睡眠不足が日常の生活にもたらす影響は少なくありません。眠いときには、私たちの集中力は落ち、頭や体の反応は鈍くなりがちです。そんな状態で仕事やプライベートでの重要な決定を下すと、思わぬ問題を引き起こす可能性もあります。このたび海外研究において、睡眠不足の人はふだんよりも自分の行動の結果に対し無頓着になりやすいことが報告されました。重要な決断は十分な睡眠をとったあとにするのが賢明といえそうです。
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一晩眠らなかったときの脳の反応
就職や転職、引越し、結婚など、私たちは日常生活で重要な決定を下すことがたびたびあります。このような決断をするときには、注意力や記憶力、合理的な判断など、さまざまなタイプの認知機能が関わっています。認知機能が正常に働くことで、よりよい決定をすることができると考えられます。では、睡眠不足のときはどうなのでしょうか?
今回、ペンシルベニア大学をはじめとする米国と中国の研究グループは、脳のMRI撮影も行いながら、睡眠不足が認知機能にどのような影響を及ぼすのかを調べました。対象としたのは健康な成人56人で、彼らには研究室で5日間、厳密に管理された環境で生活してもらい、テストに参加してもらいました。このテストでは、徹夜したあととふつうに睡眠をとったあとの2つの状況であるゲームをしてもらい、その結果を比較しています。
このゲームは、参加者がコンピューター画面上に示された風船を、ボタンを押して膨らませていくという内容です。ボタンを押すたびに風船は膨らみますが、破裂するリスクが高まります。ただし、膨らむと同時に受けとる賞金の額も上がり、押すのをやめた時点で賞金がもらえます。風船が破裂した場合は賞金をもらえませんから、どこでやめるかの決定がポイントになります。研究グループは参加者のテスト中に脳のMRI撮影を行い、脳内の神経活動を調べました。
徹夜後は失敗に無頓着になりがち
こうして研究で明らかになったのは、徹夜したあとには、ふつうに睡眠をとったときと比べて、リスクに鈍感になる傾向が見られることです。それは誤った判断につながる恐れを示しますから、注意が必要といえそうです。
具体的にMRIで脳の活動を見ると、賞金を獲得したとき、および風船が破裂したときには脳の異なる部位が反応するのですが、睡眠不足の状態ではこれらの部位の活動が低下していました。徹夜により、成功や失敗といった結果に対する脳の反応が通常よりも弱まっていたわけです。
この研究から睡眠不足だと通常、脳の働きと行動との間に成り立っている関係性が損なわれる可能性があると、研究グループは推測しています。たとえば、認知機能が正常なときであれば、起こり得るリスクを十分に考えられるのに、睡眠不足のときはそれを顧みずにとり返しのつかない決定をしてしまう状況も想定されます。あとで後悔することのないよう、睡眠不足のときは重大な決定を避けて、十分に睡眠をとったうえで判断するのがよさそうです。
<参考文献>
Pulling an all-nighter? Don’t follow with an important decision
https://www.uottawa.ca/about-us/media/news-all/pulling-all-nighter-dont-follow-important-decision
Mao T, Fang Z, Chai Y, Deng Y, Rao J, Quan P, Goel N, Basner M, Guo B, Dinges DF, Liu J, Detre JA, Rao H. Sleep deprivation attenuates neural responses to outcomes from risky decision-making. Psychophysiology. 2023 Oct 31:e14465. doi: 10.1111/psyp.14465. Epub ahead of print. PMID: 37905305.
https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/psyp.14465