以前お伝えしたように運動不足によって免疫は下がってしまうため、運動は立派な“免活”に。しかし、場合によっては運動で免疫力を下げてしまうこともあります。今回は小林弘幸先生の『名医が教える 免疫力が上がる習慣』から、免疫力と運動の関係についてご紹介していきます。
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免疫力を下げる運動とは?
運動すると免疫力が上がるといって、どんな運動でもいいかというとそういうわけではありません。
「どんな運動が免疫力を下げるのかというと、マラソンやハードな筋力トレーニングなど、体がヘトヘトになってしまう運動です。特に体力に自信のある人だと、“運動は免疫力を上げる”と聞くと、がぜんやりすぎるところがあります。アスリートは病気に負けないイメージがありますが、トレーニング直後のアスリートの免疫力はかなり弱っていて、運動にともなう急性上気道感染症(風邪症候群)のリスクについての調査によると、高頻度・長時間のトレーニングを行っているランナーは、ほとんど運動してない人と同じくらいリスクが高いことがわかりました」(小林先生)
運動はよくてもハードな運動は逆効果。激しい運動で免疫力が低下するのは、交感神経が刺激されて、リンパ球が激減するため。
「特に自然免疫チームのエースであるNK細胞は極端に少なくなります。さらに、ウィルスが感染した細胞を見つけ出し、破壊するキラーT細胞が少なくなることもわかっています。つまり、激しい運動のあとは病原体を攻撃する強力な武器を失ってしまうことになるのです」
免疫によい運動とは?
それではどんな運動なら免疫力を高めてくれるのでしょうか。
「免疫力を高めるためには適度な運動が必要です。免疫システムはストレスに弱いので、できるだけ疲労を残さない、筋肉痛を起こさないような運動になります。生活習慣病予防を目的とした有酸素運動は息切れしない状態が適度な運動とされていますが、免疫力を上げる運動もそれくらいのレベルになります」
“免活”ウォークの目安は厚生労働省が推奨する運動量から、具体的には息が弾み汗をかく程度の運動(3.8メッツ)を30分間、週に2回行います。
メッツというのは運動強度の指標で、対象となる運動の強度が安静にしているときの何倍に相当するかで表す単位です。安静にしているときが1メッツ、散歩のようにふつうに歩くのが3メッツになります。そして散歩1時間の運動強度を3×1=3エクササイズ(メッツ・時)と表します。
自律神経を整えて免疫力を上げる免活ストレッチ
免疫力アップのためには、ウォーキングやスクワットのように筋肉に刺激を与える方法もありますが、筋肉をゆるめるという方法も効果的です。
「筋肉をゆるめて副交感神経を優位に導くことで免疫力を上げるのが狙いです。副交感神経を優位に導くにはコツがあり、肺を大きくすることで息を吸い込む胸式呼吸よりも、息を吸ったときに下腹部がふくらみ、吐いたときに下腹部がへこむ腹式呼吸を行うことです。腹式呼吸で深い呼吸ができるようになると、ストレスがかかって交感神経が優位になったときに、いつでも副交感神経にスイッチして心を落ち着かせることができるようになります」
慣れると簡単にできるようになりますが、慣れるまでは次の2つを忘れないようにしてください。
1.腹式呼吸は息を吐ききることから始める
2.お腹に手を当てて、ふくらみを感じながら呼吸する
おやすみ前にはこちらの『免活おやすみストレッチ』も行ってみましょう。
(1)リラックスした状態であお向けになり、お腹の上に両手のひらを置く。口からゆっくり息を吐き出し、吐き切ったら、4秒間、鼻から息を吸い込む。同時に足首を手前にぐっと曲げる。
(2)8秒間、口から息を吐く。同時に足首を元の位置に戻す。伸びていたふくらはぎの力が抜けていくのを感じることができればOK。(1)(2)をくり返し、約1分続けましょう。
適度な運動をこまめに行い、免疫を活性化させましょう。
文/庄司真紀
参考書籍/
『名医が教える 免疫力が上がる習慣』(アスコム)
著者/小林弘幸
こばやし・ひろゆき 順天堂大学医学部教授。日本スポーツ協会公認スポーツドクター。1960年、埼玉県生まれ。87年、順天堂大学医学部卒業。92年、同大学大学院医学研究科修了。順天堂大学に日本初の便秘外来を開設した「腸のスペシャリスト」。さらに、腸と密接なかかわりをもつ、自律神経研究の第一人者として、プロスポーツ選手、アーティスト、文化人へのコンディショニング、パフォーマンス向上指導にかかわる。『医者が考案した「長生きみそ汁」』(アスコム)などベストセラー多数。「世界一受けたい授業」(日本テレビ)などメディアにも多く出演している。
監修者/玉谷卓也
たまたに・たくや 薬学博士。日本免疫学会評議員。順天堂大学非常勤講師。創建協会取締役。1988年、筑波大学医科学修士課程修了。2008年に順天堂大学医学部客員教授に就任。2020年、任期満了に伴い現職。この間、武田薬品工業、ソニー、エムスリーにも兼務。主な専門領域は、免疫学、炎症学、腫瘍学、臨床遺伝学。20年以上、免疫、がん、線維症、アレルギー、動脈硬化などの研究に従事。