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CATEGORY : ヘルスケア |女性ホルモン

長引く痛みを伴う出産時の傷と便失禁の問題。海外研究が示す深刻度とその解決策は?

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乳児と母親

出産が大変な出来事であるのはいうまでもありませんが、特に経膣分娩では、赤ちゃんの大きな頭や体が骨盤内の臓器や周囲の筋肉を押し広げて通過していくため、組織にダメージを与えることがあります。ほとんどの女性は1か月くらいで回復しますが、海外研究では、特に肛門括約筋が傷ついて修復が不十分な場合、なんと20年後まで影響が続くという報告がありました。出産前の予防につながる工夫が求められているようです。

監修 : 星 良孝 <ステラ・メディックス>

ステラ・メディックス代表取締役社長 獣医師/ジャーナリスト
専門分野特化型のコンテンツ創出を事業として、医療や健康、食品、美容、アニマルヘルスの領域の執筆・編集・審査監修を担っている。東京大学農学部獣医学課程を卒業後、日本経済新聞社グループの日経BP社において「日経メディカル」「日経バイオテク」「日経ビジネス」の編集者、記者を務めた後、医療ポータルサイト最大手のエムスリーなどを経て、2017年に会社設立。YouTubeステラチャンネルでもヘルスケアの話題を発信。
YouTube:https://youtube.com/@stellach

Contents 目次

経膣出産2回の人で調査

出産

赤ちゃんが膣から出てくるときに肛門括約筋が傷ついてしまう症状は経膣分娩による肛門括約筋損傷と呼ばれ、便やガスの失禁の原因になります。目に見える損傷であれば、縫合などの処置で修復されますが、超音波検査で調べない限りわからない場合も多く、原因不明のまま便失禁が長く続くことになりかねません。

どれくらいの割合でこの症状が発生しているのか、残念ながら日本でのデータはありませんが、今回の報告を行ったスウェーデン・ヨーテボリ大学の研究グループによると、スウェーデンでは初産の女性の4.5%、2回以上出産経験のある女性の1%で見られるそうです。

この研究グループは、2回の経膣での出産経験者で肛門括約筋の損傷がなかった人と比べて、損傷が1回または2回あった人は、便失禁の発症率が2倍または3倍以上になるという研究結果を以前に報告しています。

今回は同じデータを使って、特に便失禁の重症度と日常生活への影響を比較しました。データとしては、スウェーデンの出産記録などから1987〜2000年の間に2回経膣出産した女性1万1000人以上をランダムに選択し(出産時に肛門括約筋の損傷が1回あった人と2回あった人、それぞれおよそ350人を含む)、郵便やインターネットを利用しておよそ20年後の便失禁の状況やリスク、日常生活への影響などを調べています。

損傷が多いほど重症化

痛み

こうして研究から判明したのが、2回の経膣出産からおよそ20年後、出産時に肛門括約筋の損傷が1回または2回あると、累積的に便失禁の症状が重くなり、日常生活への影響も大きくなることです。

具体的に見ると、全体的に気になるレベルの便失禁が見られた人の割合は、損傷がなかった人で3.3%、損傷が1回の人で10.4%、2回の人では16.5%でした。さらに詳しく液状の便失禁を例にとると、損傷がなかった人では高頻度(月に2回以上)が2.7%、低頻度(月に1回以下)も合わせると10.8%だったのに対して、損傷が1回の人はそれぞれ6.4%と21.7%、2回の人では10.5%と34.9%と増えていました。

日常生活への影響も同じように増加し、影響があると答えた人の割合は、損傷がなかった人で8.6%、損傷が1回の人で19.7%、2回の人では29.6%と、およそ10人に3人の割合でした。

研究グループは、経膣での出産の際の肛門括約筋損傷をできるだけ避けることが最も大切だと指摘しています。このような情報を共有し、出産前にリスクや最良の回避方法を考えるほか、出産後1か月以上便失禁が続くときには医療機関に相談するとよいようです。

<参考文献>

Decades-long suffering from obstetric injuries
https://www.gu.se/en/news/decades-long-suffering-from-obstetric-injuries

Nilsson IEK, Åkervall S, Molin M, Milsom I, Gyhagen M. Severity and impact of accidental bowel leakage two decades after no, one, or two sphincter injuries. Am J Obstet Gynecol. 2022 Dec 10:S0002-9378(22)02269-4. doi: 10.1016/j.ajog.2022.11.1312. Epub ahead of print. PMID: 36513133.
https://www.ajog.org/article/S0002-9378(22)02269-4/fulltext

Nilsson IEK, Åkervall S, Molin M, Milsom I, Gyhagen M. Symptoms of fecal incontinence two decades after no, one, or two obstetrical anal sphincter injuries. Am J Obstet Gynecol. 2021 Mar;224(3):276.e1-276.e23. doi: 10.1016/j.ajog.2020.08.051. Epub 2020 Aug 21. PMID: 32835724.
https://www.ajog.org/article/S0002-9378(20)30879-6/fulltext

出産後の便失禁
https://www.coloproctology.gr.jp/modules/citizen/index.php?content_id=20

日本大 腸 肛 門 病 会誌 56:325-332, 2003
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoloproctology1967/56/7/56_7_325/_pdf

日本助産学会研究助成金(委託研究助成)研究報告書
https://www.jyosan.jp/uploads/files/award/jam_itakukenkyu_hotta.pdf

 

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