信を始め、軌道に乗り始めたタイミングで病院を退職。「性」に関するYouTubeでの情報発信や講演活動、著書の執筆など「自分だからこそできること」に力を入れるようになったそうです。

「日本の助産師の専門性は、『出産と母乳育児のサポート』という認識が強いですが、私は『性教育』の分野でも専門性を大きく発揮できるだろうと考えています。例えば、スウェーデンでは、ユースクリニックという若い年代の方が受診する専門機関があり、そこでは助産師が『性に関する専門家』として力を発揮しています。

私が看護学科の学生だった頃、先生方から『助産師は人の一生を横で伴走する専門職』だと教えられてきました。妊娠・出産のみに留まらず、その専門性を幅広い世代に向けて発揮できたらいいなと感じています」

中学生になっても「妊娠プロセス」を教えない。日本の性教育の遅れに疑問

日本の性教育への遅れについて、シオリーヌさんは「海外と国内の基準を見れば明確」だと話します。

「ユネスコなどの国際機関から発表された『国際セクシュアリティ教育ガイダンス』。国際的な性教育の指針となるこの教育ガイダンスには、5〜8歳の小学校低学年の子どもに対して、具体的な妊娠プロセスを伝えることが学習目標として記されています。つまり、性行為というプロセスを通じて、精子と卵子が結合して妊娠につながるということをきちんと伝えるように書かれているのです。

対して、日本の文部科学省が定めている『学習指導要領』の中学校の保健分野では、妊娠出産に関してとり扱う際、『受精』や『妊娠』について扱いますが、『性行為についてはとり扱わないものとする』という規定が設けられています。この歯止め規定があるために、中学生に対しても『妊娠はどのように起きるのか』という、具体的なプロセスを説明しないことになっているのです」

シオリーヌさんサムネイル

「性交同意年齢」とは、性的行為に対して「意思決定ができるとされる年齢」を示し、13歳を越えていたら、自分の責任で性行為をするのかしないのかを決める能力があるとみなされているのが日本の現状。義務教育の中では性行為についての知識を十分に提供できる環境がないのに、「判断は自己責任で」とみなされてしまう現状に、矛盾を感じざるを得ません。

「今の自分がどんな行動を選択するかを自分で決めていくのは、私たち1人ひとりが生まれ持っている大切な権利です。しかし自分のことを決めるためにはベースとなる知識が欠かせません。例えば、中高生でパートナーや誰かから性行為を持ちかけられたとき、性行為の知識がまったくなく、自分にどのような影響を与える行為かを知らなかったとしたらどうでしょう。『したい』のか、『したくない』のか、今の自分はどんな行動を取りたいのかというその判断すらするのが難しいはずです。自分の人生、自分の納得のいくように選んで決めていくためには、性教育への学びは必要不可欠だと言えるのではないでしょうか」

YouTubeを始めて4年。視聴者の反応にも変化

YouTubeサムネイル

現在420本以上の動画を配信しているシオリーヌさんのYouTubeチャンネルは、高校生や大学生などの若い方々も多く視聴しているそうです。中でも、性教育ドラマ「ユースクリニックへようこそ」の動画は、授業の教材として活用した学校もあり、先生方の性教育への関心の高さも伺えます。

YouTube配信を始めた当初は、物珍しさからくる反応が多かったそうですが、最近では「大切な情報ですね」というコメントが増え、「性教育=重要」という見方に世間が変わってきたことを感じているそうです。

「『生理がつらいけど、病院にいくべきか迷ってしまう』とか、『自分の子どもに性教育を教えたいけど、どう伝えたらいいかわからない』など、世代ごとにさまざまな悩みを抱えています。どの世代の方にも必要な情報を、社会の中で当たり前に話していける文化を作っていくことに貢献したいという思いを込めて、今後も情報発信を続けていきたいです」

取材・文/佐藤有香

 

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